『ルフトデパート』は『fratelloプロダクション』の入っているビルに程近いデパートだ。そんなにかからずに到着する。
 夕方という事もあり、夕食の用意の為なのだろう。親子で来ている人が多く、それなりに混雑していた。
 私と翔夜君は離れないように手を繋ぎながら目的のコーナーに向かう。

ええっと卵がもう少しで切れそうだから買っておこうかな。それから牛乳。
後は野菜類とか


 折角スーパーに来たのだから買いたい物を思い浮かべる。

翔夜君のプレゼントを買うなら後で二階の専門店も行かないと


 そう考えた所で翔夜君が静かな事に気付いた。
 思わず視線を遣れば彼は無言で通り過ぎる親子連れを見ている。

……どうしたんだろう?


 私は不思議に思うけれど翔夜君の様子に変化は無い。

翔夜君?

 そう呼び掛けてみればハッとしたように私を見た。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

ん、何?おねーさん

何って訳じゃないんだけど……静かだと思って


 思ったまま返せば彼は何時ものような悪戯っぽい笑みを浮かべた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

あれ、おねーさん。僕が何時もみたいに構ってあげなかったから、寂しかったの?

そ、そんなんじゃないよ!


 思わず恥ずかしくなって返す。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

もープロデューサーちゃんったら、甘えん坊さん

だ、だからそんなんじゃないって!


 更に照れてしまう。
 話し掛けた当初の目的は何時の間にか忘れてしまっていた。

 スーパーで買う物を買った後は二階の専門店コーナーを回る。
 一階のスーパー程混雑してる訳でも無く、ゆっくり回れそうだった。

ねぇ翔夜君、何か欲しい物とかってある?

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

欲しい物?


 直球で尋ねれば彼は不思議そうに訊き返してくる。

私の用事に付き合わせてるんだし、お礼がしたいんだ

誕生日プレゼントは別に考えるけど……好きな物を探らないとだしね


 そんな事を考えていたのは秘密だ。

そんな高価な物は買えないかも知れないけど……何でも言ってくれて良いよ?


 更に言うが、少し待っても翔夜君が何かを言い出す気配は無い。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

うーん……思いつかないや


 結局翔夜君はそう言い、それから少し笑った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

こうやっておねーさんと買い物出来てるだけで楽しいし、それで十分だよ


 そんな風に微笑む彼に更に追及するのは憚られる。

そ、そっか。それなら良かったかな


 結局そう言って笑い返すしかなかった。

 そんな時

男の子

うわーん、ママー


 そんな泣き声とともに小さな男の子が歩いて来るのが見えた。

迷子かな?


 そう思えば身体が動いた。
 子供に近付いて声を掛ける。

ぼく、どうしたの?


 声を掛けながら目線を合わせれば何とか応えようと男の子が言う。

男の子

うう、ひっく……ママが……ママが……いなくなっちゃったの

……そっかそれは困ったね


 男の子の頭を撫でながらどうにか安心させようと声を掛ける。
 それから周囲を見回すけれど店員さんもお母さんらしき人もそれだけでは見当たらない。

迷子センターに連れて行ってあげたいけれど……その前に何とか落ち着かせてあげたいな


 そう思った時近くに来た翔夜君が言った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

僕、近くにお母さんらしき人が居ないか見て来るね。
見当たらなければ店員さんを呼んで来るよ

うん、お願い

男の子

うわーんママぁ

よしよし、大丈夫だよ。ちゃんと見付かるからね


 宥める事数分、翔夜君は店員さんを連れて戻って来てくれた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

あの子です

店員

有難うございます、後の対応はお任せください


 そう言って店員さんは男の子の手を取ろうとするがどうしてか彼は私から手を離さない。

店員

お手数ですが……センターまでご一緒願えますか?

はい、大丈夫です

店員

ご協力感謝します

 結局そう言って来た店員さんの言葉に頷き一緒に迷子センターへと向かう事になる。

 そうして迷子センターに到着すれば放送が流され、息を切らしながら女性がやって来た。
 彼女が男の子のお母さんなのだろう。その姿を見た旬間泣き止んでいた男の子が再び泣き出しながら抱き着いた。

男の子

うわーんママぁ!


 お母さんは彼を抱き留め、それから私達に向き合った。

母親

ご迷惑をお掛けしました


 そう言って何度も頭を下げ、男の子を連れて帰って行く。
 それを見送った後店員さんが私達に頭を下げた。

店員

ご協力感謝します


 その言葉を合図に会釈してから階段に向かう。
 既に必要な物は買ってあるから残りは外に出るだけだった。

びっくりしたね


 翔夜君に言えば彼は頷き、それから苦笑した。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

でもおねーさん、随分懐かれてたよね

うーんそうかな?
きっと凄く心細かっただろうから……後から来た大人の人を警戒しちゃっただけだと思うよ


 苦笑でそう返せば翔夜君は何だか寂しそうに笑った。

翔夜君どうしたの?何か今日変だよ


 先程感じた違和感を思い出して問い掛ければ彼は苦笑した。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

流石に誤魔化せないよね……


 翔夜君はそんな風に言ってから話し出す。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

お母さんに連れられて来ている子供の姿とか迷子の子供をお母さんが必死で迎えに来るって事が……ちょっとだけ羨ましかったんだ。
僕は小さい頃に一緒に買い物に来たのは終兄だけで……お母さんと買い物に来た事なんて無かったし、何かを買って貰った思い出も全然無いから

そっか……翔夜君のお母さんは忙しい人だし、翔夜君もずっと忙しくしていた筈だもんね……


 翔夜君は幼い頃から子役として活躍していてそのお母さんも有名な大女優だ。
 親子の時間が余り取れなかったのも納得出来る話だった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

だからおねーさんに欲しい物を訊かれた時、すっごく嬉しかったけどすっごく困った。
何を欲しがるのが普通なのか、とか色々考えちゃったんだ

そうだったんだ……


 その言葉で親子連れを気にしていた理由と欲しい物を訊かれた時のぎこちない笑みの理由が漸くわかった。

私からすると何が欲しいかなんて些細な質問だったし母子で来ている子供の姿も珍しくもない当たり前の姿だったけど……翔夜君にとってはそうじゃなかったんだ


 そう考えた時、私にとっての当たり前の親子の姿を少しでも彼に感じて貰いたいと思った。

……ねぇ翔夜君、夕飯食べてく?

きっと翔夜君にとっての家庭の味はお母さんの物じゃ無いだろうから……私の料理で少しでもお母さんの味を感じて貰えたら良いな


 そう思ったからこその誘いだった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……え、良いの?


 翔夜君は少しの沈黙の後、驚いたように言った。

うん、思ったより遅くなっちゃったし……買い物に付き合ってくれたお礼だよ。
まぁそうなるともう一回店の中に戻らないとだけど……それで大丈夫なら


 苦笑交じりに言えば彼はすぐ頷いた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

その位全然大丈夫!
おねーさんの手料理かぁ……楽しみだな


 思っていた以上に嬉しそうな彼に私も嬉しくなってくる。

じゃあ戻ろっか

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

うん


 微笑んで手を差し出せばすぐに力強く彼が握り返してくれた。

『Fratello』【中将翔夜誕生日番外編3/6】幸せな食卓3

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