『よーい、スタート』


白石を乗せた人力車と私を乗せた手押し車が同時にスタートする。





「お嬢。落ちないように、

 しっかり掴まっていろよ」





「ギャー、赤井。

 もっと滑らかに走ってくれませんか?

 ガタガタして、お尻が割れそうです」


「お嬢、安心しろ。

 もともと尻は割れている」





白石を乗せた人力車はぐんぐんと差をつけて、次の関門、大網潜りに着いた。



白石と青田が大網を潜り終え、次の関門、平均台へ向かう頃、私と赤井もようやく大網に到着した。





「お嬢、早く網を潜れ」





「うん。……あれ?

 赤井、網から出られない」





「何をしているんだ? お嬢」


「出口付近が引っ掛かっているのですよ」





網の出口を見ると、青田が網を踏んで出口付近を押さえていた。



その間に白石が平均台を渡り終えて次の関門へと向かう。





「卑怯ですよ! 青田ッ!」





「アハハハハ!」





青田は白石が次の関門へ到着したのを見計らって、大網から離れ、走り去った。


「赤井。

 大人はいつから心が汚れてゆくのでしょうか?」





「安心しろ、お嬢。

 青田君は、
 もともと心が汚れている」





「そうでした」





やはり青田を本気にさせてはならなかった。

汚れた大人の恐ろしさを改めて思い知る。



白石は、次の関門の大玉を転がしながら白い紙をばら蒔いていた。





「……? 白石……、

 何をしているんだろう?」


平均台を渡り、大玉転がしへ向かう。

赤井と協力しながら大玉を転がしていると、ふと、白石がばら蒔いていた白い紙が目に入った。





「ギャー!

 これ、私が書いた暗黒ポエムの

 コピーじゃないですかッ!

 赤井、
 拾うのを手伝ってください」





「そんな事をしていたら

 白石君と青田君に離されていく。

 お嬢、諦めろ」





「無理です。

 全ての暗黒ポエムを回収するまで

 動きませんから!

 ……ん?

 暗黒ポエムではないものも落ちていますね」


「どれ? 見せてみろ。

 うわっ!

 これ、俺がバンド用に作詞して

 ボツになった歌詞じゃないか!」





「薔薇色のマイスイートエンジェル?

 ウッカリ恋してアッサリ振られて

 ガッカリのスクールライフ?」





「お嬢、読むなー!

 全て拾い尽くせー!」





私と赤井が暗黒歴史を広い集めている頃、白石と青田は最終関門に差し掛かっていた。





「大人って汚い……。汚すぎます」


「お嬢。
 大人が汚いんじゃなくて、

 白石君達が汚いんだ」




「そうでした」





何とか回収し終え最終関門に辿り着くと、仁王立ちのまま微動だにしない白石の姿があった。





「ん? 白石、
 どうしたんだろう?」





「お嬢。これが白石君の弱点だ。

 バットに敷き詰められた粉の中から手を使わず飴玉を探し出さなければならないが、白石君、粉まみれになりたくないから何も出来ずにいる。今がチャンス!」

「なるほど」





私と赤井は顔中粉まみれになりながら飴玉を探し出し、無事ゴールした。



フフッ。人選ミスでしたね。

これで一勝一敗。



最終種目、騎馬戦に勝利して、

何とか黒川達の要求を阻止しなければ!





「お嬢。

 騎馬戦は俺たちが馬になるから、

 お嬢が大将をやってくれ。

 敵チームは体格的に学長を大将にしてくるはずだから、上手く隙をつけば絶対勝てる」


赤井が作戦を練る。



その真剣な表情はとても凛々しく、

少し格好良く見えた。





「う、うん。やってみる」





頭に鉢巻きをしめてスタートラインにつき、

敵チームと対面した。





「え? 黒川?」





敵の大将は黒川だ。



何で?

体格的にも年齢的にも、普通、学長を大将にしてあげませんか?



図体の大きい黒川がヨボヨボ爺さんの学長の背中に乗って、まるで家老をこき使う殿様のようだ。



しかも黒川、鉢巻きではなく赤白帽をかぶっている。



しっかりアゴ紐をしめているので、簡単に取れそうにない。



「あ……、赤井。

 黒川がかなり本気モードのようですよ」





「ああ、そうだな。

 黒川君は背が高いから、真正面から

 戦いを挑んでも勝ち目はない」


「どうするの? 黒川が怖い」





「これは学長を狙うしかないね」





今まで無言だった桃が急に口を開いた。



「狙うって……。

 学長を殴るのですか?」





「そんな事をしたら、反則どころか

 下手すれば退学だよ。

 学長は爺さんなうえ、

 黒川君を背負っているのでかなりの

 体力を消耗するはず。

 学長が疲れて騎馬が崩れるまで逃げ回ろう」

「なるほど」





黒川が不敵な笑みを浮かべている。



……滅茶苦茶怖い。

いや。
赤白帽をかぶっているから少し笑える。





『よーい、スタート』





「逃っげろー!」





逃げる生徒チームの騎馬と、

追う学園チームの騎馬。



もはや騎馬ではなく、乗馬だ。

「ヒィ!

 赤井、黒川が迫ってきていますよ!」



「くそう。

 あの爺さん、かなりスタミナがあるな」





次第に山田のスピードが落ちていく。





「山田、どうした?」



「み……、皆、俺はもう駄目だ。

 俺を置いて先に行ってくれ……」



「山田、何を言っているの?

 格好いいセリフを言ったつもりかもしれないけれど、全然格好良くないからね!

 走れ、走るんだ、山田ー!」


山田の足がガクンと崩れ、騎馬が分解。



私はそのまま落馬し、

黒川に挑むことなく試合終了。





山田……。



使えぬ男よ。

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