近くにある『Café・Sweet』はスタンダードな形式の店内に自由席のカフェだ。
 奥の空席を取って向かい合って座る。

蘇芳、勉強してて難しい所ってある?

 早速尋ねれば彼は英語の教科書を開いて言った。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

単語は割と覚えたと思うんだけど、この受動態ってのが難しくて

確かに受動態って難しいかもね

天領蘇芳(てんりょうすおう)

うん、例えばこの能動態を受動態にするってのも何だか良くわからなくて

とするとまず能動態と受動態の違いから復習しようか

天領蘇芳(てんりょうすおう)

うん、そうしてくれると助かる

 私の言葉に彼は頷いた。

まず能動態と受動態の違いとかってどう習った?

天領蘇芳(てんりょうすおう)

うーんと……何するってのが能動態で、何されるってなると受動態、とかやったけど

例文とか挙げれる?

天領蘇芳(てんりょうすおう)

例文?ええっと……

挙げれないならちゃんと理解してないって事。
蘇芳は英語とかも暗記でやる方なんじゃない?

 先程も単語帳を見ていたし彼は渡された歌詞をすぐに音楽に乗せられるという特技がある。
 そう考えればそんなやり方をしている気がした。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……そうかも

やっぱりね。暗記だとテストはどうにかなっても身に付かないから英語はその勉強方じゃ限界が来ると思う。
暗記が得意なら唯教科書の文章を覚えるんじゃ無くて文法を覚えて当て嵌めた方が良いよ

天領蘇芳(てんりょうすおう)

成程、プロデューサー凄いね。俺のやり易い方法をそんな簡単に考え付くなんて

まぁ仕事柄それは重要になるからね

 私が返すと彼は複雑そうな顔をした。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……まぁ君ならそう言いそうだと思ったけどさ

私何か変な事言った?

 不思議に思って返せばどことなく残念そうだ。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……俺としてはもうちょっと特別感のある言葉が欲しいんだけど

 何か言っていたようだったけれど小さくて聞こえない。
 私は再び首を傾げたけれど、ウェイトレスがやって来た為考え事は中断した。

ウェイトレス

お待たせしました、オリジナルブレンドです

ありがとうございます

ウェイトレス

ごゆっくりどうぞ

 そう言ってウェイトレスは去る。
 それによって何となく勉強は中断された。

 ふと珈琲の置かれた机を見ればメニュー表が目に入る。
 そこにはクリスマスメニューが数多く並んでいた。

そういえばもうすぐクリスマスだね

天領蘇芳(てんりょうすおう)

ああ……そういえばそうか

 思わず話題を振るが、蘇芳は大して興味が無さそうだった。

あれクリスマスって蘇芳の誕生日でもある筈なんだけど……興味無い物なのかな……?

 私は不思議に思うけれど、そういえば今までクリスマスを意識するイルミネーションの場所を通ったり店でクリスマスソングが流れていたりもしたのに蘇芳からその話題を振られた事は一切無い事に気付く。
 クリスマスの予定について話が上がる事さえも無かった。

クリスマス自体が十二月の終わりの方だからまだ話題にならなくても不思議じゃないと思ってたけど……期末が終わったら蘇芳の学校も休みですぐクリスマスの筈だよね?

 今更ながら妙に思う。

ねぇ蘇芳、クリスマスって……

 彼の予定を聞こうかとも思うが言い終わる前に彼が遮る。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

飲まないと珈琲冷めるよ?

あ、うん

あれ、誤魔化された?……まさかね

 思わずそうも考えたが自分の中で打ち消す。

確かに飲まなきゃ冷めるよね……

 そうして珈琲も飲み終わる。

あのさ、蘇芳二十四日の予定とかって……

天領蘇芳(てんりょうすおう)

プロデューサー、珈琲のおかわり無料だし貰えば?

 今度こそと思って問い掛けるがしかし再び遮られてしまった。

え、あ……うん

間違いない、誤魔化されてるよね?

 私でもわかる位わざとらしい遮り方だ。

蘇芳はクリスマスについて絶対何か考えてる。これは聞き出さなきゃ

 私は密かに決意してウェイトレスに珈琲のおかわりを頼んでから彼を見る。

 彼は私に訊かれた事等無かったように再びシャーペンを持ってノートに向かおうとするが、私は止めるようにその手を握った。

『Fratello』【クリスマス・天領蘇芳誕生日番外編3/21】譲れないもの3

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