アンノン

……

 人の形をした影は確実に鮫野木に近寄っていた。雪音は急いで鮫野木に駆け寄ると腕を掴んだ。

 俺は突然の事に驚いていた。

鮫野木淳

どうしたのユキちゃん

小斗雪音

いいから逃げよう

鮫野木淳

え?

 怖がっている雪音はある場所を見詰めていた。その方を見つめると危機を理解した。

 音もなく徐々に近づいて来ていた。人の形をした影はユラユラと手を伸ばし捕まえようとしているみたいだった。

鮫野木淳

全然、気づかなかった……

 二人は素早く公園から出た。公園から出ても人の形をした影はゆっくりだが追いかけている。

六十部紗良

良かったわね。まだ、昼間で

鮫野木淳

どういう意味ですか?

 俺の疑問に紗良は答える。

六十部紗良

あの影は日差しの中では見たように遅いわ。でも日陰では逆に素早いわ

六十部紗良

それに腕が伸びるの

 公園から出た二人に紗良は忠告をした。

 紗良の行ったことは本当だろう。廃墟でテレビから出てきた手はあの影だ。この裏の世界に引き込んだのもそうだろう。もう一度あの影に捕まったらどうなるかわからない。

六十部紗良

夜は影に見つからないようにしないとね。捕まるわよ

鮫野木淳

捕まったらどうなるんですか?

六十部紗良

――さぁ

 紗良は首を振った。

 誰も捕まった後のことはわからない。ただ、捕まってはならないことは心から感じた。

 公園から離れて藤松と凪沙を探した。公園からそこまで離れていないと思ったがいくら探しても見つからない。

 公園の近所を全て探したが見つからない。捜索範囲を広げても見つかる様子がなかった。

 人の姿がしない道を歩いていると自分が住んでいる街と違うことを思い知らされていた。俺は次第に足を止めた。

鮫野木淳

どうして見つからないんだろう

ふと漏れた言葉に疲れが出ていた。歩き続けて疲れているのもそうだが身体以外も疲れていた。

 不安そうにしている鮫野木に紗良は声をかける。

六十部紗良

そうね。影から逃げて中心街にむかったか

六十部紗良

影に捕まったか

鮫野木淳

それは――ない

 俺は紗良を睨みつけた。

 考えないようにしていたことを言われて焦っていた。二人に何が起きたかわからない。ただ、言うタイミングが悪かった。

 紗良に悪気が無いようで淡々としていた。

六十部紗良

そうムキにならないで可能性の話よ

六十部紗良

何が起きてもふしぎじゃないところよここは

鮫野木淳

わかっる。でも言わないでくれ……

 確かにその可能性はある。けれど、言わなくてもいいだろ。

六十部紗良

そう、でもね。時には判断が必要な時があるわ

鮫野木淳

――どういう意味ですか

 つばを飲んで紗良の言葉に身構える。紗良は腕を組んで答えた。

六十部紗良

意味が必要、なら教えてあげる。感情だけではここから帰れないわよ

六十部紗良

裏の世界だかなんだか知らないけど私はやらなければいけない事があのわ

六十部紗良

私はこんな所で一生を過ごす訳にいかないの

六十部紗良

私はここから帰る。そのために何をするかが大事じゃない

六十部紗良

例え、どんな事があってもね

 紗良には意志があった。必ず元の世界に帰ることを目的にしていた。元の世界に帰ることなんて考えてなかった淳は何も言い返せない。

 加え帰った後のことも考えていることが羨ましかった。俺には元の世界に帰っても紗良みたいに目的も無い。

 自分との差がはっきりして悔しくもあった。

六十部紗良

友達と生きて帰りたいなら付いてきて夕焼けになる前にね

鮫野木淳

わかったよ

 渋々、紗良の言う通りに移動した。夕方になれば人の形をした影が現れる。昼間より活発に動くのだろう。

 そのことを知って紗良は二人を探すことを切り上げたのかもしれない。

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