風が吹き終わると静寂が訪れた。静かなのもまた不気味であった。

 廃墟の噂を聞いた新吾は怖がって身が竦んでいた。

凪沙新吾

やっぱりやめない。ここに入るの

鮫野木淳

凪佐、俺もその意見に賛成だぜ

 今からでも中止になって欲しい。俺も廃墟に入りたくない。二人は知らないだろうけど俺は……廃墟で大切な人と別れ、自分を変えた場所なんだ。

 そんな心情なんて知るよしもなく紅は何処か楽しそうにしていた。

藤松紅

何を今更、凪佐は廃墟の噂が本当かどうか。真実を明らかにしたくないのか

藤松紅

引き下がるわけないよな、なぁ、鮫野木!

鮫野木淳

お、おう、凪佐は一人で待っていても別にいいんだぜ

 淳も紅と同じような陽気なテンションになっていた。

 俺はまた自分を偽っている。乗り気のないはずなのに逆の行動に出てしまう。ここまで来たら呆れてしまう。そんな自分が嫌いだ。

 引き下がれない空気に負けたのか新吾は渋々紅を見つめ答える。

凪沙新吾

一人はやだ……行くよ

藤松紅

よし、そう来なくっちゃ

 紅は嬉しそうに廃墟に向かった。それを追うように淳と新吾も後に続く。玄関の前に移動しると玄関の扉が少し開いている事がわかった。

 まるで管理が行き届いていない。廃墟といっても誰かが管理しているはずだ。なのに戸締まりをしていないのは何処かおかしい。

藤松紅

ここから入れそうだな?

 紅は取っ手に手をかけて力を入れた。すると扉は音を立てて動いた。

藤松紅

開けるぞ

 勢いを付けて扉を引いた。傾いているか寂れているようで大きな音がした。扉を開けると玄関からまっすぐ伸びた廊下が見えた。

 三人は静かに廃墟へと入る。電気が付いていないせいか中は暗くて寒く感じた。廃墟を囲む木が日を遮断して日差しがあまり差し込まないからだろう。

鮫野木淳

廃墟に行かない。そんな事を考える時期が俺にはありました

 ごめん、俺はバカだ……よ。二度と行くかと決めたはずの場所に入っている。あいつとユキちゃんに約束したのに。

 そんな後悔も後の祭りだ。淳達はギシギシと音を立てながら廊下を行く。汚れている廊下の左右にいくつか部屋がある。ただ紅は迷いなく真っ直ぐと進んだ。

凪沙新吾

……やっぱり雰囲気があるよね

鮫野木淳

あぁ、それにしては暗いな

藤松紅

この先がリビングのはずだ。そこにカメラが倒れていたようだからな

 廃墟の名かを紅は良く知っていた。そもそも紅の目的が廃墟に侵入することではなく、噂の真相を確かめるためだった。元々、都市伝説が好きで情報を集めていた。

 そんな事もあって廃墟の噂を知った時、自分が住む町の廃墟だと気付いた。それから紅は廃墟の噂を調べていくうちに真相を知りたくなった。噂の元が何処までがでたらめで本当か自分の手で明らかにしたい。

 そんな使命感に駆られていた。

藤松紅

どれ……噂の真相はいかに

 リビングに繋がる扉を開けた。

 長年使われていないのが見てわかる。荒された跡もあり人の出入りがあった事が良くわかる。何処かカビ臭いリビングに足を入れて色々と思おうところがあった。

凪沙新吾

人が暮らしていないとなんか……怖いけど寂しいね

鮫野木淳

まぁ、廃墟だからじゃないか

 場所は違うが俺も廃墟に入った時は凪佐と同じ感情だったな。

 物珍しく周りを観察していた。特に紅は真剣に何かを探していた。

藤松紅

動画はテレビを写していた何処かにあるはずなんだが

鮫野木淳

テレビがどうした?

藤松紅

投稿者Yの動画に写っていたんだよ。その場所で投稿者Yが倒れてたって言っただろ

鮫野木淳

言ったかそんな事?

藤松紅

何だ。ちゃんと聞いてなかったのか鮫野木

 紅の言う通り良く聞いてなかった。目の前の廃墟に気を取られていたからだ。

鮫野木淳

悪い、それより投稿者Yの噂ってどんな感じだ。断片的にしか聞いてないから今一わからん

藤松紅

そうか、なら話すが……

 紅は語り出した。この廃墟に関わる投稿者Yの噂を……。

pagetop