(この作品は『仮面ライダーW』の2次創作作品です。実在の人物、事件等との関係はありません)

 地響きのような声で『H』(ヒート)ドーパントが吠える。腕を震わし、無数の火球を飛ばしてくる。

シグマ『左』

それが答えか。とりあえず、倒して剥ぐしかないようだな。メモリを!

シグマ『右』

少しは回転し(まわっ)てきたようだね。まぁ、最悪壊しても僕達の罪じゃあない。この街を守る為だ。おてんと様も許してくれるさ

シグマ『左』

ちがいねぇ。いくぜ!


『C』(サイクロン)パンチで追い込もうとするが、お生憎、奴は『炎』だ。『風』によりより強く燃え上がる。フィリップのパンチは『H』ドーパントを肥大化させるだけだった。

シグマ『左』

おいおい。ヤバくないか? 相棒

シグマ『右』

問題ない。翔太郎、『J』(ジョーカー)キックでコイツの足元をすくってくれ

シグマ『左』

おう。って、こいつの熱さ半端じゃねぇぞ? 近づけねぇ!


 怯むΣライダーの下半身を上半身を扱うフィリップが叩く。指をドーパントへ向けて振り払う。

シグマ『右』

しょうがない相棒だな。少しだけ時間をあげよう。その間に一発頼むよ

シグマ『右』

【C(サイクロン)マキシマムパンチ!】

『マキシマムドライブスロット』を叩いて、腕を後方へ。そこから怒涛のパンチを繰り出す。

シグマ『左』

おー。なかなかだ。芸能人にしとくのは勿体ねぇな。いっそ仮面ライダーに転職するか?

シグマ『右』

その言葉、あの時、……7年前に聞いておきたかったな


 心が怯む。だが、フィリップは目をチカチカと、おどけて笑ってくれた。

シグマ『右』

ただね、翔太郎。今でも僕はこの街の仮面ライダーのつもりさ。ずっとキミの傍に居る、2人で1つの、ね

いやん♪ ホモKITA! 『フィリップさん×おっさん』! いいわぁ♪ って違う違う! 翔太郎さん、早くしないと風が途切れる!

シグマ『左』

おいおい! ツッコミ待ちか? おい! 俺は、ドコからつっこみゃいいんだ? ま、まぁいい!


 頭をかき回したくなるが今は仕事だ! ハードボイルドに決めて見せる!
 炎の割けた視界に足を滑らす。しっかり根付いたドーパントの足を大きく払った。

 巨大な炎(ドーパント)が駅舎を潰しながら倒れていく。

シグマ『右』

【C(サイクロン)パンチ】
【C(サイクロン)パンチ!】
【C(サイクロン)パンチ!!】

 フィリップ主導のパンチが倒れ起き上がれない敵へ無数に撃ち込まれていく。肥大に肥大を重ねて、ドーパントは弩級の大きさに。――なるほど。

シグマ『左』

burst(バースト)。か

シグマ『右』

ご名答。決めに行くよ翔太郎

 膨れに膨れたHドーパントは、肥大化の限界を超えて破裂(バースト)した。

 俺達はΣドライバの右側についた『マキシマムドライブスロット』へ【T2ジョーカーメモリ】を差し込み、――空を舞った。

シグマ

【CJ(サイクロン・ジョーカー)マキシマム・シグマ(最高合算)!!】

 剥きだしの人型になった『Hドーパント』へCとJの力を込めた『ライダーキック』を叩き込む。

 激しい爆発。炎上した人間を、歩(あゆ)がすかさず抱き起こす。その体からあふれ出た1本の赤いメモリを回収する。指で回して俺たちへサムズアップを魅せつけた。

フィリップ

なるほど、ね

翔太郎

何が『なるほど』なんだ? お前の知り合いか?


 変身を解き、俺達は2人へ分かれる。フィリップはマフラーの上の顎をしきりにさすっている。

フィリップ

ああ。ウチの事務所で何回か顔を合わせたことがある。たしか……、『ククリコ遠藤』さんのマネージャー。そうだね?


 ドーパントだった男は、きつく俺たちを睨みつけ、顔を歪めると笑い始めた。

翔太郎

……何が可笑しい。おい。お前の後ろ(バック)に居るのは誰だ? 今なら助けてやれないことも無い。話してみろ


 指を突き付け言葉を飛ばすが、そいつはフィリップを強く睨みつけるだけだった。
 数秒後、唾を吐きだし俺達を見渡し話し始めた。

……誰が話すか。新人のお前が、かの、


『ククリコ遠藤』のマネージャー、その眉間に『炎の鏃』が突き刺さる。一瞬の出来事に俺もフィリップも反応が出来ない。走り寄って抱きかかえるが、すでにその体からは命の雫が漏れ落ちていた。

翔太郎

おい! しっかりしろ! 『かの』って何だ! おい!


 再び、そいつが息を吹き返すことは無かった。鏃の飛んできた方向を振り返るが、何処にも、何1つとして痕跡が無い。

翔太郎

いったい誰だ? 何処から攻撃を受けた? おい! 亜樹子見てたか?!


 亜樹子は悔しそうに下唇を噛むだけだった。歩(あゆ)も

見ていない

と首を振る。Hドーパントの暴走から皆逃げ去って、他に人は居ない状態だった。

 ――事件は、不可避な現実から始まり不可解な終わりを見せた――。

 顎に手をやり考え込むフィリップ。泣き出した赤子をなだめる亜樹子。そして理解の及ばない俺。

 歩(キーキャラ)は中天の太陽(そら)を眺め、汗を一筋伝わせていた。年不相応な苦々しい顔つきで。

『第3話』鏃(やじり)

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