音が出ないようにドアを閉めると、息を殺して足音が過ぎるのを待つ。

花木 聡一

ふぅ…どうやら行ったみたいだな

花木 聡一

いったいあの悪寒は何なんだ。それにあの足音も…。だいたいここはどこなんだ

百目鬼 祢々

いらっしゃい

花木 聡一

うわぁッ!

振り返ると、不気味な老婆が座っていた。
部屋の中は薄暗く、漢方薬のような臭い充満している。

百目鬼 祢々

あんた、どちらさんだい?

花木 聡一

勝手に入ってしまいすみません。僕は葛城高校1年の花木聡一と言います

百目鬼 祢々

ほう、それじゃ桜と同じ学校だ

花木 聡一

はい、今日は桜さんと一緒にご家族と食事をするはずだったのですが…。もしかして、桜さんのお婆さんですか?

百目鬼 祢々

………

老婆は無言で立ち上がると、おもむろに部屋の隅にある鍋のふたを開ける。

花木 聡一

あの?お婆さん?

何かの動物の断末魔が聞こえる

花木 聡一

お、お婆さん!?

百目鬼 祢々

でやぁッ!コイツゥウ!!

花木 聡一

ひ、ひぃいいい!

百目鬼 祢々

次は、あんただ…

老婆は手から鮮血をしたたせながら、こちらに笑顔を向けてそう言った

その光景を見て、体中の細胞が”逃げろ”と叫んだ

花木 聡一

た、助けてー!!

花木 聡一

だ、ダメだ…もうこれ以上この屋敷にいられない

花木 聡一

このままじゃ、きっと殺される!

花木 聡一

でも、桜は…

そこの君…

花木 聡一

わッ!?今度はなんだ?

私はこの屋敷…百目鬼家にとりついている霊だ

花木 聡一

れ、霊ッ!?

そんなに驚かないでくれ、大きな声を出すとこの家の住人に気づかれてしまう

花木 聡一

あ、あんた何者なんだ。この家の人たちなんかおかしいんだ。それに家自体が不気味で…

それはそうだ。百目鬼家は鬼の血を受け継ぐ一族だからな

花木 聡一

鬼の血って、なに?

興味があるなら教えてやろう。ただし、あいつから逃れられたらだがな

花木 聡一

あいつって…

また、あの嫌な悪寒が背中に走る。それはいままでのものよりはっきりと、強く感じる。

花木 聡一

まただ、何かに見られている

私が言うとおりに走れ!じゃなきゃ命はないぞ!!

足音がどんどん近づき、前方に現れる

百目鬼 柏

おい、もう逃がさねぇぞ!!
何度も何度も隠れやがって!!

花木 聡一

ば、化け物!?

つづく

pagetop