銀色の……

chapter1-1常盤なずな

先を行くネズミに、心がひきつけられ、
昂る感情に胸の鼓動がハッキリと聞こえる。

追いかけたい、この世界を駆け抜けたい……。
いや、できるなら空を飛び回りたいとすら思うほどだ。
しかし、その気持ちに逆らうかのように、身体は上手く動かない。

思いだけが先走り、この両足は……何と重たい事だろう。
足元を見るが、鎖で繋がっている事もなく、
もちろん沼に浸かっている事もない。
だが、この足はどこから動かせば良いのだろうか……
足首から?膝から、腿をからなのか、どうやって前に進んでいたのだろうか。
そんな事が脳内を駆け巡る中、
同時進行で脳内に声が響く、駆け抜けたい。空を飛びたい。

ぐちゃぐちゃな思考回路に、気付けばその場に膝をつき、
両手も地面に付けていた。

白い花、白い世界、色のない世界。
周囲を見回しても、何もない―――無限に広がる白。
でも、こうして両手をついて気が付いた。

花の甘い芳香と、その愛らしさに……
そして、花の中央に小さな黄色が見えた。

立っている状態では気付く事ができなかった甘い芳香、
その色、より鮮明に花と理解できる。

ふと顔を上げると、澄み渡るほどの青い空が目の前に広がっていた。

……真っ白

目を覚ますと、いつもと変わらない天井だった。
でも、ここは、自分の部屋ではない……。

この部屋に来てから、何年たったのかも定かではないが、もう見慣れてしまった天井だ。

真っ白な世界は……この病院と同じね。

常盤なずなは、そう呟くと、ベッドから降りて、ゆっくりと歩きはじめた。

夢の方が不自由なんて……
何か、可笑しくなっちゃうな。

……つづく

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