影のような手に襲われてから何処かがおかしかった。まるで別の世界に迷い込んだみたいだ。何故、廃墟だった建物が新しくなっているのか、そこに住んでいる人がいるのか、他にもおかしな点はあるが一つ一つ考えていても謎が深まるだけだった。

 四人共考えは同じのようで話し合いもすることもなく歩き続けた。

 無言のまま下山をして四人は近くにある公園を目指していた。誰が提案したわけではなかったが自然と向かっていた。

 公園に辿り着くとしばらく何もしない時間が流れた。心を落ち着かせる時間が欲しかったのだろう。

 公園のベンチに座った雪音は話しだした。

小斗雪音

みんな大丈夫?

藤松紅

俺は大丈夫だ。ケガもない

凪沙新吾

僕も大丈夫だよ

鮫野木淳

……

 鮫野木だけ雪音の質問に答えなかった。鮫野木は何処か遠くを眺めていた。雪音は淳を気にかけたて話を続けた。

小斗雪音

ねぇ何が起こったと思う?

藤松紅

そうだな。いろいろ考えたんだが……裏の世界に居るのかもしれない

凪沙新吾

裏の世界? それって何?

 凪沙の質問に紅は答える。

藤松紅

とある噂だよ。俺達が住む世界とは別の世界が存在すると言われている。その世界に何らかの拍子で迷い込んでしまうそうだ

 たかが噂話に凪沙と雪音は耳を立てた。

藤松紅

その世界は何処か住んでいた町と同じに見えて全く違うらしい。そこで酷い目にあったりしなかったりするが元来た道を引き返せばもとも世界に戻れるそうだ。ただ、気味が悪いぐらい良く出来た夢と片付けるには現実味があるとも言われている

藤松紅

それが裏の世界って呼ばれている

凪沙新吾

なんだか複数あるみたいだね

藤松紅

人によって話が違うんだ。それだけ噂の数もある

 凪沙の推測の通り複数の噂が存在するようだ。多くの人が裏の世界に迷い込んで奇妙な体験をしたようだ。ただ、各自の裏の世界は違うようで同じものは存在しないようだ。

藤松紅

異世界ともパラレルワールドと言うけど、あるサイトがひと括りに裏の世界と読んでいるんだ

藤松紅

裏の世界は多く存在し時間軸もバラバラらしい。だから時間がずれているのかもしれない

凪沙新吾

そんな事ってあり得るの?

藤松紅

今までに起こった事の説明はつくだろ

凪沙新吾

言われたらそうかも

 噂通り裏の世界に居るのなら廃墟に入った時間と外に出た時間が違う事や廃墟だった建物が綺麗な家になっていた事の説明はつく、現実ではあり得ない事だが、ここが裏の世界だから起きるのだろう。

 今まで起きた奇妙な出来事に納得しそうになっていた時、鮫野木は一人鼻で笑い出した。

鮫野木淳

フフッ、ハハッ

藤松紅

おい、笑ってる場合じゃないぜ

鮫野木淳

……ハハ、誰かさんのせいでこんな事になっているのに、淡々と説明しちゃってさ

 鮫野木の口調に怒りがなかった。むしろ無に近い感情が伝わって来た。

 藤松は淳の態度に腹立ち胸ぐらを掴んだ。鮫野木は抵抗せず体を預けていた。

藤松紅

その言い方はないだろ

鮫野木淳

悪いかよ。そもそもお前が廃墟に行くなんて言わなきゃよかったんだよ

藤松紅

てめぇ、今それを言うか

鮫野木淳

うるさいな……

 何処か無気力な鮫野木に手が出しづらい。藤松は引くに引けずにいた。

 確かに藤松が廃墟に行くことを提案した。かと言って全て藤松が悪くない。そんな事わかってるのにどうして俺は何をしているんだ。こんな事したって意味ないのにな。

凪沙新吾

やめてよ。二人共、今は喧嘩なんて良くないよ

 凪沙が慌てて二人に呼びかけた。藤松は力を抜いて手を離し鮫野木から離れる。

 ひとまず喧嘩にならずにすんだ。凪沙は胸を撫で下ろした。

鮫野木淳

……わかってる。わかってるんだ

鮫野木淳

悪かったな

 鮫野木は藤松に謝ると公園の外に向かって歩いた。それに気づいた藤松は鮫野木の肩を掴んで止めた。

藤松紅

おい、何処に行くんだ鮫野木

鮫野木淳

そこら辺で頭冷やしてくるだけだ。十分もしない内に帰ってくる

藤松紅

そうか……

 覇気のない返事に藤松は手を離して鮫野木の自由にさせた。

 ゆったりと公園から出た淳は処かに消えそうだった。そんな事はないと思っているのだが雪音は走って鮫野木のところに向かった。

小斗雪音

待って淳くん。私も行く

鮫野木淳

……ああ

 直ぐに追いつた雪音は鮫野木と一緒に目的もなく歩く、歩いている内に少しずつ公園から遠のいていった。

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