2022年
6月10日(金)
11:52
はーっ
結構日が高くなってきたね!
気持ちいい……!
……そ、それであの、
訊きたいことって……?
えへへ。
どっから説明したらいいかな……
説明?
うん、私が変だなって思うところ全部。
順番に訊いてってもいい?
いいわよ。
じゃ、まず一番気になるところから。
ミヤちゃん、プールの鍵持ってるよね?
えっ……!
ううん、プールと言わず
大体の鍵を持ってる。
プールの鍵は鎖と南京錠だから、触ると
音がするでしょ。
最初に行って、開いてないから出ようって
背を向けた時にかすかに鎖の擦れる音が
したの。
だから、開けたなって思って。
それで、視聴覚室に行ったあと
プールに急ごう!って言って
ミヤちゃんを走らせたの。
ポケットの中の鍵、音抑えるのが
大変だったでしょ。
息切れてなかったのはそのせいだよね。
な……
何を言っているの……?
ん?
ちゃんと裏付けはあるんだよ。
学校をほとんど休みがちの人が、
体育館の中に倉庫があるだとか
職員室の中に鍵の貸し棚があるだとかを
知ってるわけないじゃない。
朝貸し棚から鍵を抜いて、
全部の教室を調べたんでしょ?
それで体育館にいく途中、
私に会ってしまった。
だから一緒に図書室に行くことにした……
図書室に用事があるっていうのも、
正門を誰か知らない人に
開けてもらったって言うのも、嘘。
そんな、偶然よ。
私はただ――……
ほら、またそうやって知らんぷりする。
何回目かな、それ。
……っ
倉庫で埃っぽいから出る、って
言ったときも、
シャワールームでも、
そのあとプールを調べようか?って
なったときもそうだったよね。
プール、あからさまに濁ってたのに
無視するんだもん。びっくりしちゃった。
言わないで振り回してたのは私だけど、
この調べ回ってるのってほんとに
意味ないんだなあって。
……
ごめんなさい……。
でも、正直に伝えるには順序があって……
うん、わかるよ。
だから私も話してるの。
気付く力があるんだってこと。
たぶん、今までよりもずっと。
……えっ、
上を見て。
太陽、ほとんど真上にあるでしょ?
今は6月で、気温も風も
この時期のものなのに、
太陽だけなんか真夏みたい。
さっきミヤちゃんが倉庫から出ようって
言って来た時に、変だなって思ったんだ。
ここは現実?
本当に実在する?
もしかしたら、
学校だけ外から隔離されてる……?
って。
……!
……うん。
それにね、ミヤちゃん。
本当はこんなのおかしいんだよ。
私、あなたに話しかけたのは
今日が初めてなのに。
……妙な記憶がたくさんあるの。
プールサイドで転んで濁った水に落ちたり、
シャワールームで滑って手首を挫いたり……
だから転ばないよう注意したの。
あなたと小説や名前について
話し合ったこともあった。
ねえ……教えてよ
高宮 雅(たかみや みやび)。
いったいここが何なのか。
いったい今はいつなのか。
いったい今日は、何回目なのか。
少なくとも今日はこの……
6月10日じゃないんでしょう?
2022年
6月10日(金)
11:52
……
ええ。わかったわ。
あなたはすごい。
今までの滝沢多岐よりもずっと。
……そうね、
探偵向き……なのかもしれないわ。
いいわ。話しましょう。
それにはまず、携帯の電源を
切ってちょうだい。
私達の猶予は、
あと6時間しかない――……