退院の日、いつもより早く目覚める。
時間を見ると、まだ5時半ごろ。
6時半ごろに、いつも検温と血圧を測りに来るので、1時間ほど早かった。
酸素飽和度を見ると、96%と微妙だったが、気分はとても良かった。
看護士さんたちも長いことお世話をして頂いたので、何かお礼をしたかった。でも、この状況では何もできない。
全ての看護師さんに、言葉のお礼を伝えるしかなかった。
でも、私が涙を流しながら、「ありがとうございました」と言うと、皆さん笑顔で涙ぐんで、自分ごとのように一緒に喜んでくれた。
それが、とても印象的で、心に残っている。
おそらく、看護士さんたちも私と一緒に、必死にコロナと戦ってくれていたんだと思う。
その姿が、とても輝いて見えたし、私にとってもすごく心強いことでもあった。
病院から出る時も、あの白い『タマゴカー』に乗る。
廊下のレッドゾーンを通り、関所に到着すると、しばらく看護師さんたちが着替えて、反対側のグリーンゾーンから関所を通してくれ、普通の車椅子に乗り換える。
そして、廊下から誰も通らないコロナ患者専用の出入り口の自動扉を抜けると、病院の外へ、約3週間ぶりに出る。
日の光がとても眩しかった。
母が車ですぐ近くまで、迎えに来てくれていた。
私は、久しぶりに自分の足で、車椅子から立ち上がり、外を歩く。
おぼつかない足取りで、そのまま母の車の後部座席へ。
振り返ると、防護服を着ていないふたりの看護士さんの素顔を初めて見た。
涙目の私が手を振るのを見て、看護師さんも「元気でね」と口元を押さえ、涙が溢れているのが分かった。
震える声で「本当に長い間、ありがとうございました」と言う私にも、大粒の涙が両目から自然と零れ落ちていた。
(※注意:このノンフィクションに登場する数字や施設は、2021年8月時点でのものである)
(了)