コンコンコン
コンコンコン
おっ……と!?
むぅ……やっぱり……
思ったとおりだった
ーーおぉ、千駄木君や
どこ行っとたんじゃ?
す、すみません……して、
そちらの首尾はいかが
でしたか?
大型の台風が迫っとるゆう
ことでフェリーの臨時便が
出るそうな。運良くふた席
確保できたで
そうですか……よかった
東京のほうに残してきた
案件もいくつかあります
んで島にカンヅメ状態を
回避できて安心しました
出航予定時刻は16時
ちょうどじゃと
それまでにーー
味噌川警部はそこで言葉をにごす
「それまでに鬼蔵氏の死について
白黒はっきりつくのだろうか」
胸の内はこれであろう。ここまで
関わってきた千駄木もまた、警部
と同じ気持ちであった
千駄木君、木兵と健ちゃん
から何ぞ話は聴けたんかの
? このふたりのアリバイ
について不明な点でも?
ええ……まぁ……
色んなことがわかり
ましたよ……
ほんと、色々とね
ひとまずこちらを
ご覧下さい
わしが聴取したメモの
一枚じゃな。この内容
が何か……?
味噌川警部はこのふたり
のアリバイについてどう
考えますか?
……?
鬼蔵さんの騒動が起きた時
台所におったふたりは夫人
たちの元へと駆けつけ合流
別々な場所でそれぞれ極秘に
聴き取りを行ったけん、示し
合わせる時間なんぞなかった
ろうし、ふたりのアリバイに
疑うべき点はないかと
まぁ、わしが聴く以前に口裏
合わせの相談をしとったなら
お手上げじゃがーー
それ!!
ひぇっ!?
何じゃ何じゃ???
その“台所”という
キーワードこそが
盲点だったんです
このアリバイは見れば
誰だっておのずとこう
考えてしまいますよね
左が千代ちゃんで右が木兵
さん。絵がアレなのは勘弁
願います
う、うむ?
特別親しいわけではない
同僚同士が同時刻台所に
いて、しかも個別にそう
申告している……
これだけでもうアリバイ
は完ぺきと思われます
だが、果たしてほんとうに
そうなんでしょうかねぇ?
もしや、どちらかが
嘘を吐いておると?
嘘というか……違和感
を感じる点はいくつ
かありましたね
先ほど見ていたんですが、心配事
があるせいで食欲のなさげな木兵
さんを千代ちゃんはまめまめしく
気遣ってあげていました
そうじゃったな
あの娘はよく気のつく
やさしい子じゃ
その気のつくやさしい子が、
夜遅くに腹をすかした同僚が
勝手もわからない台所で食料
を漁っているのを見て、何か
を用意してあげたりしてない
のって、かなり不自然だとは
思いませんか?
!?
千代ちゃんはどうして
空きっ腹の木兵さんを
無視したのか?
あの子なら「何か用意
しようか?」くらいは
あたりまえに言いそう
なのに……
木兵の奴が「悪いからいい
自分で適当にカップ麺でも
作って食べる」とか言って
断った可能性もあるんじゃ
ないか?
だとしても、台所で千代ちゃん
に会った、もしくは木兵さんに
会ったぐらいは言いますよね?
おのれのアリバイを成立させる
ための、大切な証人なんだから
な、なら、やはり……
木兵か千代のどっちかが
虚偽の申告を……!?
千駄木君、ちと待っていて
くれ。ふたりをつかまえて
裏を取ってくるけんな!
……無駄足になると
思いますが……
ーーえ?
「もう一度アリバイを聴かれたら
『そういやあの時千代もおったわ
』って言って、後はすっとぼけて
おいてね!」
という感じですでに頼まれてると
思いますよ……
木兵さんだって、ポッと現れた
警察プラスαよりも同僚への情
を当然優先するでしょうし……
よほどの証拠を突きつけない
かぎり、覆すのは難しくなり
そうですね
…………
よりによって……千代のほう、か
いや……木兵のほうであればマシ
だったわけじゃあ断じてないが
つまりはこういう
ことですね
木兵さんは健ちゃんや夫人
と一旦は合流したものの、
頼まれて即台所に引き返し
駐在さんに電話をしたとの
ことです。そのへんは通話
記録で確認できますよね?
台所という盲点を消して
しまえば、行動不明者は
千代ちゃんだけになる
千代ちゃんもまさか半年も前
のアリバイを聴取されるとは
思いも寄らなかったから、“
騒動の際台所にいて”“台所
でバッタリ会った”木兵さん
のアリバイの再確認とお願い
を大慌てで済ましていること
でしょう
台所でふたりは会うこと
には会っておったのか?
ええ。木兵さんの空腹にも
気付けないほどの短時間、
ですがね
千代は……なら、何しに
台所へ行ったんじゃろ
彼女は“エプロン”を
取りにきたんです
エプロン……
台所の壁に刺さった長釘が
あって仕事明けにはそこに
掛けておくんだそうです
実はこの件に関しても、木兵
さんから証言が取れています
千代ちゃんがこっそり入って
きたかと思うと、エプロンを
取ってすぐに出て行ったと
だから千代ちゃんのほうも
木兵さんが台所にいること
を知っていたーー
ああぁ……っ!!
どっ!? どうし……
突然どうなさいました
味噌川警部っ
わ、わしはっ、わしは……っ
今の今まで、何を見て何を
聞いとったんじゃ!?
おそらくは真相に関わっとる
だろう千代からはなんも相談
されず、木兵たちの信頼さえ
得られず!!
探偵漫画に登場するボンクラ
デカそのものやないかっ
……っ!
そ、そんなにご自分を
責めないで下さい……
仕方がないんですよ
こんな小さな島では、警察の
介入というのは、それまでの
平和な日常が一瞬にして崩壊
してしまうくらいの脅威なの
でしょうから……あの方々が
警戒するのもあたりまえです
それに僕はごらんのとおり、
ボサ〜っとした風貌ですし、
血縁関係にある味噌川警部
とは違い一介の旅人なので
木兵さんたちも気が抜けて
ついうっかり口を滑らせた
だけですよ
そういうんが、立派な話術っ
ちゅうか、れっきとした聴取
のテクニックなんじゃがな
…………。
時間もあまり無いんに取り
乱したりしてすまんかった
さ、続きを聞こか
なら、千代ちゃんを探しながら
歩き歩き話しましょうか……
案内したいところもありますし