少しずつ気温が上がり、春の息吹を感じる頃。

何とか終わったー!


 私は机上に積み上げられた書類の束から一度手を放し、大きく伸びをした。

後はこれを彩羽さんに提出して、そしたら上がれるんだよね!


 今日アイドル達に付き添う仕事は午前中に終わっていて、お陰で午後は書類整理に時間を割く事が出来、夜まで掛からずにノルマを達成出来たのだった。

 何時もであれば二十二時近くまで仕事をしていたけれど、時計を確認してみるとまだ十六時を回った頃だった。

彩羽さんは確か十六時半頃に戻ると言っていたから……待ってようかな


 そんな事を思いながら書類の最終確認をする。
 その書類にある日付を見てふと考える。

そういえばもう三月だし……もうちょっとで翔夜君の誕生日だな


 彼氏の翔夜君は三月十日が誕生日。もう間近に迫っていたのだった。

そろそろ翔夜君の欲しい物とかを知りたい所なんだけど……時間が合わなくて余り一緒に過ごせてないんだよね…………


 翔夜君は十三歳という年齢があり、夜遅くまで仕事という事は出来ない。
 だから遅くまで書類整理をしていると彼の仕事終わりの時間を過ぎてしまうのが基本だった。
 当然待たせる訳にもいかず、結局殆ど一緒に過ごせていなかった。
 又翔夜君は仕事に至っては物凄く真面目なタイプであり、仕事中のプライベートな会話は一切しない。互いに仕事が終わらなければライン上でのメッセージのやり取りさえもしないような状況だ。
その結果仕事上での会話をする機会はあるが、プライベートな話は一切出来ていないのであった。

そういえば翔夜君の仕事……今日は十七時頃に終わりだったよね…………


 思わずスマホの時計をもう一度見れば十六時二十分。

……これ、今日がチャンスかも!


 思わずそう考えた。
 そんな時事務所のドアが開いた。

大神彩羽(おおかみいろは)

戻ったわよ


 声の主を見れば彩羽さんが帰宅した所だった。

社長!


 思わず声を上げ、反射的に立ち上がる。

大神彩羽(おおかみいろは)

あらプロデューサーちゃん、どうかした?


 驚いた様子の彩羽さんを見ながらも気が逸ったせいですぐに告げる。

本日の書類の整理が片付きましたので……待っていたんです。
確認お願いします!

大神彩羽(おおかみいろは)

ええ、わかったわ。
でもちょっと待ってね


 彩羽さんはそんな私の様子に驚いたようにしながら自分のデスクに向かった。

す、すみません、つい……


 今更ながらに恥ずかしくなって慌てて謝り、それから書類を提出する。
 彩羽さんは黙って書類に目を通し、数分後に口を開く。

大神彩羽(おおかみいろは)

確認したけれどミスは無さそう。上がってくれて大丈夫よ

有難うございます!


 お礼を言って頭を下げれば彩羽さんは悪戯っぽく微笑んだ。

大神彩羽(おおかみいろは)

そういえば今日『Most hope』は仕事が順調な様子でね。ついさっき早めに終わって着替えに行ったそうよ

え!?


 驚いて言えば彼は笑みを深くする。

大神彩羽(おおかみいろは)

これで貴女も上がりだから……待っていれば会えるかもね?

ほ、本当ですか!?

翔夜君に……会える!?

 驚いていたのは数秒で、私はすぐに帰り支度を始めた。
 大慌てで支度を終え、彩羽さんに頭を下げる。

お疲れ様でした!

大神彩羽(おおかみいろは)

ええ、お疲れ様。気を付けてね


 彼の挨拶を背中で受けながら私は事務所を飛び出す。

翔夜君……待ってて!


 逸る気持ちを抑える事もせず、私は走って玄関に向かったのだった。

『Fratello』【中将翔夜誕生日番外編1/6】幸せな食卓1

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