人は時によって自分でも想像しないような事をしてしまう。それは自覚が無い時はたちが悪い。

 数年前、小規模ながらアイドルグループのセンターをやっていました。いわゆる地下アイドルです。私は有名ではないなりにアイドルグループは人気がありました。

 それなりにやりがいを感じていました。

 ただ、一年もしない頃に起きてしまった話です。

 ある日、ライブ終わりに応援してくれるファンが教えてくれました。

ユイ

あっ、今日も応援ありがとう! いつも――

ファン

――あの、ユイたん

 その人は結成時から応援してくれているファンでした。普段なら話を遮ることなんてしないので良く覚えています。

 不安そうにスマホの画面を私に見せつける。そのSNSのあるやり取りが写っていた。

ユイ

あの、これは?

ファン

あのね……僕は止めようとしたんだ。けど、僕では力不足でした

ユイ

……これって

 そこに書かれてたのはユイへの誹謗中傷だった。どうやらユイのアイドルグループが良く思っていない人がでたらめに書き込んでいるそうだ。

 ファンの人は誹謗中傷を止めようとしたが止まる気配はなかった。

 SNSでは良くあることだ。私は怖いと感じたが表情に出さないようにしていた。

ユイ

ありがとうございます。気にしないで下さい――

ファン

違う違う良く見てくれ、このイエローローズって所を

 そこにはイエローローズと言うアカウントがアイドルグループより私だけに誹謗中傷をしていた。それに加え楽屋で起きたことが書いていた。

ユイ

――これは

ファン

流石に酷すぎる警察に言うべきだ!

ユイ

――うんうん気にしないで!

ファン

で、ても……

ユイ

はい、これでこの話は終わり! またライブ見に来てね!!

 私はアイドルとして笑顔を崩さずにファン達を見送った。メンバーは何かあったのかと聞いてきたが私は何もなかったと答えその場をやり過ごした。

 私は誹謗中傷のことをアイドルグループに隠し独自に調べることにした。この時は他のメンバーに気を使わせないと思い誰にも言わなかった。

ユイ

こんな事ってある

 自宅のパソコンを使い調べるとイエローローズの誹謗中傷に周りの人からも注意や指摘をされていたが無視して誹謗中傷を続けていた。

 流石に可笑しいと感じたが手を止める事は出来なかった。

 私はイエローローズに直接、誹謗中傷を止めるように説得をした。

 メッセージを送ると直ぐに返事が帰ってきた。

イエローローズ

ヤッホーユイちゃん急に話したいなんて驚いた。でも、意見を言うのは自由のはずです。あなたに縛る権利はないはずです

ユイ

言いたいことは分かります。ですがやり過ぎです

イエローローズ

どこが?

ユイ

えっ……

 この人は自分のやっていることが理解していないようだ。

イエローローズ

私はあなたのことが嫌いでその想いを語っているだけです

イエローローズ

それが何か悪いのか

イエローローズ

意味が分からないんだよ

 私は勘違いをしていた。イエローローズは悪意で誹謗中傷をしているのではなく本心で語っていた。

イエローローズ

あ前より私の方がキレイだ

イエローローズ

お前より私の方が痩せている

イエローローズ

お前より私の方が賢い

イエローローズ

お前より私の方が上手に歌える

イエローローズ

お前より私の方がアイドルに向いている

イエローローズ

お前よりお前よりお前よりお前よりお前よりお前よりお前よりお前よりお前よりお前より……

ユイ

――ひっ

 次々とメッセージが送られてきた。私は怖くなってパソコンの電源を切ろうとした。

お前が憎い

ユイ

――――

 突如、耳の側で女の声がした。私は何度も声のした方を振り向こうと思ったが思い止め目を閉じて黙ってました。すると気を失って倒れました。

 気が付けば私はパソコンの前で寝て朝を迎えていた。

 あの時、振り向いていたらどうなっていたか想像もしたくありません。ただ、気を失う前に私以外の人が居たのは間違いありません。

 この日を境にイエローローズのアカウントは削除されて誹謗中傷も無くなりました。あの時の事を相談しましたが真相は分かりませんでした。

 今でも私はアイドルを続けています。ただ、あの時の事は忘れないでしょう。

※この話はフィクションです。実際の人物・団体・事件とは一切関係はありません。

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