――俺の彼女は失踪した。

 何か嫌なことがあったのだろうか、それとも何かに嫌気がさしたのだろうか。いずれにせよ失踪を止めようがなかった。

 周りに原因があったのか、俺に原因があるのか、それとも他に原因があったのかは彼女にしかわからない。

 ただ居なくなった彼女が向かった場所を俺は知っている。そこは地球上に無い場所だった。いくら探しても見つかるはずのない場所だ。

 彼女はそこにどうしても行きたいようで、列車に乗って消えてしまった。

 俺と彼女に似た幼い少女を残して――

回想

 独り暮らししやすいアパートで一人、期限が迫ったレポートをどうにか完成させようと夜更けにノートパソコンと共に戦っていた。タイピング音が支配する部屋で星塚セキ(ホシズカセキ)は黙々と手を動かしていた。

 大学に提出する期限に間に合うように前からやっておけばと、しばしば思い続け日が変わろうとしている。

 恐らく今晩は二時を過ぎてから寝ることになるな。そんな事を頭の隅に置いて作業を進めていた。

 そんな時だった。スマホが震える。

 こんな時間帯に電話か誰からだ忙しい時に。

星塚セキ

ハルからだ

 スマホを取り画面を確認すると俺の彼女である千里ハル(チサトハル)だった。心ではウキウキしながらセキはすました様子で素早く電話に出る。

星塚セキ

もしもし、なんかようか?

千里ハル

あ、セキくん

千里ハル

起きてた?

 どことなく声の仕草から落ち着きを感じる。

 しかし、こんな時間に千里が電話か、どんな用事だろう。

星塚セキ

ああ

星塚セキ

いろいろしてた

千里ハル

いろいろって

 ハルはクッスと鼻で少し馬鹿にしたように笑った。

 そんな仕草さえ可愛いと思えてしまう。俺は本当に千里の事が好きなのだ。

千里ハル

セキくんらしいね

星塚セキ

ところで用があるんだろ?

千里ハル

うん、時間がないから良く聞いてね

星塚セキ

……なんだよ

 スマホから聞こえるハルの声はやはり落ち着いて何処か悲しさがあるように感じる。

千里ハル

私、いなくなるね

星塚セキ

おう、そうか……

 居なくなるらしい。へぇ…………千里が!?

星塚セキ

――えっ!

 頭の中が真っ白になるとは良く聞くが本当にそうなるとは想いもしなかった。ハルが放った言葉を受け取る訳にはいかない。

 セキは思わず立ち上がり電話に集中した。

星塚セキ

いなくなるって、どういう意味だ!

千里ハル

念願のユートピアに行くからだよ

 ハルの返事を理解できない。念願のユートピアと聞き覚えのない場所なんて言い出すからだ。

 セキは頭のこんがらがったものを消化する為に部屋の中を適当に歩き回る。

千里ハル

そこに行くと帰れなくなるらしいから

星塚セキ

念願のユートピア? なんだそれ

 千里が言う念願のユートピアとは何だ。知らないぞ。そんな訳のわからない場所にハルは行きたいって……何でだ。

千里ハル

私にとって大事な時間に行けるの、そこはもう存在しないから念願のユートピアって言うんだって

星塚セキ

どうしたんだ千里

星塚セキ

わかるように説明してくれ!

 頭を抱え座り込む。何が何だかわからない。悪夢から覚める方法はないかと思考を働かせた時、千里はゆっくりと話す。

千里ハル

聞いてセキくん

星塚セキ

聞いてるよ

 セキはスマホに耳を傾けた。すると電車が走行している音が聞こえた。

千里ハル

私はどうしても念願のユートピア……あの場所に行きたいの

始まりは別れ(1)

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