同じ姿をした人々をかき分けて榎は部下を連れて上へ上へとエスカレーターを登る。迷いのない動きは目的を現れている。

 徐々に近づいてくる榎に恐れを隠せない。まさか自分を探しているのではないかと勝手な想像が浮かんでいた。

 私がAnotherだから殺しに来たの? 伊月ちゃんも居るしどうしたらいいの?

美野 一四日

伊月ちゃん、逃げよう

槇木 伊月

ちょと待って下さい。はい、はい、なるほど

 伊月は電話に夢中だった。榎に気が付いているようだが逃げなくても大丈夫なのだろうか。

 私はビクビクと怯え榎を見た。榎と目が合うと私は氷付いてしまったように動けなくなってしまう。

 偶然にも榎は美野の居る階層でエスカレーターを降りた。動けない美野に一歩ずつ近づき作った笑顔で話しかけた。

群馬榎

お嬢さん、人の顔を見てそんな怖い顔をするもんじゃないぜ

群馬榎

おじさん、そんな怖い仕事の人じゃないから

 そう言うと榎は部下を連れて何処かへと消えていった。

 私を探しに来たんじゃないんだ。

 緊張が解け、腰が抜ける。美野は尻餅をついた。

槇木 伊月

大丈夫ですか

美野 一四日

うん、大丈夫

 伊月は手を伸ばして美野を立ち上がらせた。

槇木 伊月

美野さん、門の教団がここに居る理由がわかりました

槇木 伊月

どうやらパニーチェを探しているそうです

槇木 伊月

このままだと、パニーチェの命がヤバいですね

美野 一四日

パニーチェさんが

 勘違いだったことに胸を撫で下ろす。けれどパニーチェさんが狙われている。まだ会ったことがないがAnotherの仲間が殺されてしまう。そんな事はあってはいけない。

 伊月は困った様子を見せる。どうやら電話の内容が原因のようだ。

 蒼衣の伝言によると門の教団に忍び込んで機密情報を手に入れたパニーチェ・ズズは情報を持ち帰る時に門の教団に見つかり逃げていた。そして愛和百貨店に逃げ込んだらしい。そこに門の教団の幹部、群馬榎、沖田アシンまでやって来た。

 この二人は異能力を使うらしく協力者と五十嵐冬夜が向かっているそうだ。

 そして偶然、美野と伊月が買い物をしていた。

槇木 伊月

このままだと色々とまずいです。パニーチェを探さないといけませんね

美野 一四日

でも、どうやって? パニーチェさんの異能力で沢山の人がパニーチェさんの姿になっているのに?

槇木 伊月

……そこなんですよね

 パニーチェの異能力で愛和百貨店に居る人達の大半がパニーチェ姿をしている。同じ姿をしている中で本物を探さないといけない。何か秘策でもあればいいんだが無いものはしょうがない。

美野 一四日

どうやって探したら……

槇木 伊月

どうしましょうか

美野 一四日

あれ

 美野はある違和感に気づいた。

槇木 伊月

どうしましたか美野さん

美野 一四日

榎はパニーチェさんを探して居るんですよね

美野 一四日

どうして迷いが無かったんだろう?

槇木 伊月

迷い?

 そうだ榎に迷いは無かった。まるでパニーチェの居場所を知っているようだった。

 そんな事は無いと思った時、映画で聞くような銃声が轟いた。胸に響く空気の振動は愛和百貨店を静かにした。

――銃で人が撃たれた。

 恐らく愛和百貨店に居る全ての人はそう考えただろう。

 気付けば自分の姿はパニーチェではなく自分自身に戻っていた。美野と伊月は目を合わせる。お互いの体の確認をして察した。

 パニーチェの異能力が解けている事と周りがパニックになっている事だ。

メビウス・ザ・ループ(14)

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