襖を開けて入ってきたのは蒼衣だった。片手に箱を抱えている。箱は和紙でできているのか落ち着いた色合いだった。
襖を開けて入ってきたのは蒼衣だった。片手に箱を抱えている。箱は和紙でできているのか落ち着いた色合いだった。
変哲もない箱を机の上に置いた。
美野さん待たせたね。本当は別日にしたかったんだけど今日じゃないと忙しくて会議の日とかぶってしまった
退屈だったかな
いえ、そんな事は
つい最近、似たような対応をしたな。
五十嵐さんの方から強い視線を感じたが振り向かないようにした。
蒼衣さん、この箱は?
これかい、これは美野くんの異能力を知る為の箱だよ
協力者がさりげない質問で箱に注目が集まった。
まるで高級な煎餅でも入っていそうな箱が異能力を知る事が出来ると言う。信じがたいが蒼衣さんが嘘を付く人に見えない。
興味を持った太誠は箱に近づいた。
そんな箱が……ねぇ
待て太誠くん
太誠が箱に手を伸ばした時、蒼衣は止める。
これは美野さんの異能力知る為の箱です。開けてはいけませんよ
おお、すまん
そんな箱で異能力を調べられるのか?
兄貴、ただの箱な訳ないじゃん。恐らく禁后(パンドラ)クラスの呪道具かと
伊月は太誠の残念そうな顔して肩を叩いた。
いや、ただの箱だよ。ただ中身は秘密だけどね
おや?
思っていた事と違う答えだった。てっきり特別な力がある箱だと思っていた。
拍子抜けだったが冗談ではなさそうだ。
美野さんの異能力が過去に戻る能力と聞いている。それを確かめる為に用意したんだよ。この箱をね
試しに箱の中身を当ててもらえないだろうか
箱の中身を見ないで当てる。透視でもしないと無理な事だ。
十四日ちゃんの異能力を使えば可能さ
そう、君達から聞いている話が本当なら当てれるはずだ
五十嵐の言う通り異能力を使えば可能だ。けれど、自身が無い。協力者に言われて異能力を自由に使えるように練習したが成功率が低かった。
協力者と共にいろいろ試した結果、私が過去に戻るには条件があった。
一つは戻りたい過去の状況を想像する。これは簡単だった思い出せばいいからだ。あの時は三週間前に戻っていたが、今では記憶の範囲なら戻る事ができるだろう。
二つは意識を集中る事だ。これが難しかった。失敗する原因は集中しきれてない私のせいだ。過去に戻るのを怖がっているふしがあると協力者に言われてしまった。
蒼衣は箱を美野の前に出して美野に渡した。
箱は少しの重みを感じる。中身はそこまで重くない物だろう。
試すようで悪いけど、この箱の中身を異能力を使って当ててみてくれるかな
はい
……落ち着いてやればできる
異能力を使って箱の中身を知る為に私は箱を開けた。煎餅が入っている。ごく普通に二列に並べられた高そうな煎餅だった。
肩に力が入っている。私は力を抜いて周りを見渡す。蒼衣さん以外は唖然として箱の中身を見ていた。私が普通に箱を開けたからだろう。
それは仕方のなかった。私の異能力で箱の中身を当てるには箱を開けるしかない。
おいおい、普通に開けたら意味が無いぞ
いや、これでいいのだ
十四日ちゃんならね
そう、二人の言う通りこれでいい。それに協力者は私に異能力の使い方を教えてもらった。
協力者の為にも失敗する訳にはいかない。
簡単な事だ。目を閉じて箱を開ける前の事を思い出せ、そして集中するんだ数分前に戻るために。
息を大きく吸った。だんだん周りが気になる事がなくなっていく、数分前の事だけを考えて意識を集める。
美野さん、どうかしましたか?
――あ、蒼衣さん
気が付けば私は箱を持って立っていた。和紙の優しい手触りを感じる。
……良かった
開いていない箱を持っているという事は私は過去に戻ったのだ。
大丈夫ですか
はい、この中身を当てればいいんですよね
間をおいて蒼衣は黙って頷いた。
お煎餅ですよね。美味しそうな、どこのお店ですか?
なるほど驚いたな
笑う蒼衣をよそ目に周りは静かだった。驚いているようにも見えた。
どうして静かなのか私には分からなかった。