君は…私の…恋人かな…。
 微かに聴こえたおぼろげになりつつあるこの言葉。自分が一番聞きたかったのはこの言葉だった。

 淫らな夜が明け、太陽が東の地平線から上がる。神々しい太陽の光が盟主の部屋に差し込む頃、お互いにその淫欲を満たした盟主と私は同じベッドの中で目を覚ました。
 私達は制御するのを忘れて、最後は気絶するように、眠りに入ってしまった。
 彼が私の上で寝ている。私はまだ彼の愛液まみれでその彼に覆いかぶさられたまま目を覚ました。長いまつ毛と端正な眉毛。綺麗に輝く銀髪が乱れたまま太陽の光を浴びると不思議な輝きを放った。
 そう言えば…一つ気がついた。
 私は小説内で、彼は不眠症を患っていると書いた。あれは本当なのだろうか?
 とても、そうとは思えないほど、安らかに寝息を立てて眠っている。
 その安らかな寝顔の唇を奪いたい衝動に駆られる。だけど、キスをした途端、またセックスまでなだれこみそう。
 でも…それでも…。
 私は挨拶代わりに、彼の唇を奪う。

翔子

んんっ…はあっ…レム…

レム

なんだい?こんな朝から…

 珍しく抗議の声を上げたレム。少しまだ目が虚ろだった。

レム

昨夜で精力はもう無くなってるんだから、勘弁してくれ…。全くどちらが下僕なんだか…

 そうやって彼はゆっくりと起き上がった。少し私の身体をどけるように起き上がる。お互いに全裸で寝ていたものだから、彼もまた全裸で起きて少しあくびをしていた。どうやらまだ眠たい様子だ。不眠症なのは間違いない。
 自分の愛液まみれの私に、彼は近くのシャワールームで身体をきれいにするように勧めてくれた。薄くて白い毛布をかけて下半身を隠して優しく促してくれた。

レム

そこのシャワールームで、身体をきれいにしてきた方がいい。そんな姿で屋敷中を歩き回られても困るのは私だからね

レム

それとも今度はシャワールームで一戦をしたいって言うんじゃないだろうね?勘弁してくれ。これ以上したら死んじゃうよ

翔子

はい。わかりました。行ってきます

 太陽の光が差している時間は、盟主と彼の下で働く下働きの女。最低限のルールはセックスしている最中に決めたルールだった。
 私は全裸でシャワールームに行き、彼の愛液をきれいに流した。しっかりと身体も石鹸で洗った。朝のシャワーというのもいいなって思う。心地よい朝日を浴びて、綺麗な水で身体を清める。
 太陽の恵みを身体中に浴びて、シャワーを浴びると、お清めしたと感じる。
 そうやって、私達は朝食の時間が来る前に別れて、私はリリアが眠る、私達下働きが寝る部屋へ戻った。

 リリアはもう起きている。彼女は朝は早起きで、身支度をしている様子だ。
 茶髪のロングヘアーはしっかりと艶があり、本当に綺麗な髪。そのロングヘアーを三つ編みにして、最後に赤いリボンをつけている様子が見えた。

リリア

おはよう。翔子ちゃん

翔子

おはようございます。リリアさん

リリア

随分と燃えちゃった?

翔子

ええ…。昨日教えてくれたリリアさんの仰った”媚薬”。やっぱり昨夜使われました

リリア

そうだったんだ。その割には、なんか翔子ちゃん、すっきりしたって感じに見えるね

翔子

溜まりに溜まっていた欲望を満たしてくれたから。あの人が。すっきり出来たんだと思うの

リリア

そう…。それは良かったね

 その台詞を言うリリアの表情も、どことなく満足している様子に見えた。
 何故なのかな?昨夜はリリアにとってはとても寂しい夜だと思ったのに、彼女にも昨夜、何かあったのだろうか?
 何だか嬉しそうに身支度しているから思わず訊いた。

翔子

リリアさん、何だか朝から嬉しそうですよね。何があったんですか?

リリア

実はね…、昨夜は私の相手をあのアドニスがしてくれたの

翔子

アドニスさんと?

リリア

アドニスも欲求不満だったから、欲求不満どうしでセックスしたのよ?

 私が昨夜、セックスに溺れて、半端ではない”快楽”を貪っていた頃…。

 昨夜、深夜12時30分。

 その夜はリリアも自慰に耽って、火照る身体を一人で慰めていた頃、アドニスも己の欲望を発散してしばらく脱力するようにベッドに横になっていた。
 隣の部屋では翔子の激しい喘ぎ声が響いてくる。こんな喘ぎ声を聴かされたら、また自分の分身は欲望でいきり立ってしまうと思い、その部屋から去り、何気なく2階に下りた時。
 今度はリリアが男性を求める声が聴こえてしまった。
 ”全く、この屋敷の姫様たちは何て性に対して貪欲なんだ”と思いながらも、自分の性への欲望を満たしてやりたいと思って、ドアノブに手を伸ばしてしまう。
 鍵はどうせかかっているだろう…と思った瞬間、ドアノブは簡単に動いて、開ける状態だった。
 リリアは鍵をかけずに自慰に耽っていたのだ。
 その瞬間、アドニスは思った。”これは自分の淫欲を満たして欲しい”という意志表示なんだ。なら誰でも今なら簡単にリリアは男を受け入れるに違いない。
 それでも気づかれないように、静かにドアを開いた。
 部屋に入って右側のベッドで、リリアが全裸で夢中になって自慰に耽っているのを間近で鑑賞したアドニス。
 リリアはうわごとのように、必死になって、こう台詞を囁いていた…。

リリア

誰か…誰でもいい…はあっ…はあっ…私を抱いて…ぇ!

アドニス

なら、僕が代わりに抱いてあげましょうか?

リリア

ア、アドニス…

アドニス

申し訳ございません。鍵がかかっていなかったもので、勝手に入らせてもらいました

アドニス

でも、リリアさんは欲求不満そうですね。実は僕もなんですよ。どうせなら、欲求不満どうし一夜を共にしませんか?

アドニス

翔子さんは朝まで帰ってくる様子はないようです。今もレム様の相手をしているでしょう

 その意外な申し出にリリアは思わず、今は自室で翔子を抱いている盟主を咄嗟に思う。
 こんな所で別の男に抱かれたら、私はあの人に捨てられてしまうのでは…と。
 確かにあの人は今は別の女を抱いている。明らかに、あの街で調合してもらった”媚薬”を盛って今頃、半端ではない”快楽”を貪っているのだろう。あの翔子が。
 だけど、あの人は少し嫉妬深い男性でもあった。自分が抱いた女を別の男に寝取られる行為は彼にとっては”屈辱”でしかない。
 それこそ、寝取った男性を、その自分が持つ”権力”で”社会的”に抹殺を考えるくらいに、嫉妬深い男性だった。
 そして、寝取られた女には、彼の場合、更に強烈な”快感”を与えて、自分無しではいられなくする。そうやって、女性が自分という男無しではいられない状態にして、自分だけの”女”にして自分の思うがままにしているのだ。

 だけど、火照る身体を慰める”女”から見れば、彼は嫉妬深い男性というより、異常に”性行為”に対して執着する男性に見えた。
 世間では、恐らくこう言われるものだろう。
 ”淫乱症”もしくば”色情過敏”と言われる一種の病気である。
 ただ、彼の場合は誰彼構わず、セックスをしたいではなく、”自分が認めた女性”としたいという線引きはしている。
 ”淫乱症”と呼ばれる男性なら、今頃、この街の娼婦としていたり、街角の女を誘ってしているはず。
 だが、彼は”娼婦”を嫌っていたし、誰にも空いている蕾に己を入れる行為はとても気持ちいいものではない、という考え方だった。
 かなり”淫乱”なまともな男性というカテゴリーの人物で済む男性であった。

 レムレースの盟主という役職はかなりのストレスを抱える。
 主たる四つの街を治める”盟主”であり、外交や税金の問題から、この異世界の隠された真実を突き止める役割を担っている人物である。
 とてもではないが、一人の人間が果たせるような役割ではない。
 それに、彼には妻という妻はいないので、ストレスを発散させようにも、相手となる女性もいない。
 だからといって彼の場合、嗜好品にすがってストレス発散といっても、煙草は吸わないし、酒もかなりであるが弱い人物である。食べ物も好き嫌いが激しい人物で、五感も彼は発達している。
 そう。翔子が書いた世界の主人公は、まるで翔子が男性になっているような人物だったのだ。

 リリアは全裸で今もアドニスを見つめながらも、その右手は花びらを弄っていた。
 欲望の蜜が更に溢れて、目の前の他の男性を率直に欲しがっていた。
 彼女はもう我慢の限界だ。今すぐに、この自分の淫らな欲望を満たして欲しい。
 それが、アドニスなら、レムだって許してくれるかも知れない…。

リリア

アドニス…。お願い……ここを舐めてくれないかしら…

アドニス

喜んで、リリア様…

 アドニスも夜は鎧を外して寝間着姿だった。彼はその寝間着を脱ぎ棄てると、ボクサーパンツも脱いで、誇らしげに自分の分身を見せる。彼もまた欲望でいきり立っている。
 おもむろにベッドに上がると、リリアを大股開きにして、少しずつその顔を花びらに近づける。
 リリアの欲望の蜜が自分を扇情的に煽っている。”犯してほしい”と誘っているように見えた。
 彼が左右の指で花びらを開くと、何も躊躇しないで、思い切り舌を這わせた。乱暴なくらいに舐める。

リリア

ああん!あっ!アドニス!

アドニス

あの方はこんな美味しい蜜を舐めているのですか。俺もじっくり賞味させてもらいます

リリア

ああん。アドニス、もっと!もっと…乱暴に舐めてぇ…!

アドニス

いきますよ

リリア

そう…そうよ…!舌をねじ込んで…お願い

 彼はそこで隠していた牙を剥く。ずっと抑制されてきた自分の雄の部分。それを今、ここで解放した。
 彼は乱暴なくらいに舌を花弁の奥へねじ込み、深い、深い、オーラルセックスをした。盛大に淫らな音を立てて、その口を愛液で汚していく。自分から積極的に、欲望の蜜で汚していく。
 薄暗い青味を帯びた下働きの女の部屋に、一組の男女が抑制されていた自身の欲望を満たしていた。
 リリアが甲高い声を上げる。だが、それは悦びに満ちた女の声だった。
 アドニスももう限界とばかりに、リリアに許可を得る前にさっさと分身をえぐるように鈍く深く花びらを貫いた。
 そして、淫らな腰遣いで、女の聖域で彼は暴れる。汗が滲んできている。リリアの腰を抱え込んで、巧みに腰を振った。
 彼女の柔らかい肉の感触が堪らない快感をアドニスに与える。彼が余りの快感で顔を歪めて、もう自分の欲望が解き放たれようとしているのがわかった。

アドニス

すごい…!リリアの中は気持ち良すぎる…!もうイキそうだ

リリア

イッちゃっていいのよ…!アドニス…!何回でも、私の中でイッて!私がイクまで

アドニス

ああ…いいのか…?リリア…?妊娠しちゃうかも…

リリア

大丈夫よ…、私…避妊薬飲んでいるから…!だから…何回でもイッて、アドニス!

アドニス

もうイク!

 さして、セックスを始めて10分も満たない時間で、アドニスが一回目の絶頂へ駆け上がる。
 アドニスの脳に確かな”快楽”が刻まれていく。そうだ。これが、俺が味わってみたかったものなんだ…。
 でも足りない。もっと、もっと、欲しい…!
 彼は自分の欲望が流れているところで、激しく腰を動かしてみた。まるで、稲妻のように、脊髄から伝わってきている。
 リリアは自分の腰に自らの足を絡めて、アドニスを逃がさないようにしている。
 彼女も喜んでいた。気持ちいい…!アドニスのセックスも好き…!乱暴なくらいに激しく腰を振っているけど、きちんと緩急をつけて突いてくれている。
 初めて彼女はその腕をこの目の前の男性に絡めたいと思った。
 アドニスの男性らしい身体に、リリアの腕が絡まる。そして対面座位になって、薄闇でも鮮やかに輝く金髪を抱き締めた。
 アドニスもリリアの身体に己の逞しい腕を絡めて、思い切り抱き締める。

 しばらくの間、一組の男女の逢瀬のセックスが、下働きの女の部屋に響いていた。歓喜に満ちた男女の肉体をぶつける音が聴こえる。
 何度も何度も、お互いに絶頂に上がって、その淫欲を満たしていく、リリアとアドニス。

 そこで、彼の、アドニスを縛っていた理性が壊れた。
 無理矢理、抑制されていた、自分の性への欲望が、こんな身近に満足させる人がいる。
 もう我慢する必要もない。翔子が望んで来たら、自分はそれに応えてあげればいいんだ。それが自分を満足させてくれるなら…。

リリア

アドニスのセックスも素敵だった。あの人、朴訥そうに見えるけど、テクニックも素敵だった

翔子

レムと比べるとどうなの?

リリア

どっちが気持ちいいとかそういうのはいい。ただ、アドニスも、女に飢えていたんだと思う。私が男に飢えているのと同じ

 その台詞に翔子も同意した。心の中で彼女もこう想っている。

翔子

そうだよね…。私も男に飢えていた…。今までの人生で、セックスが上手な男性に会ったことがなかった。でも、この世界にはその男性がいる…。私にとって…レムは理想の男性だったんだもの…

翔子

リリアさん。良かったね

リリア

翔子ちゃんも良かったね

 
 二人して笑っていた。

 昨夜は、翔子にとっても、レムにとっても、リリアにとっても、アドニスにとっても、”特別な一夜”だったのかもしれない。

リリア

じゃあ…今日も一日、頑張ろうっと

翔子

そうだね!

 そこで翔子は気になることをリリアに訊いてみた。

翔子

あのさ、レムって不眠症なのは…本当?

リリア

うん。以前から悩んでいた様子でした。相当なストレスで不眠症になってしまった様子です

翔子

どうせなら、二人で治してあげない?不眠症

リリア

それはいいかも知れないですね。あの方、結構頑固だけど、悪い人じゃないから

翔子

少し淫乱だけど、いい男なのは変わりないから

リリア

そういう私達も”淫乱”だけど…ね

翔子

……そうだね

 御崎翔子はやっと気付いた。

 そうだ…。誰よりも、淫乱なのは、私なんだ…、と。

2-1 不眠症とセックスと

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