幽霊密室殺人事件!その3

タツ

この謎の真実、それは——

スミレ

……

ジョン

……

スピルバーグ

……

タツ

それを話す前に、ちょっと状況を整理しましょう

タツ

ドンベエさんは密室で刺されていた

タツ

ドンベエさんは幽霊で、幽霊は人にもモノにも触ることは出来ない

タツ

でも、そう考えると、おかしいですよね?
ドンベエさんはどうやって服を着ているんでしょうか?

スピルバーグ

……

スミレ

あ、確かに!

ジョン

死んだときに着てた服が、そのまま幽霊にも反映されるんじゃねえか?

タツ

うん、僕もそうだと思うよ。そして、おそらくそれは、衣服だけじゃなく、死んだときに関わったモノ全般に言えることなんだと思う

タツ

ところで、スピルバーグさん、ドンベエさんはこの部屋の地縛霊だと、おっしゃいましたね?

スピルバーグ

ええ、そうよ

タツ

彼に刺さっていた包丁、あなたが借りる以前から元々この部屋にあったものではないですか?

スピルバーグ

……

スミレ

あ、あの

スピルバーグ

……ええ、その通りよ

ジョン

なるほどな。あの包丁はもともとドンベエと関わりがあった。だから、刺さるってわけか

タツ

その通りだよ、ジョン

スミレ

ま、待ってください! それじゃあ、刺した犯人は!?

タツ

さぁ? そこまでは僕にはわからないよ

スミレ

殺した動機は!?

タツ

そんなのもわかりっこないって

スミレ

だ、ダメダメじゃないですか! 犯人も動機も不明なんて……それじゃあ、まだなにもわかってないじゃないですか!?

タツ

ちゃんと、この事件の真実はわかったじゃないか

スミレ

真実って……

タツ

幽霊が、どうやって刺されたのか、っていうことだよ

スミレ

それはまぁ、そうですけど

タツ

誰が犯人か、とか、どうしてか、なんてことは僕にはわからない

タツ

そういうことは警察が詳しく調べるか、もしくは——

そこでタツはスピルバーグを見て言った。

タツ

占い師、みたいな人じゃないとわからないだろうね?

スピルバーグ

!!

スピルバーグ

……

タツ

さぁ、事件も解決したことだし、僕たちは帰ろうか

ジョン

おう、そうだな

スミレ

え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!

スピルバーグ

…………

タツ

犯人や動機がわからなくて、スイマセン

スピルバーグ

……いえ、いいのよ

タツ

では、失礼します

ジョン

またな姉ちゃん

スミレ

待ってくださいってばぁ〜!

家へと帰る道すがら、スミレは二人を問い詰めます。

スミレ

タツさん、さっきのやりとり、どういうことですか?

タツ

ん? なんのことかな?

スミレ

とぼけないでください! スピルバーグさんに意味深なこと言ってたじゃないですか……ひょっとして、ドンベエさんを殺した犯人って彼女なんじゃ……

タツ

さぁ、どうだろうね? 僕にはその辺はわからないよ

スミレ

もう、はぐらかさないでくださいよ! 別に誰かに言いふらしたりしませんし!

ジョン

まぁ、いいふらしたところで、だからどうなるってもんでもないしな

異世界との交易が始まって十数年。まだまだ異世界人への法律は万全ではありません。現在の制度では、『幽霊殺し』を罰する制度は存在していません。

タツ

ウーン、別にはぐらかしてるわけでもなんでもなくてね、本当に僕にはわからないんだよ

スミレ

そうなんですか?

タツ

まぁ、推測することくらいは出来るけど

スミレ

じゃあ、それで! 推測で良いから教えてください! 私気になってしまって、このままじゃ夜も眠れません

タツ

これは、本当に僕のただの推測だから、そのつもりで聞いてね? それに、誰かに言ったりしてもダメだ

スミレ

はい

タツ

スミレは、あの占い師の館は、最近客足が減っている、って言ってたよね

スミレ

はい、言いました。以前はかなり流行ってましたけど、それも落ち着いてきて、最近はあんまり噂も聞きませんし、前を通っても人混みはありませんでした

タツ

おそらくそれは、彼女の悩みだっただろう

ジョン

そうだな、まぁ客商売してれば、誰でもぶつかる悩みだが……

スミレ

お客さんの来ない悩み……お金の悩みなら私もとてもわかります

スミレ

あなたたち二人に言われたくはないですけどね……

タツ

そこで、困った彼女は人を集めるためのイベントを考えた

ジョン

それがこの事件、ってわけかい

タツ

もしかしたら、だよ

スミレ

……そんなことで、この事件を?

タツ

まぁ、推測だよ

スミレ

客寄せのために、彼女はドンベエさんを殺したって言うんですか!?

ジョン

嬢ちゃん、声がでかいぜ、興奮するなよ

スミレ

そんなわけにはいきません! そんな……そんなことのために誰かを殺すなんて!! 

タツ

スミレ、これはあくまで僕の推測だ。それに、彼女がやったとは限らない。ドンベエさんが金銭的に困っている彼女を見て、彼女を助けようと自分で行った可能性もある

スミレ

あ……

ジョン

まぁ、その方が妥当だわな

スミレ

…………

タツ

はい、ということで、この話はここでおしまい

ちょうど家の門前についたところで、タツは、ポンと一つ手を打って言いました。

スミレ

……はい

ジョン

不満そうな顔だな、嬢ちゃん

スミレ

いえ、なんか……なんかもやもやもやもやもやもやするだけです。不満というわけではありません

ジョン

それを不満そうだ、って言うんだよ……

タツ

それにしても……

そんなスミレを見ながら、タツは微笑みを浮かべて言います。

タツ

幽霊は本当に死ぬのかな?

スミレ

え、それってどういう?

驚いた顔をするスミレに、タツは微笑みを濃くします。

タツ

いやー、久しぶりに仕事して疲れちゃったよ

ジョン

そうだな相棒。オレ様も良い仕事だったと思うぜ

その言葉に、ハッとスミレは表情を変えます。

スミレ

ちょっと、待ってください! そういえば……今回の報酬とかなにも頂いてませんし、結局これただ働きじゃ

タツ

…………

ジョン

…………

スミレ

……そ、そんなぁ〜〜

ここは大江戸異世界探偵事務所。

黒船が来航して開国を迫った、あの事件において幕府は、米国との交易を拒み、とある決断をした。

それが、異世界への、開国である。

異世界への開国以来、日本は多種多様な種族・文明の溢れる国となった。

そんな変化が起きてから十数年。

大きく変わった世界で起こる、不思議な出来事を解決するための探偵事務所。

なにかおかしな事件があれば、この事務所の門をくぐってみてください。

幽霊密室殺人事件、その3

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