俺達は追われている。どんなに走っても後にアンノンが距離を離せない。本気で走ればにげれるだろう。ただ、仲間を置いて逃げるわけにいかなかった。

 追われている原因は俺にある。あの人に立ち向かわなければこうならなかっただろう。

 しばらく走り続けて住宅街を抜け大通りに出た。マラソン大会でもないのに長い距離を走りそろそろ限界に近い。

 凪沙は限界のようで足を止めてしまった。

凪沙新吾

ごめ…………ん……僕は……もう

久賀秋斗

ナッちゃん……頑張れ!!

 凪沙は息を整えることで精一杯だった。そんな凪沙に久賀は駆け寄り肩を貸した。そのまま二人で歩き始める。けれど歩きではアンノンに追いつかれてしまう。

 二人の様子を見て藤松は庇うようにアンノンの前に立ち塞がった。自分で蒔いた種ぐらいどうにかしたかった。それが藤松に出来る謝罪でもあった。

 俺がやらなきゃいけない。もう逃げない。

アンノン

……

藤松紅

こい、俺が相手だ。バケモノ

 握った金属バットに力を入れて構える。近寄って来るアンノンが間合いに入ってきたのを見越して一気に仕掛けた。

 足を踏み込みバットで頭を狙い振り下ろした。アンノンは防御することなく腕を伸ばし藤松を掴んでいた。そこに一撃が決まり音もなくアンノンの頭は煙のように消えた。掴んだ腕に手からが無くなり残った胴体も水みたいに溶けて消えた。

 余計な力が抜けて藤松は金属バットを手から放した。金属バットは地面に叩きつけられて跳ねる。

――ふう、どうにかなった。

 俺はアンノンが消えたことを確認すると凪沙に駆け寄った。

藤松紅

すまん、俺のせいで迷惑をかけた

凪沙新吾

迷惑? 迷惑なんてかけてないよ。僕らを助けてくれたじゃないか

凪沙新吾

もしかしてアンノンに襲われたのが自分のせいだと思ってる。それなら違うよ。藤松くんがあの時、無視してるんじゃねぇぞって言ってくれて嬉しかったよ

藤松紅

嬉しかった?

 息を整えた凪沙は勢いよく話す。

凪沙新吾

結果的にアンノンに襲われたけど突然現れて意味のわからない人に文句を言ってくれた。僕は怖くて仕方なかったのに藤松くんは言った。僕の気持ちをね

凪沙新吾

ありがとう。文句を言ってくれて

 まさか感謝されるとは思わなかった。でも、本当に良かったのだろうか。結局、俺のせいでアンノンに襲われたのは変わらない。

 凪沙には悪いが感謝されるわけにいかない。

藤松紅

凪沙……俺は

久賀秋斗

待った!

久賀秋斗

フッジーさ、まさか自分が悪いってまだ思ってるしょ

 藤松の発言を遮り久賀は顔を近づけた。

藤松紅

いや、だって……

 久賀が近づいた分だけ藤松は後退りした。近すぎて恥ずかしさを隠すためでもあったが動揺を知られたくないのが本音だった。

久賀秋斗

違う。フッジーは責任感が強いだけ、終わったことをクジクジ考えるな

久賀秋斗

うちらは迷惑だと思ってないっしょ。それに、アンノンを倒したのはフッジーじゃん、なら全部オケーって感じ

凪沙新吾

僕も久賀先輩と同じくだよ。気にしないで

 凪沙も久賀先輩も全く迷惑と思っていない。アンノンに襲われた原因を作ったのは俺だ。責められても文句は言わないと決めていたが俺の考えすぎのようだ。

 久賀先輩に教えてもらったな。ギャルなのに頼もしい。

藤松紅

……ありがとう

 ぎこちなくお礼を言った。もう少し素直に言いたかったが抵抗があった。

 俺はてっきり二人に迷惑をかけたと思い込んでいたようだ。もう少し信じないといけないな。こんなに大事にしてくれる二人を裏切ってしまう。二人の期待に努力しないとな。

 二人に感謝している隙きを狙って久賀は藤松の顔を覗き込んだ。

久賀秋斗

ウシ、いい顔をしてるね。フッジー

藤松紅

なんすっか。別にいいじゃないですか

 久賀に表情を見られて藤松は顔を隠すように腕で覆った。その事を面白がって久賀は大きく笑った。その事に腹が立ったがあっさりと許した。

 三人以外誰も居ない空間に一時、笑い声が響いた。

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