雪音は鮫野木から離れると制服の上着を着る。どことなく怒りは収まっているに見えている。けれど許していないようにも見える。

 どうする、誤解を解かないといけない。そもそも六十部先輩が俺の横で寝ていたんだ。寝ぼけて入ってきた。待てよ。わざとか? わざとなのか? だとしたら俺達の反応を見て楽しんでいるのか。

 鮫野木は紗良に向かって真相を教えてくれとジェスチャーで伝えた。

六十部紗良

それは何処かの盆踊りかしら鮫野木くん?

鮫野木淳

あっ、あの、違います

 俺は小声で紗良に話す。

鮫野木淳

冗談抜きで六十部先輩はどうして俺のベッドで寝ていたんですか

六十部紗良

……そうね。あなたのために言うけど私はけして鮫野木くんの隣に移動してないわよ

 雪音との様子を見て何か察したようで紗良も小声で返した。

鮫野木淳

でも、寝てたじゃないですか

六十部紗良

そうね、鮫野木くんが私を抱えて隣のベッドに置いた。なんて事が無い限りね

鮫野木淳

俺がわざわざそんな事する訳がないですよ

六十部紗良

そうよね――

 紗良は考えを纏める。

 何かがあって私が鮫野木くんの隣で寝ていた。可能性としたら私が移動したか移動させられたかの二つ、と言っても夢遊病でもない限り移動する事はない。

 ならば誰かに移動させられた……か。二人じゃないようだけど、そうなると誰が……ねぇ。

六十部紗良

鮫野木くん。犯人探しはやめましょう

鮫野木淳

――えっ、でも

六十部紗良

いいのよ。雪音さんも鮫野木くんがこんな事なんてしないって知っているでしょう

六十部紗良

それに私は何もされてないわ

 俺は雪音を見るといつも通りに戻っていた。俺と目が合った。

小斗雪音

さっきはごめん

鮫野木淳

いや、いや、いいんだ。俺のせいかも

 何だか知らないが機嫌が戻って良かった。まだ怒っているんじゃないかと思っていたぜ。

 雪音は紗良の上着を取り紗良のところまで渡しに行った。

小斗雪音

二人とも早く着替えてください。今日は野沢家に行くんでしょう

六十部紗良

ありがとう雪音さん

小斗雪音

いえ、別に……

 紗良はベッドから立ち上がり上着を受け取った。

六十部紗良

苦労してるでしょう

小斗雪音

そんなんじゃないです

 上着を受け取る瞬間に紗良は鮫野木に聞こえないように雪音に囁いた。雪音は平然と答えた。

 どうにか誤解は解けた。俺は緊張が解けて肩が軽くなった。ひたいの汗を拭い上着を着る。

 準備を終えた三人は昨日、鮫野木のちょっとした発言で野沢心が住んでいると思われる廃墟もとい野沢家に行くことになった。

 紗良が言うには裏の世界の入り口である廃墟と出口である野沢家は何か元の世界に帰れるヒントがあるかもしれないそうだ。

 藤松と凪沙を探すのは簡単らしく後回しにしてもいいようだ。ならば優先度的に帰る方法を探ることになった。

 俺も紗良の意見に賛成した。俺も野沢心に興味があったからだ。

 人が居ない裏の世界に住んでいる女の子が本当だとしたらどんな思いで暮らしているんだろう。家族は居るんだろうか? 生活はどうしているんだ? とか考えていた。

 もしかしてあの女の子も俺達と同じでこの裏の世界に迷いこんだ可能性もある。とにかく俺は女の子に会って話がしてみたかった。

 病院から歩いて野沢家に向かう。

 早朝に鳴く鳩の鳴き声もしない道を歩き続けた。その最中で人ともアンノンにも会うことはなかった。

 緋山に登る道に辿り着いた。三人は早速、緋山に足を踏み入れた。

鮫野木淳

六十部先輩は野沢心に会ってどうするんですか

六十部紗良

そうね、会ってみないと分からないのだけどキーポイントになるじゃないかと思っているわ

鮫野木淳

キーポイント、野沢心が鍵を握ってると?

六十部紗良

ええ、そうだったらいいわね

 あくまでも手がかりになると考えているようだ。野沢心に会っても元の世界に帰れる保証はないのだ。

 その事を抱いていると反対側から人が歩いている事に気づいた。

鮫野木淳

おーい、野沢心、丁度お前を探しにキたんだ

野沢心

…………

 俺は急いで野沢のもとに近寄ると野沢の後ろに誰かが居るのが分かった。

 後ろに居るのは背の高い女性だった。その女性と目が合うと恐ろしさを何故か感じる。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。

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