呆然としていた。

 美野はどうしていいかわからず身を丸めている。そこに同じように隠れていた伊月がこっそりと囁く。

愼木 伊月 

美野さん、逃げましょう

美野 一四日

……伊月ちゃん

 伊月はおもむろに立ち上がり美野の手を強引に取った。驚いた私は伊月ちゃんを見つめる。

愼木 伊月 

私達に出来る事はここから逃げて生き残る事です

愼木 伊月 

私の異能力は戦闘向きではありません。戦うのは無意味です。だから、立ってください美野さん

 声も体も震えながら伊月は話した。

 自分も怖いはずなのに勇気を持って行動に移ろうとしている。私より年下なのになんてすごいんだ。

美野 一四日

わかった逃げよう

 伊月の手を取り力を借りて美野は立ち上がった。伊月に手を引かれる形で歩き出した。思うところはあったが共に後ろを振り向かず出口をを目指す。

 誰も居なくなった店内は無駄に静かだった。他にも無人の店には乱雑に鞄や靴などが転がっていた。ついさっきまで人が溢れていた場所が急に静かになると寂しさが込み上がる。

 しばらく歩いて落ち着きを取り戻してきた美野は伊月に話しかける。

美野 一四日

伊月ちゃん、ごめんね。私の方がしっかりしないといけないのに

愼木 伊月 

謝る必要はないですよ。こんな特殊な事、普通ありえないし

愼木 伊月 

それに美野さんが近くに居たから冷静になれたんです

美野 一四日

私が?

 伊月は静かに頷いた。

愼木 伊月 

……だって、私達じゃ勝てないし、あのまま隠れていて見つかったらと思うと

美野 一四日

……うん、もう良いよ。伊月ちゃん、今は逃げよう

愼木 伊月 

はい

 お互いの事を思って話す事を止めた。どう考えても起きた事実は変わらない。どんな言葉も辛くなるだけだ。ならいっその事、黙っていた方がいい。

 足取りは重かった。けれど、止まるわけにはいかなかった。自分達が見た事を伝える為に辛い気持ちを抑え二人は出口を目指す。

 しかし、二人の意思を無視をするように怒鳴り声が足を止める。

部下

おい、そこの二人止まれ

 非常口の付近で黒いスーツを着た男に出くわした。その男は銃を構え徐々にこちらへと近づいてくる。

 至近距離まで近づいた黒いスーツを着た男は伊月に銃を向けた。

部下

確かAnotherの槇木伊月だな。こっちに来てもらう

美野 一四日

どうして伊月ちゃんだけ――

部下

――民間人は黙ってろ、用があるのはそこの女だけだ。貴様はおとなしくしていろ

美野 一四日

どういう事?

 美野には興味がないようだ。男の目的は伊月にしかないらしい。

愼木 伊月 

美野さん、聞こえますか?

美野 一四日

伊月ちゃん! これって、異能力なの?

愼木 伊月 

はい、私の異能力、マインドアクセスで会話しています

 不意に頭に聞こえる伊月の声に反応する。どうやら伊月の異能力で声に出さず会話ができているようだ。

愼木 伊月 

驚きましたか。私の異能力は近くの相手ならこうやって話が出来るんです。それともう一つ能力がありまして、相手の心を読む事が出来るんです

愼木 伊月 

それでわかったんですが、あの男は榎の部下で私だけを捉えようとしてますね

美野 一四日

Anotherだからだよね。だったら私も捕まえようとしないの?

愼木 伊月 

どうやら、美野さんは知られてないようです。Anotherに一人、仲間が増えたのを知らないようで

愼木 伊月 

……あとは頼みます

 伊月はゆっくりと男の方へ歩き出した。

美野 一四日

待って伊月ちゃん

 美野は男の方へ向かう伊月の手を取ろうと握ったが強く払い除ける。伊月は男の元に向かった。

愼木 伊月 

あの人は逃げ遅れただけです。手を出したら門の教団の評判が下がります

部下

一般人には手を出さないと命令が出ている

 男は銃をしまい伊月を拘束する。拘束をすると片手でトランシーバーを操作して連絡をとった。

メビウス・ザ・ループ(18)

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