蓮と蘭君を家に送り届け、自宅に戻った私は冷蔵庫を開けた。
 料理の材料や作り置きのおかず、デザートなんかが並んでいる中、一際目立つラッピングしたお菓子がある。
 それは甘い物が余り得意では無い翔夜君の為だけを考えビターテイストで作ったチョコレートケーキだ。
 渡せないと思っていてもどうしても作ってしまっていた。

ちゃんと伝えられなかった、けど……本当は一緒に十四日にバレンタインがしたかったし、会えなくて寂しかった……。
……この気持ちを伝えよう

 そう決意する為にチョコレートケーキを一度目に入れておきたかった。

今の時間は二十一時。翔夜君の仕事終わりは二十時だから……もう終わってる筈……

 時計を確認し、静かにスマホを手に取る。
 ラインでトークを送る方法もあったけれどどうしても彼の声が聴きたくて、電話番号を呼び出した。

電話なんて滅多にしないから……翔夜君驚くかも

 そう思いながらもどうしても電話にしたかった。
 緊張による手の震えを何とか抑え、通話ボタンを押す。
 すると驚いた事にコール音が鳴り出したと思った瞬間相手が出た。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

もしもし、プロデューサーちゃん?

うん、翔夜君……お疲れ様。
急に電話してごめんね

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

ううん、僕もおねーさんの声が聴きたかったから。
今何処に居る?

え、自宅だけど……

 続く問いに驚きながらも答える。
 すると彼は驚くような事を言った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……待ってて、すぐに向かうから

え!?

 驚いて返すが同時に電話は切れてしまった。

ま、待って……すぐ向かうって……!

 突然の話に焦る。

変な格好してないよね!?

 慌てて鏡を見ながら服装を見直す。

う、うん……大丈夫

 そう思ってホッと一息吐いた時、玄関のチャイムが鳴った。

翔夜君かな……?

 急いで玄関に向かい、ドアを開ければ思った通りの人物が待っている。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……おねーさん、会いたかった

うん、私もだよ……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……お邪魔しても良い?

うん

 尋ねて来る彼に頷いて迎え入れる。

……どうして来てくれたの?

 部屋に通して座って貰った後、尋ねる。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……ついさっき蘭から連絡が来てさ、おねーさんの話をしてたら……声が聴きたくなって

 素直な言葉が嬉しくて、胸がときめく。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

電話しようと思ったら丁度おねーさんからの連絡が来るんだもん。会いたくなるよ。
だって今日は……特別な日でしょ?

うん……あのね、翔夜君。私、言ってない事があったんだ

 頷きながらタイミングは今だと感じた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

言ってない事?

 不思議そうに尋ねて来る彼に頷く。

本当は今日、一緒に過ごしたかったから……仕事だって聞いて寂しかったの。
だから渡せないと思ってたんだけど……ちゃんとプレゼントを用意してた。だってバレンタインは私にとっても特別な日だったから。
……ちょっと待っててね、持って来る

 そう言って一度用意していた物を取りに戻る。

これを翔夜君に。バレンタインのプレゼントだよ

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……開けても良い?

うん、どうぞ

 許可を出すと翔夜君は丁寧にラッピングを開く。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……これチョコレートケーキだよね?

うん、あ、大丈夫。
翔夜君は甘い物が得意じゃないからビターテイストで作ってあるよ

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

…………

 私の言葉に彼は少し沈黙する。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

こんなのズルいよ

 それから呟くようにそう言った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

君はずっと……俺の事しか考えていなかったんだね

 改めて指摘されれば頬が熱くなってくる。
 でもどこか嬉しそうな彼の様子に伝えないといけないと思った。

恥ずかしいけどでも……素直に言わないと

……うん、そうだよ。
本当は今回の仕事で遠出するのも寂しいと思ったし、翔夜君に届いてる贈り物を見た時だって……複雑な気持ちになった

 それは翔夜君を引き留める事にならないように、敢えて言わなかった気持ちだった。

……良い大人なのに格好悪いって自分でも思うけど……でもこれが私の本心だから

 そう思いながら彼の反応を待つ。
 すると彼の手が私の肩に伸びて来て……そっと抱き締められたのがわかった。

……翔夜君?

 何時もよりも優しい手付きに思わず名前を呼べば彼は呟くように言った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……君も俺と同じなんだね

え?

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

僕はおねーさんと離れるのは仕事でも寂しいし、おねーさんに贈り物が届いていたら……凄く気持ちがざわつく……。でもおねーさんはそうじゃないと思ってた。
……だから今回の仕事を受けたんだ

……どういう事?

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

おねーさんは僕と違って仕事なら割り切れるし、だから僕がプレゼントを貰った所で嫉妬なんてしないと思ってたから……僕ばっかりおねーさんの事を考えてるみたいで悔しかった。
そこでバレンタインデートの撮影なんて仕事を受けて距離を取れば……もう少し僕の事を考えてくれるかなって思ったんだ

……そうだったんだ

 その言葉で蘭君が妙と言っていた事に対する理由がわかる。

翔夜君も……私の事をずっと考えてくれてたんだね

 その事を嬉しく思いながら彼の話の続きに耳を傾ける。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

だから本当は今日こうやって会いに来るつもりも本当は無かった。
だけど……俺が耐えられなかったんだ

え……?

 そんな風に言われるとは思っていなかったから驚く。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

バレンタインデートの写真撮影だって仕事だからちゃんと割り切ってやるつもりだったけど……その間にずっとおねーさんの事ばっかり考えてたんだ。
おねーさんならこの場面でどんな反応するのかな、どんな時に喜ぶのかな……そればっかり。
目の前に居た相手役の人は別の人だったのに……

翔夜君……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

そしたら思ってた以上に寂しくて、おねーさんに会いたくなって……だから今日も結局ここに来た。
君が俺の事を考えてくれないと思って悔しかったから自分から離れたのに……まさか俺が寂しさに耐えられなくなるなんて。……又負けたような気分だったけど、まぁでも君も寂しかったんだっけ?

それはそうだよ……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

それなら勝ちも負けももうどうでも良いや。
ねぇプロデューサーちゃん、俺にこんな事思わせて言わせた責任……取ってくれるよね?

え!?

 今までとは一転楽しげな様子を見せる彼にドキッとする。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

今日は特別なバレンタインだし、仕事終わりに疲れてるのにこうして愛する恋人の所に来たんだよ?
……勿論楽しませてくれるよね?

 耳元で囁くように言われる声に心臓の鼓動が激しくなった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

手始めにキスしてよ

え!?

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

何時も俺からじゃつまらないし、玉には、さ

 そう言って翔夜君は身体を離す。
 心臓の鼓動が激しくなる中、彼は相変わらず楽しげに言う。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

ね、俺を癒して?

 だけどそう言われれば逃げる事は出来なさそうだった。

わ、わかったから……目、閉じて

 更に激しくなる鼓動が頬を上気させる。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

うん

 今度は素直に目を閉じた彼にそっと口付ける。
 すると彼の腕が伸びて来て……静かに囁かれた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

愛してるよ君の事

うん、私も……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……今度は俺からのご褒美をあげないとね

 そう言いながら近付く気配にそっと目を閉じれば優しい口付けがされる。

 そのキスが熱い夜の始まりを告げた。

『Fratello』【中将翔夜バレンタイン番外編5/5】BitterValentine5

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