第1話 「芦原愛子、Lv12です」

 
 
 
 
 
 

初めまして!
わたしの名前は、芦原愛子。
今年、岩手から上京したばかりの、16才です。
アイドル目指してやってきました!
力いっぱいがんばります!


 と、わたしはガッツポーズを取りながら名乗った。
 
 目の前には、きりりとした顔のプロデューサーさん(ちょっとカッコイイ♪)がいる。

 この人が原宿を歩いているわたしを、
 スカウトしてくれた人だ。

一番最初に話を聞いたときは、
これってドッキリ!?なんて思っちゃったけど、
でも夢じゃないんだよね!
えへへ、嬉しいな。
こんなことが本当にあるなんて!


 あれよあれよという間に、わたしは事務所に入った。
 この事務所は、他にも超有名アイドルがたくさんいる、名門事務所だ。

 そこにわたしが加わっているなんて、
 なんだか本当に夢みたいだ。

 わたしはまだまだアイドルの卵だけど、
 これからたくさんレッスンをして、
 立派なアイドルになるんだ!

これからがんばるぞー


 そんなわたしは今、
 レッスン場で自己紹介の練習をしていた。

 プロデューサーさんが、
 直々にわたしをレッスンしてくれているんだ!
 張り切らなくっちゃ!

よし、愛子。なかなか上手になってきたな。
これならすぐに人前に出られるだろう

え、ホントですかあ? やったぁ


 わたしはぎゅっと拳を握りしめた。
 こんなわたしが褒めてもらえるなんて、嬉しいな。
 プロデューサーさんが太鼓判を押してくれたなら、
 なにも怖いものはないよね。

 もうなにもこわくない!(笑) なんちゃって(笑)

だが、これからが大変だぞ、愛子、
『芸能界で生き残っていく』のはな

はい、どんなことでも全力でチャレンジしていきたいと思います!
愛でチャレンジ、芦原愛子です!

ははは、そいつはいいな。
どんどん持ちネタを増やしていくじゃないか

えへへ……

愛子は将来有望だな。
よし、それなら早速、これからのために、
『特訓』をしておこうじゃないか


 プロデューサーさんはケータイを取り出して、
 誰かに電話をかけていた。
 さっきの優しいプロデューサーが、
 ちょっと厳しい顔をしている。

 でも、そんな真剣なプロデューサーさんも、
 素敵……かも♪

わあ、特訓っていうからには、激しく指導されちゃうんだろうなあ。
でもわたし、一応内緒だけど、トップアイドルを目指しているから……。
がんばらなくっちゃね!



 ――十数分後。

お、遅くなりました!


 慌ててやってきたのは、ポニーテールの女の子だった。
 この子もとっても可愛らしい。
 でもその顔は、怯えているようだ。

なんだろう、そんなに厳しいことなのかなあ、特訓……ちょっぴり、こわいなぁ……

 すると、やってきた子は息を切らせて、
 プロデューサーに走り寄る。

あの、プロデューサー……嘘、ですよね? 私、まだまだこれから……

丘、早く愛子の横に並べー

そ、そんな……嘘、ですよね!?
だってこんなにがんばってきたのに!
レベルだってもう18になったんですよ!
どうしてそんなことを言うんですか!
どうして! プロデューサー!

いいから早くしろー


 ケータイを操作するプロデューサーの目が、
 険しくなってゆく。

 丘って呼ばれた女の子は、なんと……。
 ――その場に、土下座をし始めた!

え、え~~~……?
しかも泣いちゃっているよお!?

お願いします、プロデューサー!
お願いしますから!
どうか、特訓だけは、そんな、やめてください!
だって一緒にがんばっていこうなって言ってくれたじゃないですか!
お願いします! お願いします!

よーし愛子ー、いくぞー

え、えっと……。
いくって、わたしはどうしていればいいんだろ……。

やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!


 絶叫とともに、プロデューサーがケータイのボタンを押した。
 次の瞬間だ。

 土下座していた丘ちゃんの体は、光に包まれた。

 そして、急速に縮んでゆき、
 それは空中に浮かぶ一枚のカードになる。

えええええええええ


 キラキラと輝くカードは、
 そのままわたしの体にやってきて。

 ――この胸の中に、吸い込まれちゃった!

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?


 わたしの頭の上に、おかしなゲージが出現し、
 それは何度も何度も満ちて、
 そのたびに数字が繰り上がってゆく。

 1,2,3,4……合計、12まで伸びた。

な、なんですか、これ……?


 丘ちゃんの生きていた証はもうなにもない。
 服すらも残っていなかった。

 プロデューサーさんはウンウンとうなずく。

やっぱりそこそこ育てたアイドルを『餌』にすると、けっこーレベルあがるなあ

…………


 ……餌?
 えと、あの……。

 ……なにが起きたんだろう。

ほら、レベル上がったから、体がちょっと軽いだろ?


 確かにそうだ。
 体の疲れが吹っ飛んだように、軽い。

 胸に手を当てる。
 そこにはわたしだけじゃなくて、
 他の人の命が入っているような気がした。

手っ取り早く経験値を稼ぐなら、特訓が一番だからな。
また明日からがんばろーなー

……


 わたしは手のひらを開いたり握ったりを繰り返す。
 丘ちゃんが消え去った空間をいつまでも見つめながら。


 そんなわたしの胸の中には、小さな納得があった。

 これが芸能界。
 これがアイドルの世界。

 なにがなんだか全然わかんないけど。
 ひとつだけわかっていることが、あった。

 それは――。

『芸能界で生き残っていく』のは、
『大変』なんですね……!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 芦原愛子(R)
 
 Lv 12 / 30
 親愛度 8 / 100

 特技:ラブスマイル
 効果:全体のソングパワーを10%up

 岩手県からやってきた新人アイドル。
 なによりも得意なものは笑顔。
 いつでも前向きにがんばる18才。

第1話 「芦原愛子、Lv12です」

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