今までなら恐怖から避けていた。

 わざわざ危険や問題に関わりたくない。

 いつだって俺は物事が収まるまで何もしなかった。若林命(ワカバヤシミコト)の件だって俺は何もしなかった。

 そのせいでユキちゃんに迷惑をかけたこともある。

 だから今回だけは俺がしっかりしないといけない。昨日のように逃げていては元の世界に帰る事なんて出来やしない。

 もう一度、変わらないといけない。この裏の世界から脱出する為に。

 雪音の腕は震えている。ムラサキの事が尾を引いているようだった。

鮫野木淳

俺も怖いし怪しいと思っている。でも、帰る為に調べないといけないと思うんだ

小斗雪音

帰る?

鮫野木淳

うん、俺も元の世界に帰ってやりたいことがある。多分、このカゴメ中学校に帰るヒントがあるかもしれないぜ

 ヒントがある保証はないが可能性はある。

 それに雪音を置いていく訳にいかない。藤松や凪沙みたいに別れたくない。

鮫野木淳

それに俺ってビビリだからさ。ユキちゃんが近くに居てくれたら助かる

鮫野木淳

頼む一緒に来てくれ

小斗雪音

――っ、うん、わかった。でも、危なくなったら引き返そうね

鮫野木淳

ありがとう。ユキちゃん

 言いたい事があったが堪えた。せっかく鮫野木淳が決めたことに水を指したくなかったからだ。

 今は私が耐えないといけない。多分、淳くんは本当に変わろうとしているから。

 三人の覚悟が決まってカゴメ中学校に足を入れる。三人は足並みをそろえ歩いた。

 正面玄関まで続く道は誰の気配もしなかった。今までも人の居ない道を歩いていたがこんなに緊張したことはない。

 玄関に手をかける。鍵が閉まっていないようで力を加えると自然に開いた。

 正面玄関を進むと学生達が使う下駄箱が広がっていた。

 蓋のない木製の下駄箱がいくつも置かれている。どうやら昔から使われているようで年代を感じた。

 学年と組で分けられており、主席番号が貼られていた。

鮫野木淳

なんだか懐かしいですね。俺の時は木製じゃなかったですけど

六十部紗良

そうなの私の中学では下駄箱は無かったわ

鮫野木淳

へぇーそうなんですか

 鮫野木と紗良の中学の違いについて花を咲かせる事はなく紗良は下駄箱に近づいた。

六十部紗良

それにしても靴が一つもないわね。野沢心が来ているならあってもいいのだけれど

鮫野木淳

そうか、俺も探します

 紗良の言う通り野沢心が居るのなら下駄箱に靴があってもおかしくない。鮫野木と雪音は別々に下駄箱を調べた。

 三人が別々に調べたおかげで時間をかけずに靴が見つかる。

六十部紗良

これね。これは確かに女の子が履く靴だわ。間違いなく野沢心の靴で間違いないでしょう

鮫野木淳

つまり居るんですね。ここに

六十部紗良

可能性は高いわ

 二年一組の下駄箱にあった靴を確認して野沢心がカゴメ中学校に居る確信が出てきた。教室の場所も分かって後は野沢心が居ることを願うだけだった。

六十部紗良

けれど、少し妙ね

鮫野木淳

何がですか?

 紗良は徐に口を開いて考えを述べる。

六十部紗良

別に大した事じゃないの。本当に大した事じゃないのだけど

六十部紗良

仮にこの靴が野沢心のだとしたら、彼女は何故、ここに居るのかしらね

鮫野木淳

そりゃ、授業を……受けに……

 いや、授業を受けるのは普通の事だ。けれど、ここは裏の世界だ。人の居ない裏の世界だ。

 紗良の感じた疑問に気づいた鮫野木は背筋が凍る。

六十部紗良

私もまだこの世界の常識を理解してなかったわ

六十部紗良

普通は学校に授業を受けるために通うわ

六十部紗良

でも、彼女はこの世界で生活をしている。私達が来る前に

六十部紗良

ここには何をしに来ているんでしょうね

六十部紗良

先生も生徒も居ない学校で

 俺は上手く答えられずつばを飲んだ。

 野沢心は一体、何を考えてカゴメ中学校に居るのか。何故、廃墟だった場所に住んでいるのか。何一つも分からない。

 だが彼女は裏の世界の住人として住んでいる事は確かだ。

 この人の居ない世界でどうやって一人で生きているんだろうか。

 その謎を確かめるため三人は土足のまま、床に足を入れた。

カゴメ中学校(15)

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