疾風(ハヤテ)

さて……今日も行こう

 俺・疾風(ハヤテ)は今日も出掛ける支度をし、外に出た。
 普段は賑わう城下町も早朝のこの時間は静かだ。そんな空気が何だかんだ好きだった。

 目的地は数分で到着する神社。とはいえ参拝客なんて俺位しか居ないから……静かなものだ。

疾風(ハヤテ)

今日も平和な一日でありますように

 お賽銭を投げ込み、静かに瞳を閉じて願う。これが俺の朝の日課だった。
 これを日課にしているのは親の居ない俺を育ててくれた祖母の影響だった。

 生前祖母はほぼ人気の無いこの神社に毎日のように通っていた。
 幼い俺にその理由は良くわからなかったけど、訊く度に

祖母

おじいさんと出会わせてくれた神様が居るからよ

 ……そう嬉しそうに語っていた。
 そんな祖母を見ていたから……何となく続けないといけない日課な気がしたんだ。

 数秒目を閉じ、それから開く。

疾風(ハヤテ)

良し、今日の日課はこれで終わりだな

 それから通っている学舎へ向かうのが常だ。だからその日もそのつもりだったのだが……。
 この日俺は……初めてこの日課を後悔する事となる。

疾風(ハヤテ)

ん、何だあれ……?


 神社を出て数分。俺の目線に入ったのは……走っている少女。
 ただ走っている……それだけなら気にしなかったが、どうしてか彼女は焦っているようだった。

疾風(ハヤテ)

まるで何かから逃げてるみたいな……


 思わず立ち止まって見入ってしまうと……俺が視界に入った時点で彼女は何故か叫ぶ。

???

助けて下さい!

疾風(ハヤテ)

はぁ!?


 訳もわからず聞き返す。しかし彼女は焦った表情のまま走るのを止める事無く、どうしてか俺の手を取った。

???

追われているんです。一緒に来て下さい

疾風(ハヤテ)

来ても何も手を引っ張られたら一緒に走るしかないんだが……!

 俺は内心で突っ込みを入れながら、彼女に引っ張られるがままに走り出した。
 そんな時……

謎の生物

コロスコロスコロス

 脳裏に直接響くおぞましい声がした。
 後ろに何かが居る。妙な気配がある……。

疾風(ハヤテ)

何だこれ。怖過ぎるっ!

 思わず俺は思いながら……必死で後ろから迫ってくる物に気付かないフリをした。
 恐らく彼女は得体の知れないそいつから逃げているのだろう。それはわかっていたが、追って来る存在そのものを捉えるには恐ろし過ぎた。

 何だかわからないまま彼女と逃げ続けて数分。気付いたら毎日通うあの神社へと辿り着いていた。

???

はぁ……ここまでくれば……大丈夫……な筈


 立ち止まりながら呼吸を整える彼女に対し、俺は座り込んでしまった。

疾風(ハヤテ)

はぁはぁはぁはぁ……何だよ一体……!


 思わず叫ぶように言う。
 そんな俺に呼吸を整えた彼女は静かに語り出した。

???

驚かせてすみません。わたくしは……苺(イチゴ)と申します。
少々事情がありまして……今、良くない存在に追われているのです。そんな時、貴方様が向かってくるのが見えて……危険に晒す訳にはいかないと思い、こうして一緒に来て頂きました。
この場所なら恐らく……土地神様が守って下さるでしょう

疾風(ハヤテ)

……何言ってんだ?


 訳がわからず訊く俺に……彼女は溜息を吐いてから言った。

苺(イチゴ)

本当は全てお話ししたい所ではありますが……そうなると貴方様を危険に晒してしまう。
だからお話出来るのはここまでなのです……申し訳ありません


 言いながら彼女は頭を下げ、それから俺に背を向けた。
 そのまま歩き出そうとする彼女の腕を掴み、慌てて止める。

疾風(ハヤテ)

おい、待てって。どこ行くんだよ。
ここが安全なんだろ?そんならあんたもここに居れば良いじゃねぇか


 しかし振り返った彼女は……悲しそうな瞳で俺を見る。

苺(イチゴ)

それは出来ません

疾風(ハヤテ)

何でだ?今危ないのは俺よりもよっぽどあんたの方だろ

苺(イチゴ)

あの物を……倒さなければなりません。それがわたくしの使命ですから


 悲しい瞳のまま苺は告げる。
 そんな彼女を見て……このまま行かせる訳にはいかない、と……どうしてか俺は思った。

疾風(ハヤテ)

……それがあんたの使命だって言うのなら……俺も一緒に戦ってやる!


 気付いたらそんな発言が口から出ていた。

苺(イチゴ)

な、何を仰るのですか!?


 驚いた様子の彼女に告げる。

疾風(ハヤテ)

あんたは俺を助けようとしてくれたんだ。だから俺だって……あんたを助ける。
これも何かの縁だろ?困った時は助け合おうぜ

苺(イチゴ)

でも……どうやって?


 彼女は言いながら心配そうに俺を見つめた。
 確かにどう見ても俺は武器になるような物を持っていない。

疾風(ハヤテ)

それはわかんねーけど……


 そう漏らすしかなかった。だけどどうしても彼女を守りたい。何故かそう思う気持ちはあって……。

疾風(ハヤテ)

俺に何か……出来る事は……


 必死に考えようとした時だ。

謎の生物

ドコだ?ドコに居る?


 あのおぞましい声が聞こえた。

苺(イチゴ)

タイムリミット……ですね。有難う。気持ちだけ頂いておきます。でもあれと戦うのはわたくしの使命ですから。
大丈夫。貴方をこの町の人達を……危険には絶対晒しません

 言いながら苺は俺の手を優しく解き、神社の出口へとゆっくり向かう。

疾風(ハヤテ)

くそっ!俺に何か力があれば!!


 苺の後ろ姿を見送るしか無い無力な自分に……腹が立った。

疾風(ハヤテ)

どうして俺は……大事な時に何にも出来ない


 思い出したのは祖母が亡くなった時の事。
 事故死で処理されたが、彼女は明らかに人では無い何かの牙で……バラバラにされていた。

疾風(ハヤテ)

力が……力が欲しい。目の前の人だけでも守れる……そんな力が


 そう強く思った時だった。

???

そなたの願い、確かに受け止めたぞ

 脳裏に直接響く声。だけど確かにおぞましい化け物とは違った声だった。

 同時に眩い光が辺りを包み、眩しさに目を細める。
 その光が穏やかになった時、金髪の幼女が目の前に現れていた。

???

妾の名の許、そなたに力を授けよう

疾風(ハヤテ)

あんたは……?


 思わず問い掛ける俺に、幼女は呆れたように言った。

???

何を言うておる。毎日毎日通って来ているのはそなたの方だろうに


 その声に俺の頭に浮かんだのは……この神社の守り神だった。

疾風(ハヤテ)

まさか……檸檬(れもん)様?


 信じられない思いで呟くように言えば……彼女は満足げに微笑んだ。

檸檬(レモン)

ふっわかっておるではないか。
そんなそなたへこれは礼じゃ。有難く受け取るが良い


 檸檬様がそう言ったと同時に俺の前に刀が出現した。
 柄に触れると……驚く程手に馴染む。

檸檬(レモン)

それがそなたの魔力の宿る武器……依代(よりしろ)じゃ。
強い気持ちがあれば……きっと使いこなせる筈ぞ


 そう言ったのを最後に檸檬様は姿を消す。

疾風(ハヤテ)

これで戦える……


 そう思えば走り出すまでは数秒も無い。

疾風(ハヤテ)

待ってろ、苺!絶対助けるから!!


 強い決意を胸に、俺は見送るしか無かった苺を……急いで追ったのだった。

Prologue1 選ばれし少年―不思議な出会い―(修正済)

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