※知人の証言をもとにした実話です。
 投稿について本人から許諾を得ております。




ある日のことだった。

1階で暮らしている母から、相談を受けたのは。


最近、財布から
よくお金が無くなるのよ。
誰かに盗まれてるんじゃ
ないかしら?

直樹(なおき)

どうせ父さんが
パチンコに行くときに
コッソリ抜いてんだろ?

違う、お父さんじゃないわ!
お父さんならちゃんと
私に言って行くわよ!

直樹(なおき)

自分で使ったの
忘れてんじゃないのか?

絶対に違うわよ!
誰かが私のお財布から
お金を盗ったのよ!

直樹(なおき)

じゃあ監視カメラでも付けて
誰かに盗まれたっていう
証拠を見せろよ!

それがもう
買ってあるのよ

直樹(なおき)

えっ?


母さんが差し出してきたのは、
監視カメラが入った箱だった。

付け方がわからないから、
あんたが付けて頂戴

直樹(なおき)

(ま、まさか本当に
監視カメラを付ける気
だったとは……)

直樹(なおき)

わかったよ。
付ければ満足するんだろ?





そして数日後、俺と母さんの二人で
監視カメラの映像をチェックしたのだが……。


なんとそこに映っていたのは、
衝撃の光景だったのだ。

話は大学時代に遡(さかのぼ)る。


サークルの飲み会で意気投合した俺と美穂は、
間もなくして付き合うことになった。


そうしている内に美穂は妊娠して、
それを機に俺たちは結婚したのだった。



──それから、2年後。

美穂(みほ)

ええっ!
お義母さんたちと同居!?
有り得ないんだけど!

直樹(なおき)

だから、さっきも言ったけど
同居じゃないって。
2階建てのアパートみたいな
タイプの、二世帯住宅なんだ

直樹(なおき)

1階には父さんと母さんが
住んで、
2階に俺たちが住むんだよ

美穂(みほ)

同じ家に住むんでしょ?
やっぱり同居じゃない!

直樹(なおき)

建物は同じでも、玄関は別々。
2階の玄関には外の階段を
上らないと行けないから、
顔を合わさずに済むんだ

美穂(みほ)

でも、まったく
顔を合わさないなんて
無理じゃない

美穂(みほ)

急に新居へ引っ越すなんて
言い出すから
おかしいと思った!!

直樹(なおき)

だって母さんと父さんが勝手に
建てちゃったんだから、
しょうがないだろ?

美穂(みほ)

あんたが断れば
いいだけの話じゃない

直樹(なおき)

まあまあ、そう言うなよ。
家賃はタダだし、
悪い話じゃないと思うけどな

美穂(みほ)

そんなんなら、
今の賃貸のアパートでいいわよ。
ねえ、陽菜~?

陽菜(はるな)

だあっ

直樹(なおき)

そう言えば、
陽菜の面倒も見てくれるって
言ってたよ

美穂(みほ)

えっ?

直樹(なおき)

美穂が買い物に
行きたいときは、
陽菜を預かってくれるってさ

美穂(みほ)

本当!?
友達と遊びに行くときも、
預かってくれたりする?

直樹(なおき)

ああ、もちろん!
母さんは毎日でも
孫に会いたいって言ってるし!

美穂(みほ)

じゃあ、しょうがないわね。
一緒に住んでもいいわよ

これからよろしくね、
美穂さん

美穂(みほ)

よろしくお願いします。
お義母さん、お義父さん

何かあったときのために、
うちの合鍵を渡しておくわ

美穂(みほ)

えっ?
もしかしてお義母さんたちも、
うちの合鍵を持ってるんですか?

ええ。
あなたたちが困ったときに
いつでも助けに行けるようにね

美穂(みほ)

(こそっ)ちょっと……直樹!
話が違うじゃない!
顔を合わさずに済むんでしょ?

直樹(なおき)

(こそっ)だ、大丈夫だって。
母さんたちには勝手にうちへ
入らないように言っておくから

美穂(みほ)

(こそっ)もうっ……。
お義母さんたちが
入って来たら離婚だからね!

直樹(なおき)

ははは……

こうして俺たちの二世帯住宅での生活は始まり、
特段問題も無く日々が過ぎていった。

直樹(なおき)

なあ、美穂。
今日はなんの日か覚えてるか?

美穂(みほ)

知らないわよ。
陽菜に朝ご飯食べさせなきゃ
いけないから、後にして!

陽菜(はるな)

まんまぁ~

直樹(なおき)

(今日は結婚記念日なのにな。
こういうのって普通は女の方が
覚えてるもんじゃないか?)

直樹(なおき)

んじゃ、会社行ってくるから

美穂(みほ)

はいはいっ!

直樹(なおき)

…………

直樹(なおき)

(子供が産まれてから、
行ってきますのチューを
してくれなくなったなぁ)

──そして、話は最初に戻る。


直樹(なおき)

はい、付けたよ。
監視カメラ

ありがと。
これで私の財布から
お金を盗んだ犯人がわかるのね

直樹(なおき)

まあね……。
またお金が消えたら教えてくれよ。
カメラの映像をチェックするから

直樹(なおき)

(どうせ父さんが
映ってるんだろうけど)


しかし、俺の予想は大きく外れた。


監視カメラの映像を再生すると、
そこには母の財布から一万円札を抜き取る
髪の長い人物が映っていたのだ。

直樹(なおき)

(この背格好……。
まさか、美穂なのか?)

直樹(なおき)

(頼む、違ってくれ)



俺は祈るような気持ちで、もう一度再生した。


しかしその人物の髪型、体型、
服装から考えても、
美穂以外には有り得なかった。

やっぱり美穂さん
だったのね

直樹(なおき)

母さん!!

こうなったら
警察に通報するわよ

直樹(なおき)

待ってくれ!
母さんが盗られた金は
俺が返すから!!

お金の問題じゃないのよ。
あんただって
わかってるでしょ?

直樹(なおき)

でも、陽菜のことを考えたら
大ごとにはできないよ。
美穂は陽菜の母親だぞ?

そうだけど……。
でも……

直樹(なおき)

なあ、母さん。
後のことは俺に
まかせてくれないか?

直樹(なおき)

美穂がこんなことをしてるのは、
ストレスのせいかもしれない。
そう考えると、
俺が原因の可能性もあるし……

直樹がそう言うなら
しょうがないわね……

直樹(なおき)

ありがとう、母さん

直樹(なおき)

(とは言え、
美穂のストレスが溜まってる
原因はなんだろう?)

直樹(なおき)

(やっぱり玄関が別とは言え
他人が近くにいるだけでも
疲れるのかな……)

陽菜(はるな)

パパー!

直樹(なおき)

おうっ、陽菜。
だだいまー!

美穂(みほ)

おかえりなさい。
今日は直樹の好きな
トンカツにしたよ

直樹(なおき)

そ、そうか。
ありがとう

直樹(なおき)

(陰で泥棒してるのに、
態度が普通なのが
逆に怖いんだよなぁ)

直樹(なおき)

(でもまあ、
俺たちには陽菜がいるし、
生活態度において問題は無いから、
離婚は考えたくないな)

──その晩。


Twitterを見ていた俺は、
気になるアカウントを見つけた。

直樹(なおき)

(あれ?
このアカウント……
俺たちが家族で行った場所と
同じ写真ばかり載せてる)

直樹(なおき)

(しかも、こっちの写真!
俺が美穂に買ってやった
アクセサリーとバッグだ!)



そして更に俺は、
写真だけではなくツイートの文章にも
目を通した。

直樹(なおき)

(旦那が会社員で、
2歳の娘がいて……
義両親と二世帯住宅!?)

直樹(なおき)

(これっっ!!
美穂のアカウントじゃないか!)



俺は美穂のツイートを読み進める内に、
唖然とした。

『あーあっ。
旦那が嫌いすぎる。
臭いんだよ~!!!!』

『旦那の母、
娘のことで口出してきてウゼー。
顔も見たくない』

直樹(なおき)

(俺と母さんが窃盗を大目に
見てやってることも知らずに、
なんだこの言い草は……)

直樹(なおき)

(許せん!!)

──翌日。

直樹(なおき)

美穂、話がある

美穂(みほ)

なーに?
いまLINEの返事で
忙しいんだけど

直樹(なおき)

俺は知ってんだぞ。
お前が母さんの財布から、
金を盗っていたこと

美穂(みほ)

えっ……?



美穂は手からスマホを落とした。

美穂(みほ)

あ、あははっ……。
何言ってんの?
バッカみたい

直樹(なおき)

バカはお前だ。
監視カメラに全部
映ってんだよ

美穂(みほ)

監視カメラ……?
ひどい……

直樹(なおき)

何がひどいんだよ!!
俺も母さんも、
ずっと我慢してたんだぞ!

美穂(みほ)

だって、無断で
監視カメラ付けたんでしょ?
それって盗撮じゃないの?!

直樹(なおき)

お前のやったことは窃盗だ!
被害者ぶるな!!

美穂(みほ)

…………

直樹(なおき)

こんな犯罪者でも、
お前は陽菜の母親だ!
だから大ごとにしなかったのに!

美穂(みほ)

…………

直樹(なおき)

黙ってないで
なんか言えよ!

美穂(みほ)

はいはい、
わかりましたぁ

直樹(なおき)

何をわかったんだ?

美穂(みほ)

お義母さんに謝る!
それでいいんでしょ?

直樹(なおき)

お前なぁ!!
そんな開き直った
言い方ないだろ!

美穂(みほ)

じゃあどうすればいいわけ?
死ねばいいの?

直樹(なおき)

そ、そんなこと
言ってないだろ

美穂(みほ)

だったらお義母さんに
謝るしかないじゃん

直樹(なおき)

わ、わかったよ。
とりあえず母さんを呼ぼう

そう……。
自分がやったって、
認めるのね?

美穂(みほ)

はい……

どうして私の財布から
盗もうなんて思ったの?

美穂(みほ)

育児と家事のストレスで、
つい……。
発散する場所も無くて……

よく陽菜を私に預けて、
友達と遊びに行っていたじゃない。
それだけじゃ駄目だったの?

美穂(みほ)

ええ、まあ……

なんにしてもこんなこと、
二度としないでね

美穂(みほ)

はい……。
ごめんなさい……

直樹(なおき)

それで許すのか?
ちょっと甘くないか?

だって、これ以上どうするの?
本人が反省してるなら
警察に通報する必要も無いし

直樹(なおき)

そりゃそうだけど……

直樹(なおき)

ところで美穂。
盗んだ金は何に
使ってたんだ?

美穂(みほ)

それは……!

陽菜(はるな)

ママァ、パパァ

直樹(なおき)

陽菜!
起きちゃったのか?

美穂(みほ)

はいはい、
ママと一緒に
オネンネちまちょうねぇ

直樹(なおき)

おい、まさか寝る気か?
話はまだ終わってないぞ!

美穂(みほ)

だって陽菜を
寝かしつけなきゃ

ねぇ、直樹。
その話はまた今度で
いいじゃないの

私はそろそろ帰るわね。
またね、陽菜ちゃん

陽菜(はるな)

ばぁば、バイバーイ

──数日後。


直樹(なおき)

(あれからうやむやに
なっちまったな。
美穂の金の使い道)

美穂(みほ)

すやすや……



どうにも納得がいかない俺は、
美穂が寝ている間に
スマホを盗み見ることにした。

直樹(なおき)

(おい、これ……
マッチングアプリで
複数の男と会ってるだろ!?)

直樹(なおき)

(しかも、なんじゃ
このメッセージは!!)

『旦那じゃ濡れないし、
早く会いたいなぁ。
欲求不満すぎてやばい』

『ホテル代は私が出すよ。
旦那の母から取ってやった
お金が結構貯まってんだよね』



ホテルで撮ったであろう、
裸で男と映っている写真もあった。

直樹(なおき)

(もう許せん……)

直樹(なおき)

おい、美穂!!
起きろ!!

美穂(みほ)

んっ……。
なにぃ~?

直樹(なおき)

お前、不倫してるだろ!?

美穂(みほ)

ふえっ???
なんでバレ……!?

直樹(なおき)

なんでバレたのか、
じゃねえよ!
全部見ちまったんだよ!


まだ寝ぼけた様子の美穂に、
俺はスマホの画面を突きつけた。


美穂は見る見る内に
顔を青ざめさせたかと思うと、
今度はぼろぼろと涙をこぼして
嗚咽(おえつ)をあげた。

美穂(みほ)

私、これといって
趣味が無くて退屈なの

美穂(みほ)

性欲が強くて自分でも
抑え切れなくて……。
お願い、許して

直樹(なおき)

許すわけねえだろ!

美穂(みほ)

なんでそんなこと
言うのよ……

直樹(なおき)

母さんに陽菜を預けて
男と会ってたんだろ?!
しかも母さんから盗った金を
ホテル代に使いやがって!

美穂(みほ)

何よ……。
そこまで見たって言うの!?
プライバシーの侵害でしょ!

直樹(なおき)

なぁにがプライバシーだっ!
認めろよ!
自分がやったこと全部!!

美穂(みほ)

はいはい!
あんたの言う通り、
盗んだ金はぜーんぶ
ホテル代に消えましたー!

美穂(みほ)

でもね、元はと言えば
直樹が悪いのよ!
私は同居ヤダって言ったよね!?

直樹(なおき)

それは不倫と窃盗をしていい
理由にはなんねえだろ!?
今すぐ金返せよ!!

美穂(みほ)

キーッ!!!

美穂(みほ)

もう、わかった!
あんたとは一緒に暮らせない!
出て行ってやる!!

朝になると美穂は消えており、
代わりに署名と捺印がされた離婚届が
置いて有った。


例のTwitterのアカウントを見るに、
どうやら男の所へ逃げたらしい。

陽菜(はるな)

ギャアアアアッ!
ママーッ!!
ママいなーい!!

直樹(なおき)

よしよし。
泣くなよ、陽菜……

直樹(なおき)

(陽菜を置いて行っちまって、
何考えてんだアイツ。
それでも母親か?)


俺は躊躇(ちゅうちょ)無く、
離婚届を役所に出した。

──それから、3年の月日が流れた。

陽菜(はるな)

パパーッ!
抱っこ!

直樹(なおき)

よーしっ!

直樹(なおき)

(いろいろあったけど、
陽菜が元気に育ってくれて
良かったなぁ)

陽菜ぁ~!
直樹ぃ~!
会いたかったあああ!

直樹(なおき)

ん……?
この声は……?

美穂(みほ)

ただいまー!
帰って来たよー!!

直樹(なおき)

げっ、美穂!
何しに来たんだよ!

美穂(みほ)

あれから新しい彼氏と
暮らしたけどね、
DV野郎で散々だったよ!

美穂(みほ)

やっぱり私には
直樹しかいないって気づいたの!
陽菜のことも心配だし、
また三人で暮らそうよ!

直樹(なおき)

お前……。
陽菜をほっといて今更……

美穂(みほ)

何よ?
嬉しくないの?

雪絵(ゆきえ)

直樹さーん?
誰? お客さん?

直樹(なおき)

あ、雪絵。
前に話した元嫁が
押しかけてきちゃってさ……

美穂(みほ)

な、何よその女!
私の家に勝手に上がりこんで!

直樹(なおき)

この人は俺の奥さんだよ。
勝手に上がりこんでるのは、
お・ま・え

美穂(みほ)

もう新しい女と結婚したの?
信じらんない!!
陽菜の母親は私なのよ!?

直樹(なおき)

なあ、陽菜。
美穂と雪絵ママ、
どっちが好き?

陽菜(はるな)

ん~……。
雪絵ママ!

美穂(みほ)

なんでよ陽菜!!

陽菜(はるな)

だってママは、
陽菜のこと置いて行ったもん。
雪絵ママはそんなことしないよ

直樹(なおき)

そういうわけだ。
帰ってくれよ、美穂

美穂(みほ)

うっ……
うう~っ……



本当に悲しんでいるのか、
はたまた嘘泣きなのか。


美穂はとても悔しそうな顔をして、
泣きながら去って行った。

──それから数日後のことだった。

美穂からLINEがきたのは。

『陽菜が
雪絵さんになついてるのは
よくわかった』

『でもね、よく考えて。
あの子の実の母親は
私だけなのよ?』

いい加減にしろ



俺はそれだけ返信して、美穂をブロックした。




 俺の嫁は窃盗犯   ~盗んで何が悪い!~

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