『カタカタカタ……』





「ん? 何の音だ?」



黒川が白米を食べる手を止め、
辺りを見回す。



……ハッ!

隣の席の赤井が武者震いをしている。





「赤井君、具合が悪いのですか?」



「い、イヤー。
 な、何でもないよ。な? ど嬢」





私に振ってくるな、赤井。



「赤井。
 熱でもあるのではないですか?

 自分の部屋で少し休んできたら
 どうです?

 ヘコッ」





赤井、切り捨てご免。



もはやお前に用はない。



むしろ邪魔になるから、
黙って退場しろ。





「だ、大丈夫だ。

 何があっても俺はド嬢の味方だぜ」





何で皆の前で言っちゃうの?


それにずっとスルーしていたけれど、

私はドジョウではありませんっちゅーねん!

ヘコッ。





「味方?」





ほらほら。

早速ラスボス白石が反応してきたよ。





「あッ、皆さん。

 今日は『母でゲス』の最終回の日ですよ。

 うー。オッサンの返事が気になりますねー。

 ヘコッ」





「うん。

 ボクは蟹山ポリスとコモリゲちゃんが

 くっつくと思う」




桃が話に乗ってくれた。

チャンス!





「うんうん。

 蟹山ポリス、体を張っていたもんね。

 ヘコッ」





「コモリゲちゃんは

 最後にドラム師匠を選ぶだろう。

 それよりお嬢、

 さっきからヘコヘコうるせーな。

 食事中にふざけているのか?」





「黒川、気にしないで。

 ただのシャックリですから。

 さあ『母でゲス』の話に戻りましょう。

 ヘコッ」


赤井の前で泣き真似するため、

横隔膜を刺激しすぎたようだ。

ヘック。





「それにしても、

 ゲス母さんが第一話で『女優になる』

 と宣言し、出て行ったままなのが

 気になりますね。

 最終話で、女優を諦めて

 戻って来るのでしょうか?」





「そ、そんな……。

 諦めちゃ駄目だ!

 ドリームズ・カム・トゥルー!」





赤井が立ち上がった。



もうコイツ、
邪魔な存在でしかないよね。

ヘコッ。


「いえ。

 ゲス母さんはゲスだから

 ゲス母さんなのです。

 それよりロマンス竹野内は

 木星へ戻れるのでしょうか?

 ヘコッ」





「僕がロマンス竹野内の立場だったら、

 戻らないな。

 畳表のヨッチャンを泣かせてしまうからね」





「青田君。

 畳表のヨッチャンは悪人ですよ?」





良い感じに話が展開してきた。

チャンス!


「ハイハイハイハイ!

 ご歓談中、失礼しますよ。ヘコッ」





私は立ち上がり、手を叩いた。





「歓談も何も、

 お嬢が勝手に振ってきた話題でしょう」





「シャラーップ、白石。

 今から私が大変重要な事を

 申し上げますので、

 静かにしてくださーい。ヘコッ」





「ヘコヘコ言っている方が
 うるさいけどな」

「はーい。

 黒川、黙ってくださーい。ヘック」





「大変重要なということは……。

 今日戻ってきたテストの点数ですよね?

 よくあんな点数を皆の前で発表出来ますね」





「ちょっ……、ちょっと白石サン。

 何故テストの事を知っているのですか?」





突然の衝撃に、

シャックリが止まった。





「担任ですから」

「担任でも言って良いことと

 悪いことがありますよ?

 個人情報保護法をご存じですか?」





「お嬢こそ知っているのですか?」





「し……、知っていますよ?」





「では説明してみてください」





しまった!



素っ裸でラスボスに突っ込んでしまった。





「知りませんでした。ギャフン」

「……で、その答案用紙は何処にある」





わー。

黒川がラスボスに進化中だ。





「く、黒川様の枕の下に敷いておきました」





「お前、何でもかんでも

 俺の枕の下に敷くの、止めろよ。

 毎回夢見が悪いだろう?

 この間枕の下に敷いていた『のしイカ』。

 あれは嫌がらせか?」





「いえ。あれはあの日、

 黒川を滅茶苦茶怒らせてしまったから、お詫びに敷いておいたのです」


「枕にイカの臭いが染み付いて、

 朝まで眠れなかったぞ」





「それは災難でしたね」





「まあ、旨かったけどな」





「でしょう?

 あの『のしイカ』滅茶苦茶美味でしょう?

 黒川にプレゼントするため、

 泣きながら食べるのを我慢したのですよ?」





「泣くほどだったのか……。

 半分で良かったのに」

「ちょっとちょっと!

 のしイカの話、いつまで続くの?」





桃の突っ込みに、

私と黒川は我に返った。





「そ、そうだぞ、お嬢。

 アレにアレを貰うんだろう?」





わー。

また赤井が入ってきた。



邪魔するなー。





「テスト以外で重要な事って、

 何なのですか?」


「黒川様、白石様。

 こちらにサインをお願いします」





「何だ? これは」





黒川が演劇部の入部届けを手に取る。





「お前、正月に『応援団に入る』と

 言っていなかったか?」





「そんな事、言っていません」


「いえ。確かに言っていました。

 そして部活の経費として、

 俺と黒川君から金を巻き上げていました。

 約束を守れないのなら、

 あの時の金を返してください」



「そ、そんなの

 とっくに使いきってしまって

 もうありませんよ」



「では、詐欺罪で刑務所送りですね」



「エッ?

 刑務所に入らなくてはならないの?

 応援団に入らないだけで?

 嫌だー! 何年入るのですか?」





「手口が悪質過ぎますから、

 五年程度ですかね?」


「ご、五年!

 模範囚として頑張れば、

 ギリギリ成人式に出席できますか?」





「お嬢。そんな所で頑張らなくても、

 素直に応援団に入ればいいんじゃないかな」





青田の助け船。





「し、白石。

 今から応援団に入れば、刑務所行きは

 免れますか?」





「今からも何も、

 もう入団届けは提出しています」


「え?

 何で入団届けを白石が持っていたのですか?」





「担任ですから」



「また勝手な事をして!

 どうしていつも私の意思を無視して

 勝手に決めてしまうのですかァァァー!」





「またお嬢が暴れだした。

 誰か縄を! 甘いものをー!」





いつも甘いもので私が黙ると思うなー!

うがー!

pagetop