あの人の正体を考えても何も分からない。本当に何者なんだろう。何処から来て何が目的なんだ。それにしては人らしくなかったな。まるで人じゃないみたいだった。もしかして人じゃないのかもな……なんてな。

 鮫野木はムラサキに遭遇した時より裏の世界に来た時の方が慌てて混乱していた。今回は冷静で落ち着いていた。短時間で奇妙な経験をしたせいで慣れたのだろうか。ただ、落ち着いて一晩寝て整理がついたのが一つの答えでもある。今となっては目の前に時限爆弾があっても冷静でいれるだろう。

六十部紗良

少しいいかしら鮫野木くん

鮫野木淳

どうしましたか六十部先輩

 紗良は物言いたげな顔で俺に話しかけてきた。俺は直ぐに返事をして話を聞いた。

六十部紗良

考えたのだけど、今は野沢心を追いたいのだけれどどうかしら

鮫野木淳

えっ、でも、どうやって

 ムラサキのこともあって見失っていた。すでに野沢心が何処に行ったかわからない。それに野沢心と接触することを恐れて諦めかけていた。雪音に見栄を張った手前、紗良の意見に反対しづらい。

六十部紗良

それなら検討はつくわ。中学生がこの時間に行く場所は何処かしら?

 六十部の問いに俺は即座に答える。

鮫野木淳

中学校か、でも何処の中学校だろう

六十部紗良

ここから一番近い中学校なら緋物市立緋物東中学校ね

小斗雪音

――緋物東中

 思うところがあり雪音は二人に聞こえない声で呟いた。

 緋物市には中学校が四つ存在する。その一つが緋物市立緋物東中学校であった。紗良の言う通り野沢心が中学校に通っているのなら緋物東中に居る可能性がある。

 野沢心に会う必要があった。この裏の世界に住んでいると思われる彼女なら何かしら元の世界に戻る鍵を握っているかも知れないからだ。

鮫野木淳

なら行きますか緋物東中に

小斗雪音

大丈夫なのかな。また、あの人と出くわさない。私、あの人が怖い

小斗雪音

怖いだけじゃないの、良く言えないけど会ってはいけない気がする。淳くんと六十部先輩はどうなの

 俺も雪音の言いたいことがわかる。恐らく六十部先輩も同じだろう。確かにあの人は恐ろしかった。説明が難しい恐ろしさを体験したこともあって会いたくないのも分かる。しかし野沢心に会わないと進むことが出来ない。

 俯き様に雪音は話した。

鮫野木淳

うん、怖いよ。でも、ここから戻れない方が嫌だろ

鮫野木淳

俺は昨日、駄目だったから……だからしっかりこの世界と向き合って戻る道を探したいんだ

 昨日の俺はまるで駄目だった。裏の世界に来たばかりの俺は現実を飲み込むことが出来ずに裏の世界に迷い込んだことを他人のせいにして距離を置いてしまった。

 そのせいで二人と別れてしまった。本当なら全員と協力してこの裏の世界から元の世界に戻るために努力するべきだった。

 アニメとかだったら俺はすでに出番がないモブになっているところだった。そんな俺に付いてきてくれた奴と俺より目的がはっきりしている奴が側に居たから俺は前向きになれたと言っても過言じゃない。

 恐れる気持ちを抑え俺は雪音に返事を返した。それを聞いた雪音は納得のいかない表情を浮かべる。

小斗雪音

淳くんなんかに言われたくない

 そう言うと雪音は顔を上げる。いつも通りの雪音らしい表情が良く見える。

鮫野木淳

おいおい、それはないぜ

小斗雪音

淳くんはヘタレなんでしょう。だからよ

 何とも言い返しにくい。自分で言ったのもあるが何だか恥ずかしい。

 恥ずかし気持ちが込み上げる。気付かれないように俺は話を変えることにした。

鮫野木淳

あ、そうだ。緋物東中と言えば俺達の母校じゃないか、懐かしいな

六十部紗良

そうなの、雪音さんもそうなのかしら

小斗雪音

はい、淳くんとは……中学から同じなので……

 雪音は心配そうに俺を見つめた。俺はその心情を察した。

 しまったユキちゃんはまだ気にしているのか。あの日のことはもうけりは付いているんだぜ。もう心配する必要はないんだ。

小斗雪音

淳くんはいいの?

鮫野木淳

ほら、見ての通り大丈夫だぜ。もう、あの頃とは違うのさ

 俺は心配をかけないように体全体を使って大げさに態度に表せた。それでも心配をしているようで表情は変わらない。

 もう、心配しなくてもいいんだ。トラウマはもう乗り越えたんだ。

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