羽翼葉花(うよくはばな)

えっと……今何時だ……?


 目を覚ました瞬間茜色に染まる空が目に入り俺、羽翼葉花(うよくはばな)は慌てて時計を確認した。

羽翼葉花(うよくはばな)

やべぇもう十七時……!


 この春大学を卒業して就職する予定だった筈が就職活動に失敗し

羽翼葉花(うよくはばな)

俺の良さがわからない企業が悪い!


 そういった思考に陥ってからは就職活動へのやる気も何もかもが消え、気付けば新社会人になって一月の予定だった五月を迎えていた。
 仕事も無い、遊び相手も居ないから……結局こうして寝て過ごす。
 覇気がない生活をしている自覚はあるものの……アルバイトを始めるのも何だか負ける気がしてならないから探しもしていない。

 こんな俺でも学生時代は優等生で通っていた。成績は常にトップクラス。受験に失敗した事も無い。そのままエリート街道を歩むのは約束された未来だと思っていたのだから……尚更やる気が出ないのだ。

羽翼葉花(うよくはばな)

はあぁ……何かした方が良いんだろうなぁ……けど何をするってんだよ


 学生時代は勉強が趣味という程勉強に勤しんでいた。そんな俺に趣味と呼べる物がある訳も無く……。
 というよりしっかりとした趣味があるのならずっと寝て過ごすなんてしないだろう。

羽翼葉花(うよくはばな)

はあぁ……


 毎日のように出る溜息には俺自身ももう飽きてきている程だ。

羽翼葉花(うよくはばな)

はぁ……

 それでも溜息を吐くしか無く、再び漏らしたその時だった。

 軽快な音楽と共に充電器に掛けっ放しになっているスマホが震えた。

 ディスプレイに表示されるのは見知った名前だ。

羽翼葉花(うよくはばな)

どうした立樹(たつき)?何か用か?

 電話相手は飛風(とびかぜ)立樹。 幼馴染であり腐れ縁。何なら俺の両親が経営しているアイドル事務所に就職したらしく、今一番聞く話題の人物でもある。

飛風立樹(とびかぜたつき)

やっほー、葉花。最近どーよ?
相も変わらずニート満喫かい?

羽翼葉花(うよくはばな)

満喫ってなぁ……暇過ぎてどうにかなりそうではあるけど

 喋りからもわかるように完全な陽キャラの立樹は……誰にでも分け隔てなく接するその性格から学生時代も人気者で有名人だった。
 仲良くなったきっかけも立樹が一人で読書ばかりしてた俺に声を掛けてくれたからだ。
 そんな奴だから勉強位しか能の無い俺とも親友関係で居られるんだろうけど。

 そんな電話相手・立樹は思いがけない事を言った。

飛風立樹(とびかぜたつき)

そんな事だろうと思ってさ、暇過ぎて辛~い葉花ちゃんに朗報だよん♪

羽翼葉花(うよくはばな)

え、朗報?

 食い気味に反応すれば立樹は楽しそうに応じる。

飛風立樹(とびかぜたつき)

そーそ。喜べ、仕事だぞ。
しかも重役!

羽翼葉花(うよくはばな)

重役?

飛風立樹(とびかぜたつき)

デデン!『翼プロダクション』の社長業務だよん!!

羽翼葉花(うよくはばな)

な、な、何だって~!?


 予想外過ぎる単語に俺は電話越しで固まった。

羽翼葉花(うよくはばな)

『翼プロダクション』って……両親の経営する事務所の一つだった筈……


 何だか両親のお零れを貰ったようで格好悪いが、仕事が出来るのはこの現状を思えば有難い。ただとても気がかりな事がある。

羽翼葉花(うよくはばな)

『翼プロダクション』って……所属アイドル居たか?

 両親の経営している会社なのだから多少なりとも情報は入る筈だが……『翼プロダクション』のアイドルの話は一切聞いた事が無い。真面に活動しているのかどうかも正直わからない。

 俺が困惑していると立樹が呑気に続けた。

飛風立樹(とびかぜたつき)

あーそうそう。あたしも副社長としてサポートする感じになったから宜しく

羽翼葉花(うよくはばな)

マジか!?それは心強いな……ってか御前が副社長?ん?で、俺は……

飛風立樹(とびかぜたつき)

あれ?聞いてなかった感じ?だから社長だって

羽翼葉花(うよくはばな)

……ハァ!?


 聞き直して改めて重大な事実に気付く。

羽翼葉花(うよくはばな)

う、うっそだろおおおおおぉぉぉぉぉ!?

 思わず叫んだ俺にスマホとの距離を離したのか、立樹の声が少し遠くなる。

飛風立樹(とびかぜたつき)

うるさっ……いやほらだって葉花、経営学んでたじゃん?

羽翼葉花(うよくはばな)

……確かにそれはそうだけど……いきなり社長って……

飛風立樹(とびかぜたつき)

だからあたしがサポートするって。心配しないの

羽翼葉花(うよくはばな)

……でもなぁ

飛風立樹(とびかぜたつき)

大丈夫大丈夫。
『翼プロダクション』の子達は皆良い子だし、一緒に頑張ってくれるよ!

 不安しか無い俺を立樹が必死で励ます。それでもその言葉を鵜呑みに出来る程俺は純粋では無かった。

羽翼葉花(うよくはばな)

本当に大丈夫なのか……?

羽翼葉花(うよくはばな)

就職失敗した負け組のこんな俺が……社長なんて

 俺が悩んでいる事を理解したかのように立樹が続ける。

飛風立樹(とびかぜたつき)

まぁそう思い悩むなって。詳しい事は『翼プロダクション』に行ってから説明する。それにあたしが言葉でどうこう言うよりかは実際所属アイドル達と会った方が安心もするんだろうし。
どうせ予定なんて無いっしょ?何なら明日あたしが迎えに行くよ?

 確かに立樹の言うように実際に所属アイドル達と顔合わせをした方が良いかも知れない。

飛風立樹(とびかぜたつき)

時間は十時位には着きたいね。どう、そういう事で?

羽翼葉花(うよくはばな)

……助かるよ、有難う。持つべき者は親友だな


 思わずそう言えば引き気味な声が聞こえて来た。

飛風立樹(とびかぜたつき)

うわ気持ち悪……まぁでも何となく落ち着いたならそれで良いや。
んじゃ、そういう事だから明日はちゃんと起きてよ

羽翼葉花(うよくはばな)

おう、勿論だ!


 俺が応えると通話は切れた。

羽翼葉花(うよくはばな)

明日か……

 自分が社長を任された事も立樹と仕事をする事もまだ何も実感は湧かないけれど……久々に心が躍るような……そんな感覚を覚えた。

羽翼葉花(うよくはばな)

今日は早く寝るかな……

※立樹のアイコン微調整しました

Chapter0 俺がアイドル事務所社長!?

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