二十分遅れると言っていた蘇芳は本当に急いで来てくれたようで、電話を切って十五分程で階段から降りて来た。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

ごめん、仕事が終わった後スタッフの人に捕まっちゃって

ううん、大丈夫だよ

 申し訳無さそうに謝る彼に慌てて返す。

……意外と普通、かな?

 昼休みが終わる手前の喧嘩を思うと不安だったが、そう言う彼が引きずっているようには見えなかった。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

勉強見て欲しいって頼んだ俺が遅れるってのはどうかと思うけど……怒らないんだね

うん……。
しっかり連絡があったし本当に急いで来てくれたみたいだからね

 そう返せば彼はホッとした様子になって言う。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

遅れた分勉強時間も減るから……行こうか

うん

 それに頷いた私は差し出された彼の手を取る……が

……あれ?

 ふと違和感を覚えて握られた手を見る。

何時もより握る力が強いような……?

 何時もよりも絡んだ指の感触を強く感じたせいでそんなように思った。
 とはいえ痛い程でも無いので結局何か言うのは止める。

 しかし彼に感じる違和感はそれだけでは無かった。
 肩が当たりそうに思える程の至近距離で歩き、時間が立つ程にそれが近くなる。
 今歩いている道は確かに人通りの少ない通りではあるけれど、何時すれ違うかわからない位は人気もあるし住宅も並んでいる。
人前を気にする彼らしく無い距離感だった。

 更に入ったカフェが違和感を大きくさせる。
 この間行った所より離れた所にある『CAFÉ・HEART』は自由席だが全席個室のカフェだ。
 特にカップルが来るような場所だから考えなくても関係性を意識して集中力が欠け易くなる。
 勉強に向いているとはとても思えなかった。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

プロデューサー、こっち

 奥の席を取って座ろうとすれば彼は私を隣へ促した。

 よっぽど向かい合わせに座った方が広くスペースを確保して勉強に打ち込める筈だ。
 それなのに隣を促すのも妙としか言いようが無かった。

あ、うん……


 それでもおずおずと頷いて彼の隣に座ればもたれ掛かってくる。
 勉強へのやる気なんて全く見られない。

蘇芳、どうしたの?変だよ


 遂に堪えきれなくなった私は思わず言った。

天領蘇芳(てんりょうすおう)


 蘇芳はそれに驚いた様子だ。

ねぇ蘇芳、今ここには何をしに来てるんだっけ?勉強じゃなかったかな?ちゃんとやる気あるの?

天領蘇芳(てんりょうすおう)

…………


 少し責めるような口調になってしまったせいか、彼は沈黙した。

やる気無いのにこうしてたって仕方無いと思う


 彼からすると冷たい言葉だったかも知れない。
 だけどプロデューサーという立場上、ここで甘やかす訳にはいかなかった。

今日の蘇芳、明らかに可笑しいよ。このまま帰った方が良いと思う


 突き放すような言い方を申し訳無いと思う。

でも言わなかったら蘇芳の為にならないと思うから……


 このままだと仕事にも影響が出る気がする。
 それを考えれば心を鬼にする他に無かった。

 すると……

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……のせいだと


 怒ったような声が聞こえ、気付いたらソファーの上で彼に押し倒されるような格好になっていた。

な、何!?

 状況を理解するや否や心臓の鼓動が跳ね、頬が熱を持つ。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

誰のせいだと思ってるの!?


 そう言う彼は普段の明るい雰囲気とは掛け離れ、怒ったような……それなのにどこか悲しそうで傷付いたような……暗い瞳をしていた。

……蘇芳?


 心配になってきて呼びかける。
 恥ずかしさなんてもう忘れていた。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……プロデューサーは何もわかってない。俺がどんな思いで君を見てるのか……どれ程愛してるのか……考えた事ある?


 切なげに響く声に胸を衝かれたような気持ちになる。

 余り自分の意見や想いを語らない筈の彼が激情に任せて言葉を発する姿がそこにはあった。

『Fratello』【クリスマス・天領蘇芳誕生日番外編9/21】譲れないもの9

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