表の路地と違い家と家で挟まれた狭い道は昼間でも暗く感じる。視線の先にある反対側の路地が明るく見える。

 路地裏の入り口で久賀はバットを身構えていた。後ろで藤松と凪沙が心配そうに様子をうたがっていた。

久賀秋斗

そろそろ出てくるから、お二人さんよく見てて

 すると地面の一部がまるで水のようにうねり始めた。すると久賀が言う通りに浮き上がった影が人の形に変わりアンノンになった。

アンノン

……

 裏路地に現れたアンノンは腕を伸ばして久賀に近づいてきた。

藤松紅

おい、本当に逃げないのか

久賀秋斗

アハハ、大丈夫だって後輩、見てな

久賀秋斗

よしよし、おいで

 久賀は後ろに下がる。するとアンノンはピクリと動かなくなった。目の前に久賀が居るのに目的を失ったように立っている。

アンノン

……

久賀秋斗

もう一度、近づくよ

 また久賀は裏路地に足を踏み入れた。すると息を吹き返したみたいにアンノンが動き出した。再び久賀に向かって近づいていった。

 久賀はバットを構えると迫りくるアンノンの頭を狙ってバットを振り下ろした。

久賀秋斗

なんとぉーー!!

 勢い良く振り下ろしてバットは見事に頭に当たった。当たった衝撃でアンノンの頭は煙のように消えた。そして胴体だけ残り形が徐々に溶けて影に消えていった。

 その様子を確認して久賀は二人のところに戻った。

久賀秋斗

どう、質問はあるかい?

藤松紅

質問って――あれって倒せるのか、どうしてあれは襲ってこなかった?

久賀秋斗

まぁ、落ち着けって、フッジー

 久賀は興奮気味の藤松に肩を組んで直接、話しかけた。

藤松紅

ふ、フッジー?

久賀秋斗

あれ? 気に入らなかった。フッジーってかわいいと思ったんだけどな

 どうやら付けたあだ名の事を気にしているようだった。

 顔を覗き込みながら話す久賀に藤松は恥ずかしくなっていた。

藤松紅

フッジーってあだ名ですか。それ関係あります

久賀秋斗

あるある、必要っしょ!

 少し落ち着いた藤松はもう一度、質問をした。

藤松紅

えーと、アンノンだったか暗いとこに現れるのは分かったがどうして動かなくなるんだ

久賀秋斗

ん、見て分からなかった?

 藤松から離れて久賀は裏路地の近くに立った。藤松はピンとこなかったが凪沙は思いついたようだ。

凪沙新吾

影に触れてないからですか

久賀秋斗

ピンポーン、大正解だよ。流石ナッちゃん

凪沙新吾

僕はナッちゃんですか

久賀秋斗

イエス! ナッちゃんって感じがしたからね

 凪沙はあだ名を気に入ったようで嬉しそうだった。藤松は久賀の付けたあだ名に喜んでいる意味が分からなかった。

 もう少しまともなあだ名なら気持ちは分かるが理解できなかった。何となく納得がいかない気がするが本人が良ければ気にする必要はない。

藤松紅

もしかして影に入ったらアンノンが現れるのか

久賀秋斗

おお、フッジー分かってきたじゃん

久賀秋斗

アンノンは影が無いと出てこないんだ。逆に影に居ないと襲ってこない。さっき、うちがしたようにね

 裏路地でのくがの行動が思い浮かんだ。久賀が暗い裏路地で行なった事は全て説明になっていたのだ。最初に見た時は意味が分からなかったが思い出してみると興味深い。

久賀秋斗

ここからが面白いんだけど行動パターンが分かったんだよね

藤松紅

行動パターンってゲームじゃないだろ

久賀秋斗

そう、それ! フッジーいいところ突くじゃん!!

 藤松に指摘された久賀は寄りテンションを上がった。

久賀秋斗

いい、アンノンは決まった行動パターンがあるの、その一つがさっき見せたあれって訳よ

久賀秋斗

それとアンノンには目が無いから影を通じてうち達を探知しているわけ

 アンノンについて語り久賀は満足そうだった。

 二人は説明を聞いて理解を深めた。秋斗の説明はあくまで考察に過ぎなかったが今までに見てきた体験と説明が噛み合っていて信用できた。

藤松紅

つまり影、暗闇が無いとアンノンは現れない。それに襲われる事もない?

久賀秋斗

イエス、システムで動いているからよ!

藤松紅

システム? ますますゲームみたいな事を言うな

 久賀はニヤリと笑う。

 藤松のついた言葉でますます調子が出てきているのが見えて分かった。

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