ガンツ

まずは全力で火を
抑えろ!!
絶対に
誰も死なせんなよ!

兵士

アルシェ!
手分けして消火をするぞ!
迅速に動き火の勢いを
おしとどめろ!

兵士

モルテ隊長補佐殿。
このアルシェが
必ず鎮火させてみせます!

兵士

よし!
誰か城下市民を誘導しろ!

兵士

それは、
グーリン隊長補佐殿を中心に
既に行っています。

市民C

ああああ

市民D

なんということじゃ。

兵士

落ち着いて避難して下さい。
火ももうすぐ消されます。
さ、肩を貸しましょう。

市民D

おお、なんと頼もしい。

市民B

怖い、怖いよ。

兵士

お嬢さん。
こちらにはあの
レジーナ姫がいるんだよ。
あの姫が負けると思うかい?

市民B

おねぇちゃんは負けない!
そうだ、
私も負けてたまるか!

兵士

その意気だ。

兵士達の消火活動により

火の手は収まりつつあった。



敵の襲来と合わせた火の手は

混乱を生みかけたが、

兵士個人個人の働きにより

最小限に抑えられたと言ってよい。

兵士

手の空いた者から
敵の攻撃に備えろ!
全軍で迎え討つ!

兵士

アスカトゥ、
こちらにはもう全員
通達は終わったぞ。

兵士

流石ベッチー隊長補佐殿。
それでは私も戦いに
向かいます!

兵士

君の動きの方が機敏だ。
恐れ入ったよ。
私は現状をギュダ様に
報告しにいく。
死ぬんじゃないぞ!

情報伝達は軍の命脈に

大きく関わっている。





上官の命令を

如何に速く正確に伝えるか。

どんな組織でも

これが出来るか出来ないかで

末端で実働する者の

価値が変わる。





作戦の遂行には

速度と正確さは欠かせないものなのだ。



レジーナ軍の情報の速さは

他軍に類を見ない速さだった。

兵士

やはりどう見ても
ただの事故じゃないか。

ガンツ

ナーズ!
火は事故だ。
ギュダには俺から報告する。
今は
奴等を迎撃する準備をしろ!

兵士

はっ!!

ガンツの命令もあって

その兵士は火事の現場を離れる。



だが、何か違和感を感じて振り返った。

兵士

何だ。
何かがおかしい……

兵士

な!
何て数だ……
信じられん。

迫りくるナバール軍は

ユベイル城の北面一帯を

埋め尽くさんばかりの兵数だった。



殆どの兵士は、

脚が自然に震え

腰が抜けてへたり込んでしまうのを

我慢するので精一杯だった。

兵士

すっげぇ数。

ガンツ

確かにな。
賢い奴はとっくに
逃げ出してると思うぜ。
お前はどうだブルチズ。

兵士

俺が賢い奴に見えます?

ガンツ

全然。

兵士

じゃあ
一発ぶちかまして
やりますか。

ガンツ

そう逸るなって。
ギュダ殿の考えもあるだろうし
俺達みたいな馬鹿野郎達でも
役立てる機会はある。
お前のその頼ましい牙は
その機会までとっておきな。

ギュダ

何故だ。考えろ。

誰が見ても兵力差は圧倒的。





そしてそれ以上に不気味だったのは

行軍の遅さだった。



騎馬軍を先頭にしているのも関わらず

後軍の歩兵に歩調を合わせている。




城内の火の手は

城外からでも見て取れる高さだった。



例え内通者が居なかったとしても

城攻めには好機に違いなかったはずだ。





その機をむざむざ逃したナバール軍が、

ギュダには

どうも不気味に思えて仕方なかった。

レジーナ軍が見せつけられたのは

矢の雨。




青空が矢の雨で覆い消されるほどの

圧倒的物量。

矢の雨は静まった。





青空には色が戻り

視界が広がる。





矢の雨はユベイル城の城門に

数千、いや数万本も

刺さっている。






ギュダは直ぐに理解した。

これは戦力差を見せつける

デモンストレーションだと。



おそらく城内に撃ち込もうと思えば

今の何倍もの量の矢を

浴びせることも可能だっただろう。



そうなれば、

多くの兵の命が失われたに違いない。













そして整然と陣を整え

城外に停止した軍の中央に、

太陽の光を反射するような

眩いばかりの将軍が

ギュダに向かって声を発した。

ギュダ将軍。
今日は挨拶だけだ。
私達と戦う前に
背中を刺されぬよう
気を付けておけ。

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