夢魅世(ゆめみせ)学院は芸能界デビューを目指す子供達の通過点。この学院に入るには芸能事務所のスカウトを受け、推薦される必要がある。

 わたし、樹下空藍(きしたそらん)もスカウトを受けて今この場所に立っているけれど……未だに実感が湧かずにいた。
 特にわたしのクラスは最優良クラスとされるSSS(トリプルエス)クラス。このクラスには既に三つ子アイドルとして活躍しているTriplett★Fantasie(トリプレット・ファンタズィー)やデビューしたての女性アイドル、日高陸那(ひだかりくな)さんも居る。

 わたしは人より秀でているものなんて何にもない。ずっとそう言われてきた。
 そんなわたしがこの場所に居るなんて……それこそ夢か幻かと思う。
 でもだからこそ確かめたい。自分に何かが出来るのなら……そうは思うのだけれど……。
 元々無い自信なんて付く訳も無くて……。何となく日々が過ぎて、気付いたら一ヶ月が終わっていた。

空藍

はぁ……今日も何にも良い所なんてなかったなぁ


 歌の試験では平均と言われ、一応合格という評価。ダンスレッスンでも転んじゃったし……。
 何も気持ちが明るくならないまま、帰り支度をし始めるけれど……どうしても溜息ばかりが出てしまう。
 そんな時、穏やかな声がした。

???

空藍ちゃん


 その声を聞いた瞬間、弾かれたように顔を上げる。

空藍

あ、朝光(あさみつ)君。お、お疲れ様。
え、えーっとあの……


 言いながら頬が熱くなるのがわかる。
 野上(のがみ)朝光君……彼はこのSSSクラスの有名人。既にアイドルとしてデビューしている『Triplett★Fantasie』のリーダーで、とっても気さくで優しい人。
 昔から人との関わりが得意じゃないわたしはどうしてもクラスで浮きがちになってしまうんだけど……朝光君がこうして声を掛けてくれているお陰でそうならずに済んでいる。
 そんな優しい朝光君がわたしは好きだけど……朝光君は元々誰にも優しい人だから、わたしみたいに思っている人もきっと多いんだと思う。

空藍

挨拶さえまともに出来ないわたしなんて……本当に並ぶのに似合わない


 ついついそう思ってしまう。
 でもそんなわたしにも彼は優しくし続けてくれている。本当に有難い。

朝光

空藍ちゃん、大丈夫だよ。ほら、落ち着いて話そうか。
溜息ばっかりついてるから……気になってさ


 その優しい声にうっかり涙が出そうになる。

朝光

そうだ、一緒に帰ろうか?
色々話、聞かせてよ。寮まで送るからさ

空藍

朝光君、有難う……


 泣きそうなのを何とか堪え、わたしは頷いた。

朝光

そっか平均って言われちゃったんだ……確かにそれは堪えるよね


 彼と並んで歩きながら……わたしは今日の出来事について朝光君に話していた。

空藍

その後のダンスレッスンでも転んじゃって……わたしってどうしてこうなのかなって……


 思い出すと又泣きそうになる。

朝光

一生懸命やっても結果が出ないのは辛いよね。俺もこの仕事始めた頃はそんな事ばっかりだったからさ……空藍ちゃんの気持ちはわかるよ

空藍

朝光君……

朝光

でも頑張った空藍ちゃんは偉いと思うよ。だからそんな落ち込まないで。頑張った自分を褒めてあげよう、ね?

 言いながら朝光君は穏やかな笑顔で頭を撫でてくれる。
 元々スキンシップを普通に取る人だから何とも思ってないんだろうけど……わたしはドキドキしてしまった。

 そんな風に朝光君とゆっくり歩く。
 たったそれだけの事なのに、嬉しかった。この時までは。

 寮の近くに差し掛かった所で、前から一人の少年が歩いて来る。

朝光

あれ、夜光(よるみつ)?こんな所で珍しいな

 柔和な笑みを浮かべ、朝光君が手を上げる。
 やってきたのは彼の弟で『Triplett★Fantasie』の野上夜光さん。
 わたしはどうも彼が苦手だ。何だかいつも睨まれている気がするし……。

夜光

ちょっと夕光(ゆみ)に買い物頼まれたからその帰りだよ。兄さんこそ又そいつ送ってんの?送る価値なんてねぇだろ

空藍

…………


 わたしはその言葉に何も言えない。
 どうしてか彼はわたしに突っ掛かってくる。

朝光

夜光、彼女に失礼だろ


 朝光君がわたしを守るように立つ。

夜光

俺には兄さんが何でそんなにそいつを気に掛けるかさっぱりわかんねぇ。努力もせず不幸そうな顔をしている奴、嫌いなんだよな

空藍

…………!

空藍

そんなつもり無いのに……

夜光

まぁ俺には関係ねぇか。
取り敢えず兄さんに迷惑掛けるのも程々にしとけよな


 そう言い捨てて夜光さんは男子寮の方へと去っていく。
 それを見送った朝光君が申し訳なさそうに言った。

朝光

ごめんね、空藍ちゃん。夜光も悪い奴じゃないんだけど……

空藍

ううん、大丈夫……。心配してくれて有難う


 何とか笑顔でそう返す。
 思う事は沢山あるけれど……兄である朝光君に言う訳にはいかないから。

空藍

きっとわたしが嫌われるような事しちゃったんだよね……それならわたしが悪いから

朝光

空藍ちゃん……


 朝光君は何か思う事があったみたいだけど……結局それだけ言った。
 どうしても夜光さんの言葉は気になったけれど、そのまま女子寮に着いてしまう。

空藍

朝光君、有難うね。色々聞いて貰えて嬉しかったよ


 笑顔で言うと朝光君も穏やかに微笑んだ。

朝光

それなら良かった、かな。又何かあったら俺に言ってね。
それじゃあ又明日


 そう言って手を振る。
 気になる事はあったけれど……その日はわたしも手を振り返し、男子寮へ向かう朝光君を見送ったのだった。

Chapter0 不協和音な日常(修正済)

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