私に肩を預けていた翔夜君は暫くすると何かに気付いた様子で言う。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

ねぇおねーさん、あの机の上のは何?一つだけプレゼントの山から外れた所に置いてあるけど


 その言葉に私はそう言えば説明していなかったという事を思い出した。

あああれは……バレンタインだからって事で昨期彩羽さんから貰ったの。
混ざるといけないから避けたんだ

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……社長から?

うん。初めて手作りしたとか話してくれたから……楽しみだな。
翔夜君も後で貰うんじゃない?


 彩羽さんとの会話を思い出しながら返す。
 しかし翔夜君はどうしてか何も言わない。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

…………

……翔夜君?


 不思議に思って尋ね返せば不機嫌そうな声で彼は言った。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

社長からのプレゼント……随分大切に扱っているんだね

そりゃ考えて贈ってくれた物だし嬉しかったから……


 不機嫌になるような理由がわからず困惑しながら返せば突然抱き寄せられ、驚く間もなく口付けられた。

え……


 何が起きたのか理解出来ずに戸惑っていれば再び唇が重なった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……君は一体誰の物?

しょ、翔夜く……っ


 驚いて彼を呼ぼうとするけれど言い切る前に再び口付けられる。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

プロデューサーちゃんは俺の物でしょ?何で他の男からの物に対してそんなに喜ぶの?
君が誰の物なのか、はっきりさせてあげないとだよね?

 言いながら近付く彼に思わず目を閉じそうになって、慌ててその身体を押し返した。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……プロデューサーちゃん?

だ、駄目だよ、こんな所で。誰が来るかわからないのに……


 縋るように見つめて来る彼の様子に胸の痛みを感じながらどうにか拒否する。

嫉妬して、くれたんだよね?それは嬉しいけど……何かこれは違う気がする

翔夜君この後仕事だし、私だって仕事だから……もっとゆっくり出来る時にしよ?
大丈夫。私は何処にも行かないから


 私が言えば翔夜君も冷静さを取り戻したのか、身体を離す。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……そうだね。もっと先に行ける時が良いよね

ま、又そういう事言ってっ。
ほ、ほら、もうちょっとだけ仕分け作業しよう


 思わず照れてしまいながらも何時もの調子に戻った彼にはホッとする。
 そうして作業に戻るけれど翔夜君は同じように作業をする訳では無く、何故か私の手元を見詰めていた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

…………

……しょ、翔夜君どうかした?

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

おねーさん、僕宛の贈り物とか見て……何か思う事とか無いの?


 気になって尋ねれば逆に尋ね返される。

え?

急にどうしたんだろう……


 不思議に思いながらも答える。

贈り物が届くって事は翔夜君の魅力がファンの皆に伝わっているって事だし、自分の事のように嬉しいかな


 本当は他に思う事もある。だけどこれも本心だった。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

……そっか


 私の言葉に翔夜君は静かに呟く。

 しかしそれ以上何か言う事は無く私の作業状況を見るのも止めて自分も仕分け作業に戻って行った。

あれ……それだけ……?


 どんな反応が返るのか構えていた私は拍子抜けしてしまう。

でも何か言いたそうって訳でも無いし……


 結局そう思って自分の作業に戻る事にする。
 その後は賑やかな空気になる事も無く、それぞれが黙々と作業をして規定の時間になった。

 午後の初め、私は『Most hope』のバラエティ番組の収録の仕事に付き添う事になっていた。
 大きなトラブルも無く終わり、番組スタッフの方と挨拶を交わした所でホッと一息吐く。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

お疲れ様、おねーさん

 同じように挨拶を終えたのか、翔夜君がやって来たのはそんな時だった。

うん、翔夜君もお疲れ様。今日の収録流石だったよ!
皆翔夜君の話に集中してたように見えた

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

おねーさんがそう言うなら間違いないね

うん、あの様子なら大きなカットも無く使われると思う

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

おねーさんの言葉は外れないからねー、放送されるのが楽しみになってきた

それなら良かった、かな。
ところで翔夜君、この後はレコーディングでしょ。その前に私の所に来たって事は……何か用があるんだよね?

 翔夜君は仕事においては完璧で真剣だ。その分プライベートと切り替えるという事をしている。
 その為仕事が始まって終わるまでは私に挨拶以外をしに来る事は無いし、スマホの電源も切るという徹底ぶりだった。
 そんな彼がこうして仕事の合間にやって来るという事は用事があるという事なんだと考えられる。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

流石おねーさん、わかってるね。そうだよちょっと仕事の話があって

何かな?

 尋ねれば彼はすぐに答えた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

朝僕個人に仕事が来てるって話したでしょ?それについてなんだけど、その仕事が決まったんだ

そうなの?おめでとう!

 自分の事のように嬉しくなり、笑顔で応じる。
 しかし翔夜君の表情は真顔で嬉しそうには到底見えなかった。

もしかして……望まない仕事だった、とか?
それについての断りを入れて欲しいって話かな?

 彼の表情から私はそう尋ねたけれど、それに対して翔夜君は首を振る。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

ううん仕事自体は社長から聞いた物だし、ちゃんと考えて自分で決めた事だからそれは大丈夫だよ

そうなの?


 予想が外れて呆然とすれば彼は頷いた。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

仕事内容はバレンタインデートの写真撮影。唯僕個人に来た仕事だったからちょっと特徴的なんだ。
僕の子役の頃を知っている人からのオファーで……泊り掛けでやんないといけなくて

そうなの?何時から?

 驚いて返せば彼はすぐに答える。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

急な話だけど明日の朝早くに行って、帰ってくるのは二月十四日の予定。
その間他の仕事はスケジュール調整をして貰ったから……後でおねーさんにも連絡が行くと思うけど

明日から十四日までって事は……

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

丁度おねーさんが蘭達と仕事をする期間だよね。それにバレンタインは予定が立てられない……だから言いに来たんだ。
おねーさんはレコーディングは関わらないし明日早いとなると他に話してる時間は無さそうだったから

 翔夜君はそんな風に言った。

そっか、教えてくれてありがとう。頑張ってね

 そう返せば彼は頷き、次いで踵を返す。

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

うん……それじゃあ次の仕事もあるから僕もう行くね

うん、行ってらっしゃい

 そう言って笑顔を作って送り出す。時間も無い中だ。急いで行く彼の姿はすぐに見えなくなった。

 後に残されれば胸の内に仕舞い込んだ気持ちが出て来てしまう。

……バレンタイン、一緒に過ごしたかったな。それに会えないの……寂しいな

 これも仕事だから……そう思ったとしても引き留めるような事は言いたくなかった。

……ちゃんと笑えてたよね、私

 唯それだけが気掛かりだった。

『Fratello』【中将翔夜バレンタイン番外編3/5】BitterValentine3

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