???

あぁっ!あれはひょっとしてっ!!

 数えで十七の少年……高天野原鼓(たかまのはらのつづみ)が草原を歩き、その隣を鳥らしき生物……火炎(かえん)が飛んでいる。

 鼓の格好はかなりの軽装で、特に重ねていない着物に長い髪は束ねていた。
 見るからにこの大陸では【旅少年】と呼ばれる旅の少年だ。

 しかし先程の喋り声は火炎の方である。

 とはいえこの状況は特に妙では無い。
 この大陸は一見動物のようにも見えるが特殊な技を持って戦う怪獣(モンスター)が数多く生息しているからだ。他にも妖精、精霊、妖怪、怪物、物怪等、数え切れない不可思議生物が生息している。

 怪獣の中には人語を解し、話す事が出来る物も居る。
 又怪獣達等の不可思議生物を操れる召喚師と呼ばれる人間と契約を交わす事で人々を助けたりもする。
 しかし逆に野生の怪獣は人々に攻撃をしてくる事が多い。

 鼓の隣を飛ぶ火炎も怪獣の一種だ。
 ただ鼓は祓屋家系の生まれで召喚師の端くれではあるが、火炎は彼と契約をしている訳では無い。
 元々は鼓の家を守る怪獣……通称家守守護獣(やもりしゅごじゅう)であった火炎だが鼓の両親が亡くなる前に彼を守るよう頼まれたのが彼と一緒に居る理由だ。
 鼓は『何でも屋』と称しながら大陸を旅する修行中の身。そんな若輩者に従う不可思議生物もそう居ないのである。

鼓(つづみ)

何か見えたのか火炎?確か御前の眼は遠くまで見渡せるんだよな?

火炎

ああ国らしき物が見えたぜ。こっから百キロくらいかなー

鼓(つづみ)

そうか、良かったな

 燥ぐ火炎だが鼓の反応は冷たい。

火炎

何だよその興味無いって態度。もう少しで着けるんだぜ?嬉しいじゃないか

鼓(つづみ)

遠いわ!!

火炎

えー

鼓(つづみ)

僕には影さえ見えやしないぞ?
もう少しな訳無いだろうが


 それに取り成すように火炎は言う。

火炎

御前が見えないとしても俺には国が見えて居るんだ。そんな遠くじゃ無いって!

鼓(つづみ)

嫌、かなり掛かるぞ?御前が見えたとしたってそれは怪獣だからだ。僕には見えないんだよ。つまり僕にしてみりゃ遠く離れているって事になるんだぜ?
怪獣に見えているから近いってのいうのは僕等からしてみれば屁理屈なんだよ


 鼓が言っているのは尤もである。

鼓(つづみ)

わかったか馬鹿鳥!

火炎

誰が馬鹿鳥だ!俺様にはちゃんと名が有るんだよ!


 火炎は売り言葉に買い言葉で返しながら続ける。

火炎

男ならごちゃごちゃ言っているなよ!
良いんだ。俺様が近いって言うんだから近い!

鼓(つづみ)

…………


 鼓は不服そうな表情で何かを返そうとしたがそれは叶わなかった。
 物凄い勢いで進行方向から何かが走ってきたからである。

鼓(つづみ)

……何だ?

???

ちょっちょっとどいてえええええぇぇぇぇぇ!!

火炎

あの嬢ちゃんも奴等も思った以上に速かったか……しょうがねぇ


 少女らしき声が聞こえたのと火炎が何事か呟いたのはほぼ同時。
 続いて火炎は叫んだ。

火炎

火球の守り(ファイアーボールプロテクション)

 同時に足を止めた鼓の手前に炎の壁が出来、その壁にぶつかるような形で少女が止まった。
 更に止まった少女の四方を炎の壁が囲む。
 するとその壁にぶつかったらしい何かが飛散して消えた。
 怪獣である火炎が持つ技の一つだ。

鼓(つづみ)

何が起きたんだ?


 何が何だか訳がわからず固まる鼓の前で火炎が造り出した壁は消えた。
 一連の出来事の渦中に居たらしい少女がその様子に驚いたように言った。

???

貴方凄い召喚師なのね……

鼓(つづみ)

え?い、嫌僕は何にもしてないけど

???

変な怪獣に追われて大変だったから助かったわ

鼓(つづみ)

嫌、だから……僕は何にもしてないって……!


 真実を伝えたい鼓だが、少女は聞く耳を持たない。
 困り顔になると代わりに火炎が彼女に話し掛けた。

火炎

おいおい嬢ちゃん、俺はそこのヘタレに飼い慣らされる程度の怪獣じゃねぇぞ

鼓(つづみ)

ヘタレ言うな!


 思わず鼓は突っ込みを入れた。
 しかし少女にも火炎にも届かなかったらしい。

???

わっすごーい。喋る怪獣始めて見た

火炎

へっへっへっこのくらいったりめーよ!この俺様をそこらの奴等と一緒にされたら困るぜ

???

貴方すごいねー。こんな変なの従えられるんだ

火炎

変!?


 火炎は彼女の言葉にショックを受けたらしい。

鼓(つづみ)

あ、駄目だこの子、話が全然通じない


 鼓は頭痛を覚えた。

???

貴方名前は?

鼓(つづみ)

え、僕?鼓だけど……

火炎

この高貴なる俺様は火炎!

 鼓と一緒に火炎も名乗るが少女は聞く気が無いらしく何の反応もしない。ただ鼓だけを見ながら自分も名乗った。

???

わたしは蕾(つぼみ)。この付近の術中(すべなか)皇国の第一皇女なんだけどね

火炎

……嬢ちゃんそりゃ無いぜ


 鼓はぼやく火炎を哀れにも思ったのだがそんな感情は彼女のとんでもない名乗りに吹っ飛んだ。

鼓(つづみ)

皇女様!?


 驚いて叫ぶが蕾はそれも軽く無視する。

蕾(つぼみ)

貴方に依頼するわ。最近野生の怪獣が増えてきて国民が困ってるの。だから調査して欲しいんだけど

鼓(つづみ)

そんな急に!?

蕾(つぼみ)

貴方みたいな凄い召喚師ならきっと解決出来るでしょ?だから頼みたいの。
報酬は弾むわよ。勿論やるわね?


 鼓は困惑しっぱなしだがそう言われては『何でも屋』としても放っておく訳にはいかない。

鼓(つづみ)

……わかりました。全力を尽くします


 相手は皇女である。流石に敬語に直してそう返した。

蕾(つぼみ)

宜しい。じゃあ国まで一緒に行きましょ。
父上の所に案内するわ

 彼女のその発言によって結果的に二人と一匹で旅をする羽目になったのだが、鼓は一つ重大な問題を抱えていた。

鼓(つづみ)

僕祓屋家系の生まれだし、召喚師の端くれでもあるけど……ちゃんと野生怪獣と戦った事無いんだよな。
……大丈夫かな

 しかし不安でも蕾が開放してくれそうには無い。
 結局は挑むしか無いのである。

序章 旅少年と皇女様

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