約束の時間は十八時。それまでにその日分の仕事を終わらせ、残業はしないで済むが、着替えている時間は無さそうだったからスーツでそのまま向かう。
 待ち合わせ場所は朝と同じ愛始駅。電車を降りてホームの階段を下り、改札まで抜ける。
 帰省ラッシュは大抵十九時以降の為、そこまで混雑はしていなかった。

敢えて少し早目にしてくれたんだろうな


 こういう所浅葱は抜かり無い。
 それを思って嬉しくなりながら進んでいけば改札を抜けた私に気付いた浅葱が手を振っていた。
 彼も学校終わりにそのまま来たのか制服姿で、それも何だか嬉しかった。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

姫、こっちだよ

うん!


 呼んでくれる彼に駆け寄る。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

時間は大丈夫だったかい?

うん。
何時も明日の仕事の為にちょっと残業していくから……今日の仕事までやって終われば間に合ったよ

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

ふふ……私を優先してくれたんだね


 私の言葉に浅葱は嬉しそうに笑い、私の手を取って歩き出す。
 その手を握り返しながら少し小さい声になって返した。

会えなくなるとか聞いたらそうなるよ……

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

姫は私を困らせたいのかい?
……余り可愛い事を言われると抑えられなくなるのに


 言いながら彼は本当に困ったような照れ笑いを浮かべている。
 その様子に私まで照れてしまった。

 そんな私の様子を見ながら彼は言った。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

会えなくなる理由を話そう。まずはそれが聞きたいだろう?

うん……


 頷けば彼は私に質問を投げ掛けながら理由を話した。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

私の誕生日が今月の二十五日というのは知っているね?

うん

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

毎年家では二十四日から二十五日までクリスマスパーティーも兼ねた私の誕生日会もやっていてね。会えなくなるのはそのせいなんだ

え……どういう事?


 パーティーと聞いても私はぴんと来ない。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

小さな物であればそんな事は無いから貴女は不思議に思っているようだけど……家の場合は誕生日会なのにかなりしっかりした物でね。
ホテルを貸し切って家族は当然、親戚や財閥の仕事関係者まで集まって行われるんだ

……えっ


 私は驚いて浅葱を見る。
 全く想像が出来なかったが、当然彼は嘘を吐いている訳では無さそうだった。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

想像出来ないのも無理は無い。私は生まれた時からそんなような感じだったから慣れているけれど……通常そこまでやる誕生日は無いようだし


 その言葉に改めて私は凄い人と付き合っているのだと気付かされた。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

でもその関係で私はスピーチを考えなくてはいけなくて、下手な事を言おう物なら家の品格が疑われるから……長考と修正をする必要があるんだ。
だからこの一週間それに懸かりきりにならないといけなくて

だから会い難くなるって……

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

うん。それもそうだし、連絡さえまともに取れないかも知れないから……伝えておきたくてね。
貴女には寂しい思いをさせる事になってしまうけれど……

そっか……。
でもお家の事情だし……しょうがないよね。
話してくれてありがとう


 寂しい気持ちは無くならないけど我が儘を言って彼を困らせる訳にもいかない。
 私はそう返した。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

姫ならそう言ってくれると思ってた。寂しい思いをさせるのは申し訳無いが、必ず埋め合わせはするから

うん……


 小さく頷けば彼は笑うが、その微笑はどこか寂しそうにも見えた。
 しかし寂しい色を宿していたのはそう長くは無く、彼は続けて真顔で言った。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

それと姫、貴女にお願いがある

お願い?


 不思議に思って尋ねれば一層表情を引き締めた彼が続けた。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

二十四日からの私の誕生日パーティーに貴女にも参加して欲しいんだ。私の……パートナーとして

えっ!?

まままま待って!
パートナーって事はつまりその……そういう事だよね


 私はその言葉の意味を理解して真っ赤になってしまう。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

……貴女をしっかり紹介したいんだ。私の関係者に

 先程よりも真剣味を帯びたその声音が私の思った事が妄想では無い事を示した。

浅葱のパートナーか……


 彼の隣にその立場で歩く自分を想像してみるが、どこか現実味が無かった。
 そんな私に彼は真剣な声音で続けた。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

私のパートナーは貴女にしか務まらない。私はそう考えている。
他の誰でも無い貴女だからこそ……紹介したいと思うんだ


 それを聞いた時、彼のパートナーとして歩く自分の姿がゆっくりと現実味を帯びてくる。
 同時にその隣に立つのは私が良い。他の人は嫌だ、と思う自分に気付いた。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

突然で驚かせてしまったかな


 少し不安そうにそう言い、彼は続ける。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

……すぐに決めて欲しいとは言わない。だけど……当日までには結論を出して欲しい。
だから今日誘ったんだ


 私はそれに静かに首を振った。

ううん……大丈夫。最初はちょっと驚いたけど浅葱の言葉が嬉しかったから……私、参加したい

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

プロデューサー……


 浅葱は私のその言葉に珍しく驚いた様子だ。
 それが少し嬉しかった。

こんな浅葱の姿、他の人は絶対知らない


 思わず口元が綻んでしまう。
 すると手を離した彼に抱き寄せられた。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

有難う。愛してる


 心臓の鼓動が高鳴る。
 でもそれが又嬉しくて彼を抱き締め返した。

 もう駅からは離れ周囲に人気は無い。
 完全にムードは出来上がっていた。

……うん、私もだよ


 小さく返せば抱き寄せる力が強くなり、唇が重なる。
 思う事は一つだ。

大好き


 だから、頑張りたいと思う。
 彼の為に私のやれる事があるのなら。

 時間にしてはそんなに無かっただろうけど、何時間にも思えたキスの後身体を離した彼は再び私の手を握る。

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

恐らく当日はそんなに時間が取れないだろうから、せめて今日は楽しもう、姫

うん

 その言葉に嬉しくなって頷いた。

『Fratello』【クリスマス・天領浅葱誕生日番外編3/15】パートナーとして3

facebook twitter
pagetop