…………


 恥ずかしくて何も言えないでいると突然手を取られる。

えっ?


 驚いて間抜けな声を出せば私の手を引きながら彼は言った。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

勉強教えてくれるんでしょ。何時までもここに居たって仕方無いと思うけど?

あっそうだね

 言われてみれば確かにそうだ。
 私は頷いて彼と共に歩き出す。
 どちらからとも無く指が絡み、心臓の鼓動が高鳴った。

 外に出て一端手が離れれば彼は眼鏡を外してケースにしまいながら言う。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

この近くのカフェとか入る?外で勉強する訳にもいかないし

う、うん


 私はどうにか頷くが、眼鏡を取った彼の様子にドキドキしてしまっていたせいで詰まり気味に返事をしてしまった。

 蘇芳の眼鏡は瓜二つの浅葱と区別しやすいようにしているだけの伊達眼鏡だ。取った所で何にも問題は無いのは知っている。特に彼はアイドル。眼鏡姿を知ってるファンにプライベートを邪魔されない為にも素顔の方が都合が良い。
 しかし彼が眼鏡を外している姿は仕事帰りに見る機会は余り無い。
 この間見たのも休日デートの時だったからそのせいでついドキドキしてしまった。

……眼鏡を取った蘇芳を見ると恋人だって意識しちゃう


 頬が熱くなるのを感じながらもつい彼を見てしまう。
 そんな私を蘇芳は不思議そうに見ていたけれど、すぐにからかうように笑った。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

何、プロデューサーちゃん。俺に見惚れちゃった?

…………


 呼び方からしてからかわれているというのは何となくわかったけれど、私は結局何も返せず視線をずらした。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……ここは何とか言ってくれないと俺、困るんだけど


 そんな声が返って来て思わず視線を戻せば彼も同じように視線を逸らしていた。
 その頬が赤い。
 それを見たせいで余計に照れてしまった。

そ、そんな事言われても……


 再び視線を逸らせば囁くような声が聞こえる。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

事務所ビル前なのに……キスしちゃうよ?


 それに私は耳まで赤くなってしまった。

そ、それは駄目!

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……嫌がると余計にしたくなるでしょ。わかってる?

…………

 私は真っ赤になったまま何も返せない。
 そんな彼の気配が近付いてくるのがわかって心臓の鼓動が激しくなった。

 予感に思わず目を閉じるが、待っても何も無い。

あ、れ……?


 目を開ければ近付いた筈の彼は何時の間にか距離を取っている。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……なんてね、やっぱ流石に不味いかな


 言いながらふっと笑みを零した彼は私に手を差し出した。

天領蘇芳(てんりょうすおう)

……行こうか

う、うん……


 まだドキドキしながらも彼の手を握る。

嫌だって言ったから……辞めてくれたのかな?


 そう思えば彼が愛しくて、その想いに押されるように握った手に指を絡める。
 蘇芳はそれに一瞬驚いたようだったけどすぐに同じように握り返してくれた。

 気温は低くて風も冷たい。
 だけど繋いだ手も心も暖かかった。

『Fratello』【クリスマス・天領蘇芳誕生日番外編年2/21】譲れないもの2

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