十二月に入り街がクリスマスイルミネーションで彩られているのを見ながら私は『fratelloプロダクション』に出勤した。

おはよ……


 挨拶をしながら事務所に入ろうとはするが、思わず私は固まってしまう。
 本日は『sorelleプロダクション』との仕事がある為、最近『sorelleプロダクション』加入になったアイドル二人の他、銀河と大河の姿がそこにはあった。しかし余り空気感は良くない気がして挨拶を止めてしまったのだ。

小長井鬨(こながいこう)

何?サンタクロースなんてまだ信じてんの?
御前十八だろ?大丈夫かよ

 聞こえてきたのは最近『sorelleプロダクション』に入ったアイドルでダークミュージックとロックのような激しい楽曲と傲慢や腹黒といった激しい気性が売りの『Fonce(フォンセ)』のリーダー・小長井閧さんの声。
 そして……

大神銀河(おおかみぎんが)

貴様我を誰と心得てその口を叩く!


 それに反発する銀河の声だった。

え、何?どうしたっていうの


 呆然と固まってしまっていると私に気付いたらしい大河が歩いてくる。

大神大河(おおかみたいが)

プロデューサー、挨拶途中だよ。おはよう

あ、うん。おはよう大河


 慌てて応じれば大河は頭痛を堪えるような表情で言った。

大神大河(おおかみたいが)

まぁあれ見たらそうなるよね……

あ、あはは……うん


 私はそれに苦笑で返す。

一体何があったのか訊いても良い?

大神大河(おおかみたいが)

うん。とはいえ大した事じゃないんだけど……


 大河は溜息混じりに話してくれた。

 俺達兄弟は社長と一緒に出勤するのが基本だから今日も一番に事務所にやって来た。
 行きの車から外を見れば街はもうクリスマスモードで夜になれば光り輝くであろうクリスマスイルミネーションがところどころに飾られている。

 そんな光景を見て来ていたからクリスマスを意識した兄さんが浮き足立った様子でクリスマスソングなんかを口ずさむのを見ながら事務所に入る。
 すると驚いた事に先客が居た。それが『sorelleプロダクション』に最近加入したと聞いていたアイドル『Fonce』であった。

大神大河(おおかみたいが)

おはよう

大神銀河(おおかみぎんが)

貴様等も無事漆黒の闇から抜けられたようで何よりだ
【訳:おはよう】

小長井鬨(こながいこう)

ああ、おはよう

小長井閻(こながいえん)

おはようございます


 彼等と挨拶を交わすまでは特に問題は無かった。
 しかしこの後の世間話の内容が問題だった。

小長井閻(こながいえん)

朝方は寒くなって来て、そろそろクリスマスも近いですね

 『Fonce』の弟・小長井閻の方が話題を提供した。

大神大河(おおかみたいが)

そういえばそんな時期か


 俺が応じたまでは良かった。
 問題はその後の兄さんの発言だ。

大神銀河(おおかみぎんが)

貴様等は赤き使者【訳:サンタクロース】に何を願うのだ?


 その言葉にその場は一気に静まり返る。
 俺は兄さんの純粋さを知っているから特に驚かないけど普通に考えれば十八歳でサンタクロースを信じているとは思えないから、そのせいだろう。
 『Fonce』の二人は呆気に取られた様子で沈黙していた。

大神銀河(おおかみぎんが)

我はそうだな……


 そう兄さんが続けようとしたのを遮った『Fonce』のリーダーが

小長井鬨(こながいこう)

何?サンタクロースなんてまだ信じてんのか?御前十八だろ?大丈夫かよ


 そう言った。

大神大河(おおかみたいが)

……それで今に至ってる訳なんだけど

成程ね……


 私は納得して苦笑する。

確かに銀河の性格を思えば喧嘩にもなるか

大神大河(おおかみたいが)

物凄く下らなくて正直嫌だけどね、俺……。
でもこのままの空気だとやりづらいからプロデューサー、何とか出来ない?『Fonce』の弟は笑って見ているだけなんだよね


 言われてみれば確かに閻さんは黙って見守っている……というか楽しんでさえいるようにも思えた。

そういえば彼腹黒いとか……


 そんな事を思い出す。

確かにこの空気はまずい。とりあえず割って入ろうか


 そう考えた私は二人とそれを見守る一人の許へと歩いていった。

おはよう、三人とも。何か盛り上がっているみたいだけど、どうしたの?


 声を掛けた事によって三人の注意が私に向く。

小長井閻(こながいえん)

おはようございます、プロデューサーさん

小長井鬨(こながいこう)

ああ、プロデューサーか。おはよう

大神銀河(おおかみぎんが)

貴様も無事漆黒の闇から抜けられたようで何よりだ、プロデューサー!貴様こそまさに我の救世主!このタイミングで現れた事、褒めて遣わすぞ

そうかな?それは良かった


 苦笑しつつ銀河に応じれば彼は期待に満ちた目で私を見つめた。

相変わらず銀河って・・・子供みたいだよね


 密かにそう思いながらも話の続きを待てば銀河は訊いて来る。

大神銀河(おおかみぎんが)

プロデューサー、貴様は赤き使者に願い事を込めるだろう
【訳:サンタさんにお願いするよね】?
赤き使者は実在するのだから!

サンタさんにお願い事か……そうだなぁ

 言葉を濁して応答を先送りにすれば閧さんも言う。

小長井鬨(こながいこう)

サンタクロースなんて伝承で、その正体は実は違うなんて常識だろ?
まさか御前まで信じてるとか無いよな?

えーっと……

それはそうなんだけど、銀河の夢を壊すのも忍びないしどう応えようかな……


 結局詰まってしまう私を二人は静かに見守っている。
 しかし良い答えは浮かばず結局言葉に出来ないでいると意外な所から助け舟が出た。

小長井閻(こながいえん)

サンタクロースを信じる信じないというのは人による所がありますし、そんな責めてお聞きしなくても良いんじゃないですか?一々白黒つける必要も無いでしょう。
……まぁそれぞれの意見をお伺いするのは面白そうですけど


 こう言ったのは閻さんだった。

小長井鬨(こながいこう)

まぁ確かにそれもそうか

大神銀河(おおかみぎんが)

うむ、一理あるかも知れぬ


 それに二人は納得したように引き下がってくれ、私はホッとする。
 しかし彼の矛先が自分に向いて思わず詰まった。

小長井閻(こながいえん)

因みにプロデューサーさんは如何です?

えっ

小長井閻(こながいえん)

サンタクロースを信じるのか、信じないのか……貴女の意見は?


 彼の追及は止まらない。

え、ええっと……家に来た事が無いからどっちとも言えないかな


 私はどうにか無難な答えを搾り出して応えた。

大神銀河(おおかみぎんが)

プロデューサーの許には来ないのか?


 それに銀河が眉をハの字にして尋ねてきた。

う、うん。ま、まぁでも私はお願いの手紙とかそういうのやってないからそのせいかも。
銀河の許には毎年来るの?

大神銀河(おおかみぎんが)

うむ。我の日頃の行いが良いからだろうな。毎年欠かさずやって来てくれるのだ。
朝起きると我の書いた手紙が無くなっているのだから絶対に来てくれていると我は信じているぞ!

そ、そっかぁ。それは嬉しいね

大神銀河(おおかみぎんが)

うむ。だからクリスマス前は特に早く我の意識は漆黒の精神世界へと向かっている
【訳:早めに寝ている】

そっか


 微笑ましく思いつつ応じる。

大神銀河(おおかみぎんが)

そうして朝、大河とプレゼントを見せ合うのだ!
今年も来てくれたと喜びを分かち合う


 銀河は続けてそう言ったので『Fonce』のリーダーの追及が今度は大河に向かった。

小長井鬨(こながいこう)

何だ?弟も信じてるのか?

大神大河(おおかみたいが)

えっ嫌、俺はその……っ


 大河は慌てたように応じる。

大神大河(おおかみたいが)

ま、まぁ毎年プレゼントは貰ってる

 大河も何とか無難な答えを見つけたようだった。
 そんな二人のやり取りを見ながら閻さんがふと呟いた。

『Fratello』【クリスマス番外編共通プロローグ1/2】サンタクロースと願い事1

facebook twitter
pagetop