水野喫茶店に来る前の事だった。コーヒー通いで見慣れ始めた商店街を一人歩く、買い物客か通行人か何処を見ても人が居る。何を目的に商店街を歩いているのか知るよしもない。

 そんなくだらない事を考えながら、いつも通りに喫茶店に向かっていた。

 そんな時、ふと気づく。

矢吹 紬

こどもの日祭り?

 まだ四月なのにこどもの日祭りと言うポスターが商店街の目立つ場所に貼られていた。ポスターは主に商店街での割引などの宣伝で飾れていた。

 そんな事があるんだと心の片隅に置いてエリナさんが居る水野喫茶店に向かった。

 紬を除いて客が居ないカウンター席でゆったりと腰を掛けコーヒーを飲みながら、水野喫茶店に来る前の事をエリナさんに話した。

 するとエリナは微笑んで話した。

水野 エリナ

そうか、紬ちゃんは引っ越して来たばっかりだから知らないよね

水野 エリナ

良くするんだよ。祝日とか記念日で、まあ、基本はセールなんだけどね

矢吹 紬

そうなんですか

 カウンター越しに話していると電話がかかる。エリナは電話に出ると心配した様子で相手と話した。心配しているかと思えばエリナは電話の相手に怒ったりしていた。

矢吹 紬

エリナさん、どうしました?

水野 エリナ

それが、お父さんがギックリ腰をやってしまって病院に

水野 エリナ

迎えに行きたいけど店があるからな……


 つい、質問をしてしまったが電話の相手はエリナさんのお父さんらしく、ギックリ腰で病院に居るらしく迎えに行きたいそうだ。

水野 エリナ

矢吹ちゃん、お父さんを迎えに行かないから、店を閉めないといけないんだ

水野 エリナ

ごめんね

 謝る必要なんてあるのだろうか。仕方のない事だとわかっていても、笑っているエリナさんから「ごめんね」と聞くと悲しいと思っていた。

矢吹 紬

エリナさんが良ければ私、店番します

水野 エリナ

紬ちゃん

 エリナさんの申し訳なさそうな顔を見て私は思わず、やったことがない店番をやることを提案してしまった。

 私はエリナさんの役に立ちたかった。その事だけが理由だろう。

水野 エリナ

いいの? 紬ちゃん

矢吹 紬

はい、大丈夫ですよ


 本当は胸を張って大丈夫と言えなかったが、どうしてか堂々としていた。

水野 エリナ

うーん、この時間帯は人こないし

水野 エリナ

紬ちゃん。任せてもいい?

矢吹 紬

もちろんです。任せてください

 実際は自信なんてなくて不安だけど嬉しかった。頼ってもらえる事が嬉しかったのだ。確かにやったことがない接客をすることは不安だった。

 そんな事を悟られないように紬は自慢有りげに胸元を叩いた。

水野 エリナ

ありがとう。三十分以内に帰ってくるから


 エリナは急ぎ足で店の奥に行き手に車の鍵を持って戻って来た。着ていたエプロンを脱いでカウンターから出て紬の横に行った。

水野 エリナ

それじゃあ紬ちゃん、制服脱いでくれる

矢吹 紬

え、どうしてですか

水野 エリナ

一様、制服が汚れたらいけないし、ここの店の決まりだから

矢吹 紬

そうですよね。アハハ

 一瞬、心臓が大きく脈を打った。

 冷静に考えれば、そんな事ありえないじゃないか。アレ? そんな事……とはどんな事だろう? 私はどんな事で鼓動が強く打ったのだろうか。

 制服をエリナに渡して紬は長いエプロンを着た。着てよりエリナと紬はかなり背が違う事がわかった。

矢吹 紬

思ってたけどエリナさん、やっぱり背高いな

水野 エリナ

あ、紬ちゃん。後ろ向いて


 エリナは後ろを振り返った紬のエプロンの結び目をきつくきちんと結んだ。

水野 エリナ

似合ってるよ。じゃ、任せたよ

矢吹 紬

はい、がんばります

 喫茶店の扉を開き走り抜けていった。そして水野喫茶店に一人残った紬は喫茶店を眺めた。

初めは一杯のコーヒーを(4)

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