──前回のあらすじ。

 親友の洋平は、俺の妹である莉瀬に告白をした。
だけど、莉瀬は『好きな人がいる』と言って、
洋平を振ってしまった。
莉瀬の好きな奴って、一体誰なんだ?

 そんな時に俺は、憧れのクラスメイトである
柚木さんからなんと告白をされてしまった。

 俺の女神だった柚木さんからの告白を、
断る理由なんて無い。

 柚木さんと付き合うことになった俺は、
幸せの絶頂にいた──。

 第二話 
『彼女』


家に帰ってからも、スマホで柚木さんと話していた。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

……それじゃ、また明日学校でね。
おやすみ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ああ、おやすみ


通話を切る。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(うはーっ!
幸せすぎて、
大声で叫びながら近所を駆け回りたい!)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(こんなに上手く行きすぎていいのか?)


コンコンッ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

バカ兄ー、入っていい?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

おうっ、いーぞ

莉瀬がドアを開けて、部屋に入って来た。

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

電話……。
誰と話してたの?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

は?
で、電話なんかしてないって

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

じゃあ、ずっと独り言つぶやいてた
って言うの?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

そうだよ、独り言だよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

何それ……。
本当だったらキモイでしょ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ほっとけ!
それで、何の用なんだよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

……別に、なんでもない


莉瀬がドアを開けて出て行こうとする。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

はぁ?
何しに来たんだお前?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

バカ兄が誰と話してたのか、
気になっただけ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

じゃあね、おやすみ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(変な奴だな……)

──数週間後。

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

お前はいいよな……。
柚木と順調みたいで……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

はははっ!

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

はあ……。
お前らを見てると、
自分がみじめに思えてくる……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お、おいおい……。
まだ莉瀬のことを引きずってんのか?
いい加減に忘れろよ

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

簡単に忘れられるわけないだろ……。
6年間、ずっと好きだったんだから……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

そうだな……。
すまん

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(莉瀬も、洋平を好きになってくれれば
丸く収まるんだが……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(でも、何だろう?)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(莉瀬と洋平が付き合ってるのを
想像すると、何かむかつく……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(やめよう。
こんなんじゃ、
莉瀬を嫁に出してやれなくなる)


──放課後。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そろそろテニス部に行くね。
じゃあね、涼介くん

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ああ、頑張れよ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(テニス部に行って
スコートを覗きに行くのもいいが……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(よく考えれば、
紗登奈は俺の彼女なんだ)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(わざわざそんな事をしなくても、
頼めばもっとすごいモノを
見せてくれるかも……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(……とは言うものの。
まだキスもしてないんだよなあ)

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

あ、それから。
明日のことなんだけど……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

どっか遊びに行くか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うんっ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

どこがいい?
たまには映画を観に行くのもいいかもな。
それとも……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

えーとね……。
涼介くんの家に行きたいな……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

俺の家!?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

いつも妹さんの話を聞いて、
楽しそうだなって思ってたし……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

涼介くんの部屋も見たいな……
と、思って

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(俺の部屋で、紗登奈と二人きり……。
ゴクッ)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

わ、わかった。
妹たちに、明日は出かけないように
言っておくから

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ありがとう!
それじゃ、また明日ね!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

またな!



──帰宅後。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

えーとな……。
お前ら、明日は暇か?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

特に予定は無いけど

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクもです……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

あ、明日っ。
俺の友達が来るんだけどっ!
お前らに会いたいって
言ってるんだ……

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

えっ……。
魚住さんが来るの?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

違うって。
女の友達だよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

女の…子…?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

おにぃに女の子の友達ができたなんて、
信じ難いです……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

オイッ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

えっ、あの…。
それって友達じゃなくて……。
えっと……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

なんだよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

か、彼女なんじゃないの?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

うっ……

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

違うの?
ただの友達?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

い、一応……彼女だけど

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

…………

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

おねぇが石像に
なってしまいました……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

オイッ!
お前ら、俺に彼女ができるのが
そんなに意外なのか!?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

和田○キコが実は女性だった
というのと同じくらい、意外です……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

尺度がわかりづらい!

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

……明日、
私も彼女に会わなくちゃいけないの?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

できればな

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

そう……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

まあ、ずっと一緒にいる必要はねぇよ。
ちょっと顔見せるだけでいいから

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

わかった……

莉瀬は顔色を悪くして、自分の部屋に行ってしまった。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(いくらなんでも驚きすぎだろ)


──翌日。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

はじめまして。
柚木 紗登奈です

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

…………

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

はじめまして。
元宮 千雪、小学3年生です……。
いつも愚兄がお世話になっています……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

もう少し小学生らしい挨拶をしてくれ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

あははっ。
涼介くんから聞いたとおり、
妹さんと仲良しなんだね

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ふふんっ。
俺が妹に合わせてやってるからな

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

おにぃの本やDVDの隠し場所を
知っているほど、
仲良しです……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お前いつの間に!

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

本やDVDの隠し場所って?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

わーわーっ!
何でも無いんだ!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

そ、それよりっ。
莉瀬も挨拶しろよ!

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

あ……うん

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

莉瀬です……。
はじめまして

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

顔色悪いけど、大丈夫?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

大丈夫……です。
風邪気味なだけですから……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お前、風邪ひいてたのか?!

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

そんなに大げさに
驚かなくてもいいわよ……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

大変な時に遊びに来てごめんね。
ご飯、ちゃんと食べた?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

いえ、まだ……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

じゃあ、キッチン借りてもいい?
おかゆ作るから!

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

えっ……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お客さんにそこまでさせるのは悪いよ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

お客さんなんて、
他人みたいな言い方しないでよ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

あ、すまん

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

何か作るなら、ボクも手伝います……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ありがとっ。
じゃあ、莉瀬ちゃんのおかゆの他に
みんなの晩ご飯も作っちゃおうか?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

はい……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

晩ご飯は何がいい?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

前衛的な形のハンバーグを
作りたいです……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

やめろ。
様式美を守ってくれ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ふふっ。
じゃあ、食材買いに行こうか?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ああ。
重い物は全部俺が持つよ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクもついて行きます……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

それじゃあ莉瀬ちゃん。
ちょっと行ってくるからね

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

大人しく寝てろよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

うん……

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

…………

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

(みんな、行っちゃった……。
私の居場所、無いな……)



──夕食後。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

こんな時間まで
お邪魔しちゃってごめんね

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

そんなことないさ。
また来てくれよ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(結局、千雪のせいで
紗登奈と二人きりになれなかったな)

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

紗登奈お姉さん、
また遊びましょう……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うんっ。
今度はうちにも遊びに来てね?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

はいっ……!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

家まで送ってくよ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ふふ、ありがと



──帰り道。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

千雪ちゃん、すごく可愛いかったなぁ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

妹の相手してもらって悪かったな

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そんなことないよっ。
会わせてくれたことに、
お礼を言いたいくらい!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

良かったらまた来てくれよ。
妹も喜ぶだろうし

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

…………

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

どうした?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

涼介くんって、やっぱり優しいね

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

優しい?
普通のことしか言ってないだろ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うん……。
でも、優しいと思う

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

そ、そうか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

でもね……。
その優しさが、
妹さんを傷つけてるのかも…

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

……え?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ごめん、なんでもないっ。
それじゃ、また明日……学校で!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

あ、ああ。
またな



──帰宅後。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(傷つけてるって、どういう意味だよ。
気になるな……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(そうだ。
莉瀬の様子を見に行ってやるか)



コンコンッ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

入ってもいいか?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

……勝手に入れば?
いちいち聞かないでよ、ウザイ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(なんだよ。
心配してんのに、むかつく言い方だな)

ドアを開けると、
莉瀬がこちらに背を向けてベッドに横たわっていた。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

おいおい……。
風邪ひいてんだから、布団くらい掛けろよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

…………

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

まだ具合悪いのか?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

最初っから具合なんて悪くない……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

は?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

風邪なんて、
ひいてないって言ったの……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

はあぁ?
お前な……ワガママもいい加減にしろよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

誰がワガママよ……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お前だよ!
紗登奈はお前のこと心配して、
おかゆを作ってくれたんだぞ?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

それに、スポーツドリンクとか、
消化に良さそうなゼリーやプリンまで
買ってくれて……


莉瀬が怒った顔で振り向く。

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

そんなの、アンタにいいところ
見せたかっただけでしょ!?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

私が風邪をひいてるなんて
言っちゃったから、
格好の餌食になったのよ!


怒りで腹の底が熱くなった。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お前……最低だな……

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

……っ!(ビクッ)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

お前みたいなの、
うるせえ小姑って言うんだよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

…………

莉瀬の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(しまった!
言い過ぎた!)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

わ、悪い!
今のは言い方が悪かった!

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

お兄ちゃんが好きだけど……。
どうしようもなくて……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(今、お兄ちゃんって
言わなかったか……?)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(い、いや!
それよりも好きって???)

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

お兄ちゃんは私の気持ちも知らないで、
彼女なんか連れて来るし……。
でも、彼女に会いたくない
なんて言える訳ない……

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

だって、
兄妹で気持ち悪いって思われたら
耐えられないから……


莉瀬が目元を拭っても拭っても、涙があふれてくる。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ま、待てよ。
さっきからなに言ってるんだ?

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

もういい!
最低なのは私なの!
全部、私が悪いの!

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

ちょっ……落ち着けよ

元宮 莉瀬(もとみや りせ)

出て行ってよ、バカ兄!

莉瀬にクッションを投げつけられた。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

…………

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(何が起こってるかわからんが、
とりあえず部屋を出た方が
良さそうだな……)


莉瀬の部屋を出て、静かにドアを閉めた。



──翌日。

一人で考え事をしたくて屋上に来ると、
はしごをつたって出入り口の上に登った。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(莉瀬が俺の事を好きだって……?
冗談だよな?)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(もしアレが冗談じゃないなら……。
俺の本当の気持ちを言った方が
良かったのか?)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(『莉瀬なら兄妹でも気持ち悪くない』
っていう、本当の気持ちを……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(いや、そんなの駄目だ。
俺は紗登奈が好きなんだから)


ギイィ…



屋上のドアが開く音がした後、誰かの声がした。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うーん……。
涼介くん、ここにもいないか……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(この声は紗登奈?
俺を探してるのか……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(でも、すまん。
今は一人にさせてくれ……)


ギイィ…


再びドアが開く音がした。

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

あ、魚住くん。
涼介くん見なかった?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(今度は洋平が来たのか)

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

俺も探してるんだよ。
どこ行っちまったのかなあ、アイツ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(コイツらの嗅覚は恐ろしい。
俺はお前らのすぐ近くにいるぞ)

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

そういえばお前、
涼介と上手くいってるみたいじゃん

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うん……。
でもね、私って出しゃばりみたいで……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

何かあったのか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

昨日ね、
涼介くんの家に行ったんだけど……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ふんふん

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

……あっ。
涼介くんの妹さんに会ったことある?

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

あるけど……それが?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

私、莉瀬ちゃんを怒らせちゃったの
かもしれないの

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

へっ?
莉瀬ちゃんと何かあったのか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そういう訳じゃないんだけど……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

キッチンを借りたり、
涼介くんや千雪ちゃんと一緒に
出かけたりしたせいなのか、

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

莉瀬ちゃんが
私の顔を一度も見てくれなかったの……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

そんなことで怒らねえだろ。
気のせいじゃねえのか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

気のせいなら、いいんだけどね

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

莉瀬ちゃんって、
もしかして涼介くんのことが
好きなのかな……?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(えっ……。
気づいてたのか?)

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ああ、そうかもな。
あの兄妹って
ケンカばっかしてる割には仲いいし

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そういう事じゃなくて……


紗登奈がうつむき、黙り込んでしまった。

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

どしたん?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

なんでもない。
とにかくね、別れた方がいいかなって
思ったの

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

へっ?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(へっ?)

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ケンカでもしたのか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

する訳ないよ……。
涼介くん、私に優しすぎるから

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

そりゃお前、
アイツはずっと柚木に憧れてたから

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

でも、私達って彼氏と彼女なんだよ?
付き合う前に憧れてたとか、
もう関係ないよ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

ケンカしてもいいから、
本当の涼介くんを見せて欲しい……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

そっか……

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

…………

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

お前の気持ちはわからんでもないけど。
でもな、涼介は本当に
柚木のことが好きなんだぞ

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

涼介くんは好きになる人、
間違っちゃったんじゃないかな?

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(どういう意味だ?)

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

それとも、
私が告白なんかしちゃったから
断れなくて我慢してるとか……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ちょっとストップ!

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

えっ?

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

なんでそんなにネガティブになってるか
わかんねーけど……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

俺にそんな話をされても困る。
アイツとお前が別れる原因になったら
嫌だし

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そ、そうだね。
愚痴ばっかり言ってごめんね

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

莉瀬ちゃんは可愛いけど、
ライバル意識を持つ必要は
無いんじゃねーのか?

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

そんな、ライバル意識なんて……

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ま、どっちでもいーけどさ

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

落ち着いて考えよーぜ。
莉瀬ちゃんと涼介は兄妹なんだから、
間違っても付き合うことなんかねえよ

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

…………

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

うん、そうだよね……

柚木 紗登奈(ゆずき さとな)

変な話ばっかりして、本当にごめん。
もう行くね?

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

ああ……


紗登奈は屋上の階段を下りて行く。

魚住 洋平(うおずみ ようへい)

あーあ……。
俺も彼女欲しいなー


洋平も階段を下りて行った。

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(紗登奈が、
あんなことを考えていたなんて……)

元宮 涼介(もとみや りょうすけ)

(これから俺は、どうすればいいんだ?)




■最終話につづく■

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