複雑な思いを抱えながら迎えた二月十四日は『風光明媚』のバレンタインライブの日だった。
 その為の練習や調整でここ数日は『風光明媚』の二人と仕事をしているのが基本だった。

小野寺蓮(おのでられん)

これが最後の曲だ!

小野寺蘭(おのでららん)

私達から皆さんへ、ハッピーバレンタイン!

 ステージの上では蓮と蘭君がそう言って、アンコールの本当に最後の楽曲が流れ出す。
 そうして熱気の中、二人のライブが終了した。

……無事に終わって良かったな


 先に控室に戻っていた私は思わず一息吐きながらそう思う。

……バレンタインライブ、か……


 その言葉でどうしても翔夜君の事を考えてしまう。

……バレンタインが過ぎた後に渡せば良い、なんてわかってはいるけれど……やっぱり当日一緒に過ごしたかったなぁ……


 何度目かわからない考えを振り切るように頭を振った。

考えても無理な物は無理だからしょうがない。
ちょっと頭冷やそう

 そう考えて外に出る。

 外はもう暗く、星が瞬いていた。
 二月の冷たい風に深呼吸をすれば気分も明るくなるような気がした。

 声が聞こえたのはその時だった。

???

プロデューサーさん!

 振り返れば着替えを済ませた蘭君の姿がある。
 走って来たのか少し息が乱れていた。

蘭君、どうかした?ライブに関する仕事はもう二人の送り迎えだけだと思うけど……

 何か不手際があったのかと焦りを覚えるが、彼は首を振った。

小野寺蘭(おのでららん)

いいえ、仕事の事じゃありません。貴女が出て行くのが見えた物ですから……追い掛けて来たんです。
……少し話がしたくて

話?

小野寺蘭(おのでららん)

はい。此所数日何か悩んでいらっしゃいましたよね?
仕事は完璧にこなしているようでしたが……時折ぼんやりとしていたせいで能率は落ちていました

 言われた事には覚えがあり、驚く。

小野寺蘭(おのでららん)

まぁでも大体見当はついています。
……翔夜ですね?

う……


 言い当てられて言葉に詰まる。

小野寺蘭(おのでららん)

翔夜の仕事については僕も訊いています。……突然遠出する仕事が出来たようですね?
翔夜は仕事についてはプロ意識が高く、恐らく連絡も絶っているでしょうから……しっかり話も出来ていないのでしょう

……蘭君の言う通りだよ

 的確な指摘に返す言葉も無い。
 そんな私を見ながら蘭君は続ける。

小野寺蘭(おのでららん)

……しかし妙ですね。翔夜は貴女とバレンタインを過ごせる事をとても楽しみにしていました。
そのバレンタインを潰してまで仕事を入れるなんてよっぽど大変な仕事なのかとも思いますが……そんなようには思えませんでしたね。子役時代を知る方からの提案で遠出するなんていうのも翔夜が一番嫌がりそうな話ですし

え……

 予想外の話に驚くが、逆に蘭君の方が驚いた様子だった。

小野寺蘭(おのでららん)

……まさか何も訊いていらっしゃらないんですか!?

ううん、一応訊いたけど……仕事を嫌がっているような様子は全然無かったし……バレンタインを楽しみにしてたなんて初めて知った……

小野寺蘭(おのでららん)

……そうでしたか……

 蘭君は溜息混じりに言う。

小野寺蘭(おのでららん)

全く翔夜は……相変わらずですね……

……え?

小野寺蘭(おのでららん)

我儘で生意気で自分勝手な癖に……大切な人の前では格好付けたがりなんです。
だからその人に本当にやって欲しい事が何なのか、自分が一番して貰って嬉しいのが何なのか……伝えられないんです

 言いながら蘭君は再び溜息を吐き、それから問い掛けて来る。

小野寺蘭(おのでららん)

プロデューサーさん、翔夜が今回の仕事を決めた時……何か変わった所はありませんでしたか?

 その言葉に考えを巡らせれば浮かぶ出来事が複数ある。

……そういえばあの日、バレンタインの仕分け中から変だったかも……急に嫉妬したり私の手元を見詰めてきたり……

……言われてみればちょっと翔夜君の様子、変だったかも

小野寺蘭(おのでららん)

……矢張り心当たりがあるようですね

 そう言う蘭君に頷けば彼は真剣な口調で続けた。

小野寺蘭(おのでららん)

プロデューサーさん、心当たりがあるのなら……翔夜に直接尋ねてあげて下さい。
今日はもう仕事は終わります。連絡が可能な筈ですよね?

うん、蘭君ありがとう!頑張ってみるね

小野寺蘭(おのでららん)

いえ、翔夜の事、宜しくお願いしますね。
それともう一つだけ良いですか?

ん?何かな

小野寺蘭(おのでららん)

翔夜の為を思うなら……貴女の想いを素直に伝えてあげて下さい。
そうすればきっと翔夜も素直になれると思いますから

私の想いを素直に伝える……か

 考えてみれば余り出来ていない。
 言っている事は何時も半分程度だ。

翔夜君を本当に信じているのなら……全部伝えなきゃ駄目だよね

わかった、やってみるね

小野寺蘭(おのでららん)

はい。
それと最後にこれを貴女にも

 頷いた私に微笑した蘭君は持っていたプレゼントを差し出した。

これ、今日のライブで会場に投げてた……

小野寺蘭(おのでららん)

いえ、これはファンでは無く貴女用です。プロデューサーさん

……本当にありがとう

 お礼を言いながら私は翔夜君の事を考えていた事で……他の人へのバレンタインのプレゼントを全く用意していなかった事に気付く。

後でちゃんとお返しをしないとな……ちゃんと翔夜君と会って話してから。
……早く会いたいなぁ


 そう考えれば頭の中はもう彼の事ばかりになっていた。

『Fratello』【中将翔夜バレンタイン番外編4/5】BitterValentine4

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