お邪魔します


 二人の家には車で三十分程で着く。

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

話は聞いているし、俺は二階の部屋に居るよ。
何かあったら呼んでくれ


 家に入ると同時に終夜さんはそう言って階段を上がって行った。
 後には翔夜君と私だけが残る。

えーっと……じゃあ、キッチンお借りします


 二人きりになったのが何だか照れ臭くて敬語で返してしまった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

う、うん。
えっと僕は……おねーさんが作るの待ってるね。調味料とかの場所は一通り知ってはいるしどうせキッチンまで案内しないとだから


 そう言う翔夜君も緊張しているのか表情が硬かった。

うん、有難う

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

うん、キッチンはこっちだよ。
廊下を真っ直ぐ行けば突き当りにあるんだ


 翔夜君はすぐにそう言ってキッチンの方向を示した。
 それに従って着いて行けば家族四人でも広そうなキッチンに着く。

凄い……やっぱ有名人の家だ


 思わずそんな事を考えた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

僕はダイニングの方で待ってるから何かあったら言ってね


 翔夜君はそう言うと宣言通りダイニングの椅子に座る。
 そうして彼はスマホを取り出して何かを確認し始めた様子だった。

 そんな彼に背を向けてキッチンに立てば綺麗に整理されていて使い込まれているのがわかる。
 既に私の中でのメニューは出来上がっているから後は作るだけだ。

良し、頑張ろう


 私は内心で気合を入れ、料理を作り始めたのだった。

 それから一時間後……

出来た!


 完成した料理に声を上げればやるべき事を終えたのか翔夜君が寄って来た。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

わ、これオムライス?美味しそう


 嬉しそうに翔夜君が言う。

ペペロンチーノソースを使った辛めのオムライスだから翔夜君は好きだと思う。ケーキも冷やしてるから楽しみにしていてね


 そう言って笑えば翔夜君は相変わらず嬉しそうに言う。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

じゃあ僕、終兄呼んで来るね


 言いながら燥いだ様子で階段の方に向かった。
 翔夜君を見送りながら最後の仕上げの為にケチャップを手に取る。

良し、それじゃあ今のうちに、っと


 そうしてメッセージを書き、他の物から食卓へと運んでいった。

 テーブルの上にはチキンに野菜スープ、卵サラダという料理が乗っている。

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

うわ、凄いな


 戻って来た翔夜君と連れ立って来た終夜さんが驚いたように言った。

有難うございます

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

おねーさんはねー、料理上手なんだよ!


 得意げに言いながら翔夜君がくっついてくる。

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

ああ、驚いたよ。今度俺にも教えて欲しい位だ

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

それは駄目。おねーさんは僕の物だからね


 さらりと言う言葉に思わず照れてしまった

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

そういえばおねーさん、さっきのオムライスは?

それは翔夜君が戻って来てから持って来ようと思ってたんだ。ちょっと待っててね


 そう言う彼の言葉に今日の主役の料理を取りに行こうとするが、その前に終夜さんに呼び止められた。

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

あ、プロデューサー。ちょっと良いかな?

はい?

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

折角作ってくれたのにごめん……俺ちょっと買い忘れた物を思い出したから出掛けて来る。
今空いてるのは車で一時間位の所だし折角の料理が冷めるといけないから……先に始めてて貰っても良いかな?

え、あ……はい

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

有難う


 そう言って彼は微笑むとそれから翔夜君に何か耳打ちして玄関の方へ向かった。
 それを見送ってからオムライスを取りに戻る。

……終夜さんの分は後で冷蔵庫に入れないとだな


 そう思いながらオムライスをテーブルへ持っていく。
 翔夜君が終夜さんを呼びに行っている間こっそりケチャップでお祝いメッセージを書いたオムライスだった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

『生まれて来てくれて有難う』……これ


 翔夜君がテーブルに並んだそれに驚いたように言う。

お祝いメッセージを書いてみたんだ。普通に『誕生日おめでとう』にしようかとも思ったけど……この方が私の気持ちが伝わるかなって

翔夜君に出会えた事……本当に幸せな事だと思うから


 照れ臭かったけれど、ちゃんと伝えたかった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

…………


 翔夜君は沈黙して暫くメッセージを見つめていたけれど、少ししてから漸く口を開く。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

こんな風にお祝いメッセージが貰えるなんて……考えた事無かった。
今までの僕の誕生日は……終兄が少し豪華な料理を作ってくれるけど、それ以外はメールのメッセージだけだったから……

それだから翔夜君は……さっきスマホを見ていたんだ


 そうわかると少し切ない。

誕生日は……誰かに祝って貰いたい物。翔夜君の年齢なら特にそう思う筈なのに……


 そう思いながら声を掛けようとすればそれより前に翔夜君の腕が伸びて来る。

え……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

黙ってこうしてて


 突然の行動に驚いて声を漏らすが翔夜君にそう言われれば従う他無い。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

今僕……凄く情けない顔してるから、見ないで欲しい……


 その声は震えていて、今にも泣きそうに思えた。

……わかった


 そう言ってそっとその身体に腕を回す。
 宥めるように優しく背を叩けば涙声で語る言葉が聞こえる。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……本当はずっと寂しかったんだ。メールだけの『おめでとう』で終わるのは

うん、そうだね


 彼の話を遮らないように相槌だけを打って聴く。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

家族で特別なメニューの料理を囲んでお祝いして貰うのに……ずっと憧れてた。言われてみたかった言葉があったから

うん……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

それを何でおねーさんがくれるの。そのせいでもう僕……格好付けなんて出来ないじゃん……!


 その後は彼の台詞は嗚咽に代わる。

格好付けなくたって良いんだよ。私はそのままの翔夜君が好きなんだから

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……プロデューサーちゃん

だから来年も再来年も……これからもずっとこうやって私がお祝いするから。
そりゃ翔夜君の家族の代わりなんて出来ないけど……それでもちゃんと伝えるから。生まれて来てくれて有難う。出会ってくれて有難うって……。
だからもう寂しく思う事なんて無いからね

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

プロデューサーちゃん……有難う。俺は本当に……幸せ者だ


 その言葉はもう涙声では無く唯々嬉しそうな……そんな声だ。
 その声に静かに回していた手を離せば翔夜君は少しだけ身体を離す。

 そうして目が合ったと思えばそのまま唇が重なった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

大好きだよ、プロデューサーちゃん。これからも俺をここまで幸せな気持ちにさせられるのは……きっと君だけ

うん

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

だからさ……これからも俺の事、誰よりも愛してね。
俺もそれ以上に君の事……愛するから

うん、勿論だよ。私だって翔夜君の事……大好きなんだから


 そう言って微笑み合えば再び唇が重なる。

これから先もずっと……幸せにしてあげたいな


 私の中にはそんな思いが芽生えていた。

翔夜君がずっと幸せそうに笑えるように……。きっとそれは……私だからこそ出来る事だから


 そうして願う。

まずはこの一年……翔夜君が幸せに笑えますように。その隣で……支えられますように


 そして来年も又、こうやって祝うんだろう。
 きっとずっと……その隣で。

『Fratello』【中将翔夜誕生日番外編6/6】幸せな食卓6

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