いい感じに時間が経って勉強を終え帰り支度を初めた。机に広げていた物を忘れ物がないように片付けた。

 おかげで数学を集中的に勉強が出来た。残りの課題は明日にすると約束をして席を立つ。

 ふと、コーヒーカップを見ると空になっていた。そう言えば一杯だけで長い時間、居座り続けていた。水野さんはテスト勉強をしても良いと許可を出してくれたけど、なんだか申し訳なかった。

 そんなことろにエリナがやって来た。

水野 エリナ

お疲れ様、どう、捗ったかしら?

矢吹 紬

お陰様です。コーヒー美味しかったです

水野 エリナ

それは良かったわ。テスト頑張ってね

 それぞれ挨拶をして会計を済ませた。

 外に出ると主婦やサラリーマンが商店街を歩いていた。

 私達が喫茶店に来る前より多い用に感じる。

 キリンと小春の後ろで歩いていた時にスマホを取り出そうとポケットを調べたらスマホが無い事に気が付いた。カバンに入れたかと思って確認したがどこにもない。

 どうやら喫茶店に忘れたらしい。

矢吹 紬

ごめん、店にスマホを忘れたみたい。先に帰ってて

九十九 小春

ハハッそれは災難だな

優木 キリン

私達は良いから取りに行って

矢吹 紬

うん、そうするね。また明日

 二人と別れて私は急いで喫茶店に戻った。

 扉を開けて水野喫茶店に入ると紬が座っていた場所にエリナが座っていた。目を閉じてコーヒーカップに口を付けていた。

水野 エリナ

――紬ちゃん

 コーヒーを飲んでいるかと思いきやどうやら違うようだ。

 エリナは驚きの表情を隠せない様子で紬を見つめている。そのコーヒーカップは紬が口にしていた物だった。記憶が正しければ中身は空のはずだ。

水野 エリナ

見られちゃたか

 そーと、コーヒーカップを置いてエリナは紬に近づいた。

 紬は後ずさり後ろに下がると扉に背中があたった。エリカに至近距離まで近づいて身動きが出来ない。

水野 エリナ

あの、紬ちゃん。驚かないでね……

矢吹 紬

えっ……その、どうしたんですか水野さん

 エリカは紬に顔を近づける。近づく度にエリナからコーヒーの匂いがした。表情は何処か真剣で気恥ずかしさがあった。

 逃げることも出来るが嫌な気がしなかった。

 唇と唇が重なり合う寸前まで近づくと紬は目を閉じた。

――その瞬間、私はキスをされた。

 ほんの一瞬だったかもしれないキスは私にとって長い時間に感じた。恐らく忘れることはないのだろう。脳の髄まで記憶に残ってしまったからだ。

 女の子同士でキスなんてあっただろうか? 異性ですらないのに私は女の子同士でキスをしてしまった。

 どうして水野さんは私にキスをしたのだろう。どうして私はキスを許したのだろう。何でコーヒーの味がしたのか。

 自分の気持ちを整理する暇もなくエリナは紬を抱き寄せた。

水野 エリナ

ごめんなさい、私、紬ちゃんのこと好きになったみたい。おかしいと思うけど尊敬とかの好きじゃなくって愛してるの方で……

水野 エリナ

嫌だったら、良いんだ――紬ちゃん

 私は何て答えれば良いのだろう。自分の気持ちのままに答えれば良いはずだが気持ちが教えてくれない。

 抱き付かれてエリナの顔が見えない。すぐそばに居るはずのエリナの表情が見たい。どんな表情をしているんだろう。突き離せば見えるのだろうが、そんな事が出来るわけもなく私は水野さんに身を預ける。

矢吹 紬

私も好きです……たぶん

水野 エリナ

良いの?

矢吹 紬

――多分ですけど

 確信は無い。ただ、口から出た言葉に身を任せているだけだった。本当に水野さんが、どの意味で好きなのか正直わからないでいた。

キスの味はコーヒーでした(4)

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