第7幕
捜索!幽霊少女!!

ルオネルト

うわ…すごい量の資料だね…手分けした方がいいかも…

サヴァラン

そうだね…ルオはそっちお願い。

ルオネルト

D'ac!朝ごはんの時間の少し前になったら、1度整理のために話し合おうか。

サヴァラン

ああ。それじゃ

資料室には、閲覧用の机が幾つかと、控えめな装飾が施された本棚が沢山並んでいた。

サヴァラン

とりあえず…この列車と、エーデルワイス家についての文献を読んでみよう。歴史はそんなに得意じゃないからなぁ…

予備知識でもあれば、少しは違ったんだろうけど…
適当な資料を手に取り、そのままパラパラとページをめくってみる。それらしい所を拾って読むに、列車に関しては昨日ベルリーナが言った通りの経緯でできたもののようだ。
写真が残ってるかどうかも微妙な年代だけど…写真から割出せれば、あの子の正体も割と簡単にわかるかもしれない…使用人とかだったらアウトだけど…

サヴァラン

……そういえば…あの子、クラバットとライバルだって言ってたよな…?女の子を探せばいいと思ってたけど、もしかしたら違うのか…?幽霊って、本当に死んだ時の年齢でその場にとどまっているものなのかな…?

サヴァラン

あの子は警察の関係者が何かで、エーデルワイス家に深く関係していて…それでいて、クラバットを追っていた…とか…

サヴァラン

うう…こんがらがってきた…!

でも、今のところピンとくるのはジュディ=エーデルワイス以外にない…

サヴァラン

………手がかりもないし…手あたり次第調べるしかないかぁ…

その後も二時間ほど資料を読んだところ、次のことがわかった。

ジュディ=エーデルワイス…享年10歳

東の大貴族といわれたゲーテ家の分家の中でも
上位の権力を有する家
エーデルワイス家に生まれた。

心臓が弱く体調を崩すことが多かったそうだが
それに反した明るい性格で
エーデルワイス家に留まらず様々な人物から
愛されたという。

中でも、後にゲーテ家最後の当主となった
アルバスター=ゲーテと親しかったらしく
一時期は婚約まで示唆されたという。

彼ら自身も
それを望んでいる節があったというが
真実は定かではない。
 
 

サヴァラン

へえ…ゲーテ家って、そんなすごい家柄だったんだ……

サヴァラン

……つまり…どういうことだ…?

あの女の子が持っているのは、ゲーテ家の遺産で、怪盗クラバットがすり替え損ねたお宝で…

サヴァラン

………どうして、没落する前のゲーテ家の遺産を、あの子が…?

これは…合わせ鏡について調べる必要も出てきたかな…でも、他所の遺産の手がかりなんて、ここには…

きゃっ!!

わあっ!?

ひとつ向こうの通路から、女の子の悲鳴と、たくさんの本が落ちる音がした。手に取っていた資料を慌てて戻し、そちらの方へ向かってみると…

ベルリーナ

うう…

サヴァラン

リーナ?

そこには、ルオとベルリーナがいた。どうやら、ベルリーナが本棚にぶつかって、資料が下に落ちたようだ。

ベルリーナ

さ、サヴァランさん…

ルオネルト

ごめんねアラモードさん!怪我はない?

ベルリーナ

っ………

サヴァラン

リーナ、ルオ…何があったの?

ルオネルト

えっと…この本棚を見ようと思って、通路に入ったところでぶつかっちゃって…考え事しながら歩いてたから、前見えてなかったんだ。

サヴァラン

そうだったんだ…リーナ、立てる?

ベルリーナ

………はい…

サヴァラン

大丈夫?怪我は?

ベルリーナ

……大丈夫です

サヴァラン

そっか…それじゃあよかった。

盛大に本をぶちまけたことが相当恥ずかしかったのだろう。ベルリーナは顔を心做しか青くして、俺の手をとって立ち上がった。

ベルリーナ

……あ、あの、サヴァランさん…

サヴァラン

うん?なんだい?

ベルリーナ

………あの………

ベルリーナ

…………………

ベルリーナ

………なんでも、ないです…

サヴァラン

…そう?

ベルリーナ

…………

ベルリーナが言い淀むなんて、珍しいな…本をぶちまけたのがそんなに恥ずかしかったのかな?

ルオネルト

怪我ないみたいだね。良かった良かった〜!

ルオネルト

さ、本片付けて、アマンドと合流したらいい時間だね。情報交換もしたいし、そろそろ部屋戻ろ♪

サヴァラン

そうだね

ベルリーナ

……いえ

落ちた本を取ろうとすると、ベルリーナがそれを手で制した。そのまま俺の側まで散らばった本を全て取り上げてしまうと、それらを棚に戻し始める。
 
 

ベルリーナ

片付けはやっておきます。ぶつかったのは私ですし…それに、私はまだ少し調べ足りないので…お2人は先に戻っていてください。

サヴァラン

え、でも…

ルオネルト

そう。ならお言葉に甘えようかな。行こ、サヴァランくん!

サヴァラン

……ああ

ルオが俺に手を差し伸べる。それを取ろうとして……けれど、やっぱり…

サヴァラン

………

ルオネルト

サヴァランくん?

サヴァラン

…ごめん、先戻ってて。

ルオネルト

え?

サヴァラン

女の子一人に全部任せるのも…やっぱちょっと、プライド的に許せないし。あと…俺ももう少し調べたいことがあるんだ。

サヴァラン

ここも、頭の中も整理したら戻るよ。一応間に合うように戻るつもりだけど、遅くなったらアマンドに謝っといて

ルオネルト

……そっか。うん、わかった

ルオネルト

じゃ、また後でね

ルオは小さく手を振って、その場から去っていった。扉の開閉音がし、しばし列車の走る音だけが響く。

サヴァラン

……さて、ちゃちゃっと片付けちゃおっか

ベルリーナ

…どうして…

サヴァラン

どうしてって…言ったでしょ?プライドが許さないんだって。

ベルリーナ

………

サヴァラン

……それに…

サヴァラン

何か言いたいことがあったんでしょ?ルオがいるから言えなかったのかなーって……

ベルリーナ

………

ベルリーナが伏せがちになっていた顔を上げる。感情を顕にしないサファイアの瞳は、俺の隠している何もかもを見透かしているようだった。

サヴァラン

……………わかった。わかった。白状するよ…

サヴァラン

実は……

俺は昨晩起こったことを包み隠さずベルリーナに話した。ルオには悪いけど…やっぱり彼女に隠し事はできない。本当に鋭いんだから…

ベルリーナ

……そ、そうなんですか…にわかには信じ難いですが…

サヴァラン

ああ…それで、その子の正体を探らなきゃいけなくてね。早くからここで資料を漁ってたってわけ…それで、参考までに聞きたいんだけど…

ベルリーナ

なんですか?

サヴァラン

…ケーリュケイオンの合わせ鏡って、知ってる?

ベルリーナ

ケーリュケイオンの合わせ鏡……ですか?

サヴァラン

ああ、その…確たる情報源からの情報でね。女の子が持ってた鏡が、もしかしたらそれなんじゃないかって…それのルーツを探れれば、少しでも何かわからないかなーって

ベルリーナ

なるほど…

ベルリーナは少し口元に手を当て思案する…しかし、思い当たるものがなかったらしく、ふるふると首を振った。

ベルリーナ

すみません…それについては知らないです。

サヴァラン

そっか…うん、ありがとう

ベルリーナ

ですが…あなたの言うことが本当だとしたら、その鏡は『クラバットの忘れ物』なのでしょう?それに、何故かあなたを怪盗クラバットと誤認している…これについては、何か心当たりは?

サヴァラン

それは……考えてはいたんだけど、分からないんだよね…

サヴァラン

そもそも、ケーリュケイオンの合わせ鏡はエーデルワイス家の資産じゃなくて、ゲーテ家ってとこの資産らしくて…ますますこの列車やエーデルワイス家とは関係ないし…

ベルリーナ

……ゲーテ家、ですか…

何かピンとくるものがあったのか、ベルリーナはもう一度口元に手を当て考え始めた。
ああ…最初から彼女に頼るのが正解だったかな。頭の中がすごく整理されてく気がする…。

サヴァラン

何か思い出せそう?

ベルリーナ

いえ…ただ、ゲーテ家も最後の当主は火災で亡くなったと聞いているので…落雷での火災とはいえ、ジュディと通じるものがあると…

サヴァラン

え…そうなの…?
じゃあ、ゲーテ家没落の原因って…

ベルリーナ

ご存じでしたか。おそらく…それが直接の原因ではなくとも、何かしらの原因になったのではないかと。

サヴァラン

そうなんだ…

ゲーテ家当主とジュディは婚約も示唆されてたって言ってたよな…なんか、いやな運命だなぁ…

ベルリーナ

…そもそも、なんですけど。
怪盗クラバットが台頭したのは、落鳴事件があってから十年以上あとのことです。幽霊がジュディであれば、そもそも彼のことを知っているわけがないんです。

サヴァラン

え!?そうなの!?

ベルリーナ

ええ。なので、彼女がジュディ=エーデルワイスだと考えるのは少々早計かもしれません。

サヴァラン

そっかぁ…

ベルリーナ

…しかし、話を聞く限りでは、その幽霊は機関室からは出られないようなので…間違えたときのペナルティがわからない以上、放っておくというのも一つの手だとは思いますよ。

ベルリーナ

少し、可哀そうではありますがね。

サヴァラン

…答え一つくらいは出してあげたいんだけどなぁ…

ベルリーナ

……危険を感じたらすぐに逃げてくださいね

サヴァラン

うん。逃げ足だけは自信あるからさ、安心して!

ベルリーナ

……それはそれで、なんか…残念ですね…

それから、本をあらかた片付け終わった俺たちは、各々一度部屋に戻り、いったん準備してから合流することになった。
あの少女がだれなのか、謎は深まるばかりだけれど…できることなら、何かしらの答えは出してあげたいなぁ…。

サヴァラン

今日はバーに行く約束もしてるし…夜にもう一回調べに来よう。

サヴァラン

ルオ、おまたせーー

ルオネルト

サヴァラン君サヴァラン君!!

サヴァラン

おお!?…ど、どうしたの…?

部屋に入るなり、ルオがずいと距離を詰めてくる。いつに増してきらきらとした瞳には、底知れない自信と確信が見え、あふれていた…

ルオネルト

僕ね、わかったんだよ!あの幽霊の正体!!

第7幕 5ホール目 捜索!幽霊少女!!

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