人気のない高校の教室

花木 聡一

百目鬼桜(とどめき さくら)さん、一目見た時から好きになってしまいました!
俺と、付き合ってください!!

百目鬼 桜

わ、私なんかで良いんですか?

花木 聡一

もちろんです、あなたじゃなきゃダメなんです!よろしくお願いします!!

百目鬼 桜

は、はい!

花木 聡一

百目鬼さん、これからは桜って呼んでもいいかな?

百目鬼 桜

そ、それでは私は聡一君と呼びますね

花木 聡一

聡ちゃんでもいいんだよ

百目鬼 桜

それは…恥ずかしいです

花木 聡一

調子に乗りすぎちゃったかな、ははは

父が海外に転勤することが決まり、祖父の家に越してきた。

まだ田舎の暮らしに慣れたとは言い難いが、初めてできた彼女に俺は夢中だった。

一か月後、高校近くの映画館内

百目鬼 桜

この映画、すごく怖かった…

花木 聡一

そう?怖いっていうより音で驚かされたって感じじゃなかった?

百目鬼 桜

そんなに冷静に観れないよ。あんなに怖い場所だってわかってたら絶対行かないのにどんどん進んじゃって…

花木 聡一

俺、ホラー映画わりと観てるほうだから冷静になっちゃうんだよね。そういうシーンは特に”ここで来るぞ”ってわかっちゃうから

百目鬼 桜

私、こういう映画あんまり観ないからまだドキドキしてる

花木 聡一

ハハッ、可愛いなぁ桜は…

百目鬼 桜

もう、聡一君が観たいっていうから付き合ってるのに!

花木 聡一

ごめんごめん…。

百目鬼 桜

あのね、聡一君…。今日ってこの後時間あるかな?

花木 聡一

特に用事とかないけど、どうしたの?

百目鬼 桜

良かったら、家来ない?一緒に食事でもどうかって…

花木 聡一

え?

百目鬼 桜

実はね、さっき家族から電話がきて、思わず聡一君のこと話しちゃったんだ

花木 聡一

それって、どんな奴と付き合っているか確認したいってことじゃ

百目鬼 桜

大丈夫、聡一君ならきっとみんなに好きになってもらえるよ

花木 聡一

そうかな?…でも確かに大事な娘さんとお付き合いさせてもらっていることだし。挨拶ぐらいしなきゃダメだよね

百目鬼 桜

嫌なら断っても大丈夫だよ

花木 聡一

いや、俺行くよ

百目鬼 桜

良かった。…ちょっと遠いから早速向かいましょ

花木 聡一

最寄り駅、高校から結構離れてるんだね

百目鬼 桜

うん…そういう学校に通いたくて

花木 聡一

え?

百目鬼 桜

…何でもない。行こうか

花木 聡一

け、結構駅からもあるんだね。もう30分ぐらい歩いているような…

百目鬼 桜

ごめんね、私いつも自転車だし慣れちゃってたから気づかなかった

花木 聡一

体力あるだね、なんか意外だわ

百目鬼 桜

今度は誰かに迎えに来てもらうね

花木 聡一

こうやって2人きりで歩くのもなかなか楽しいけどね

百目鬼 桜

よくそんなに恥ずかしいこと言えるよね

花木 聡一

本当のことだからしょうがないじゃん

桜の手を取って立ち止まる。
顔を近づけると彼女の頬がみるみる赤らんでくる。

百目鬼 桜

ちょっと聡一君、こんなところで…

花木 聡一

だれも見てないよ、だから大丈…

突然、何かの視線を感じ背筋に冷たいものを押し付けられたような悪寒が走る。

花木 聡一

…夫ッ!?

百目鬼 桜

聡一君!?

花木 聡一

さ、くら…

視界に桜の泣き顔が入ってきて、次第に目の前が暗くなっていく。そして気が付くと…

花木 聡一

どこだ…ここ?

見覚えのない、真っ暗な部屋で目を覚ました

花木 聡一

なんだか、不気味なところだな…

花木 聡一

病院ではないだろうし、もしかしたら桜の家なのかもしれないな

花木 聡一

何かが近づいてくる…

つづく

pagetop