これはあたしが見た夢の話で、
もしかすると
まだ見続けているかもしれない
夢の話でもある。

――とある大都市のとあるホテルに泊まった
あたしたち。これは現実でもほんとのこと。

友だちと一緒に、ちょっと奮発して、かなり
ランクの高いホテルに泊まったわけ。

高層階のツインルーム。
眺め最高、部屋豪華。
あ、アメニティは少しショボかったかな?

で、せっかくだからと夜はさんざん飲み歩き、
5軒ぐらいハシゴして部屋に戻ってきた瞬間に、
あたしも友だちもそこで終了となった。

ベッドにぶっ倒れてそのまま。

そこまでは確かに現実だったはず、
なんだけど……

そこから何だかおかしくなっていった。

…………

髪ボウボウの中年女がベッドの足元に
四つん這いの格好で――いる。
そいつとバッチリ目が合ってしまった。

目が異様につり上がっているとか、
顔色がまっさおとか、そういうのは一切無しで
ごく普通の顔をしていたのが印象的だった。

えっ!?

見直そうとした次の瞬間、あたしは
トイレの便器に座っていた。

まぁ夢だもんね、〈瞬間移動〉や
〈いきなり場面転換〉したって
ぜんぜん不思議じゃないよね。

腰かけたままぼんやりしていると、
頭上からゴトゴトと音がするではないか。

…………

おそるおそる見上げてみたら、さっきの
中年女が天井からこっちをのぞいていた。

古い民家じゃあるまいし、まだ新しい
金ピカホテルの天井なんてどうやったら
開くんだよ、という疑問はさておき。

こういう時にこそ人間は
地が出るんだろうね。

ホラー映画みたく「キャーッ!!」って
実際に叫ぶ人もいるだろうし、
気絶する人だっているかもしれない。

あたしの場合は――

ちょっとー! ちょっとちょっと! 早く! こっち来てよこっちぃ! 幽霊いるんだってば、幽霊! 早く早く!

必死になって、トイレの外にいる友だちを
とにかく呼び続けていた。

天井とか壁を這う親指大のゴキブリを
発見した人の反応だよね、これって。

あー、自分は幽霊見たらこういう
反応なんだーって、どこかで冷静に
考えてるもうひとりの自分もいた。

そしてまたしても場面転換。

あたしは部屋に戻っていた。

目の前には従業員みたいな人がいて、
クローゼットの中をのぞき込んでいる。

あたしたちが苦情を言ったので
確認をしに部屋まで来たらしい――
ということはわかった。

掛けられているのはあたしたちの
上着だけのはずなのに、
なぜか知らないスカートが
落ちていた。

渋い色合いの、おばさんくさいイメージのスカートの落としもの。従業員はそれを拾い上げてポツリと一言。

こ、これ……奥様のスカートだ……

声がめちゃくちゃ震えている。

……“奥様”?

頭に例の中年女がパッと浮かぶ。

問いただそうとしたら、あたしはまた
別な場所に飛ばされていた。

――そこはだだっ広いブッフェ会場だった。

あたしたち以外にもこんなに大勢
泊まっていたのかと驚くくらいに
たくさんの人たちがいて、
並べられた数々の料理を和やかに
選んでいる。

あらまぁ美味しそう。

そこでハッとなり、あたしも慌てて席を取る。

そうだ、朝食を食べなきゃ。
なのに、友だちがまだ会場に来ていない。

イライラとスマホを取り出し、
友だちの番号にかけてみる。

時節柄、会場の扉は大きく開かれていて、
不自然なほど暗い廊下からあたしはなぜか
目が離せないでいた。

プッ。――繋がった!

あ、あのさ。もう会場に着いてるんだけど? まだ来ないの?

いま廊下にいるんだ。廊下長いから――

? 廊下長いって……エレベーターで3階まで降りて、そこから左に進めばすぐそこじゃん

うん、でも今廊下歩いてるからさ。待ってて、待ってて

……微妙に会話が噛み合わなくて、
だんだんと不安になってくる。

どうしよう、こっちから迎えに行こうかな?

などと考えてはみたものの、
照明がこれでもかとばかりに煌々と明るい
会場と、暗がりに何かを潜ませていそうな
廊下の対比に背筋が寒くなる。

ここにこれだけ人が集まっているって
ことはつまり……
廊下にはその分誰もいないわけだ。

廊下にはもしかしたら“奥様”がいるかもしれない。

友だちがあいつと鉢合わせしたら
どうなってしまうんだろう?

そしてあたしは?

あたしはどこまでも続く暗くて長い廊下を、
“奥様”に会わずに進んでいけるのだろうか?

今この時が夢か現か判断しきれずに、
あたしはいつまでもクヨクヨと迷っていた。

奥様がやってくる

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