番組D

お疲れ様でしたー!

司会者

お疲れ様でしたー!


 スタッフや出演者達が口々に挨拶を交わす。

大神彩羽(おおかみいろは)

ありがとう、色羽


 番組が終わってホッとした様子の色羽にスタジオ隅に居た彩羽が声を掛けた。

大神色羽(おおかみしきは)

おう。何とかなって良かったぜ。普段から兄貴の無茶振りに付き合ってるせいかもな

大神彩羽(おおかみいろは)

ふふっ感謝はしてるわよ

大神色羽(おおかみしきは)

とか言いながらもどうせ無茶振りを辞める気はねぇんだろ……

大神彩羽(おおかみいろは)

まぁそれはあるけど

大神色羽(おおかみしきは)

やっぱりかよー

 色羽は呻くがその表情はすぐに笑顔になる。

 そんな時、収録で明るくなっていたスタジオの電気が再び消えた。

大神色羽(おおかみしきは)

ん?何だ?又トラブルか?

 色羽が慌てたように辺りを見回したその時だった。
 突如ピアノとギターの音がしたと思ったらスタジオ中から歌声が響いた。

全員

ハッピバースディトゥーユー♪

大神色羽(おおかみしきは)

え?


 色羽は突然の事に付いて行けず思わず困惑の表情を浮かべるが、歌は続いた。

全員

ハッピバースディディア色羽社長。ハッピバースディトゥーユー♪


 そして最後のフレーズが終わるとあちらこちらからクラッカーの音が響いた。
 続いてスタジオの入り口からケーキが台に乗った状態で運ばれてくる。

 暗闇を唯一照らす蝋燭の明かりに包まれるようにして『Happy Birthday Shikiha』と書かれたチョコが目に入る。

大神色羽(おおかみしきは)

そっか今日は……俺の誕生日だったか


 色羽はその演出に唯驚きながらやっと気付く。

大神彩羽(おおかみいろは)

色羽、誕生日おめでとう。何時も貴方には感謝してるのよ


 皆の代表役を務める彩羽が言う。

大神彩羽(おおかみいろは)

さぁ火を消して頂戴

大神色羽(おおかみしきは)

おう、ありがとうな、兄貴、皆……


 色羽は熱い物が込み上げるのを感じながら蝋燭の日を一気に吹き消した。

 それにどこからともなく拍手が起こり、それから明かりが点く。

冬夏桐波(とうかきりなみ)

社長イケメン過ぎるよー、俺達の誕生日は忘れない癖に自分の誕生日忘れてるとか

冬夏藤空(とうかふじぞら)

自分達だって貴方には感謝してるんですからね。
祝わせないとか辞めて下さいよ


 ピアノを弾いていた桐波とギターを弾いていた藤空が並んで小言を言いに来る。
 それを苦笑で迎えながら密かに考えた。

大神色羽(おおかみしきは)

だから今日はやけに結婚結婚言われてたのかなぁ

 そんな色羽の様子を見ながら彩羽は妖艶な笑みを浮かべて種明かしをする。 

大神彩羽(おおかみいろは)

ふふっサプライズ大成功ね。
敢えて色羽に助言者の代役を務めさせて他の仕事が入らないように調整した甲斐もあったってものだわ

大神色羽(おおかみしきは)

……マジかよ兄貴―

大神彩羽(おおかみいろは)

誕生日位は休みなさいな。
毎日休み無く働いてるんだから

大神色羽(おおかみしきは)

ちぇー……又してやられたかぁ。
悪かったな、『fratello』の皆も兄貴の横暴に付き合わせて


 そう言えば大神兄弟を筆頭とした『fratelloプロダクション』のメンバーも集まって来る。

大神銀河(おおかみぎんが)

何を言っておるのだ、叔父上。我等は皆嬉々として参戦したのだ。
謝られる筋合いは無いぞ

大神大河(おおかみたいが)

叔父さんの事だからこうでもしないとどうせそのまま誕生日忘れて普段通り過ごすに決まってたしね

大神色羽(おおかみしきは)

まぁそれはある、かな

小野寺蘭(おのでららん)

色羽社長にもお世話になっているから、返さないといけないと思っていたんです。
気に病まれる必要はありませんよ

小野寺蓮(おのでられん)

気にする位なら今後も俺等にしっかり仕事回せって話っすね

大神色羽(おおかみしきは)

ははっそうだな。ありがとうな

中将翔夜(ちゅうじょうしょうや)

色羽ちゃんの泣き顔見れて僕満足だし、チャラで良いよー

中将終夜(ちゅうじょうしゅうや)

翔夜、御前なぁ……まぁ俺達も喜んで参加したんで大丈夫ですよ

天領蘇芳(てんりょうすおう)

ふふっ色羽社長ももう少し自分が愛されている事に気付いて下さいね

大神色羽(おおかみしきは)

ああ、しっかり伝わってきたよ

天領浅葱(てんりょうあさぎ)

当然個別のプレゼントも郵送で贈ってあるから是非使ってください。
この美しい私が選んだのだからきっと気に入る筈です

大神色羽(おおかみしきは)

おう、ありがとう。後の楽しみにさせて貰うよ


 色羽はそれぞれに応答しながら笑顔になる。

 そんな様子を見ながら頃合を見計らった彩羽が言った。

大神彩羽(おおかみいろは)

それじゃあ皆明日の仕事もあるから……今日はここで解散。
真っ直ぐ帰りなさいね

 それに頷いたアイドル達やスタッフ達は挨拶をしつつ順番にスタジオを出て行った。
 残ったのは色羽と彩羽、銀河、大河の四人だ。

大神彩羽(おおかみいろは)

色羽、この後予定無いなら家でも祝うけど、どうする?


 彩羽が問い掛けると色羽は少し考える素振りをした。

大神色羽(おおかみしきは)

そうだな……その気持ちは有難いけど、俺今夜遅くなる予定なんだわ

大神銀河(おおかみぎんが)

叔父上が夜に仕事以外で外出とは珍しいな

大神色羽(おおかみしきは)

まぁ大人だからなー、色々あんだよ

大神大河(おおかみたいが)

まぁ叔父さんの立場的にも出て可笑しく無いよね

大神彩羽(おおかみいろは)

それじゃあアタシ達は先に帰りましょうか。
銀河も大河も着替えてきなさい

大神銀河(おおかみぎんが)

了解した

大神大河(おおかみたいが)

うん、わかった


 彩羽が言えば二人はすぐに従いスタジオを出て行った。

大神彩羽(おおかみいろは)

それじゃあアタシも着替えて帰る事にするわ。後でね


 そう言って彩羽もスタジオを出て行く。
 色羽一人になると今までの騒がしさが嘘のように静かになった。

大神色羽(おおかみしきは)

さて、と


 彩羽を見送った色羽はポケットからスマホを取り出す。
 そうしてある電話番号にかけた。

 数回のコール音の後、すぐに応答が返る。
 それに思わず笑顔を浮かべながら色羽は口を開いた。

大神色羽(おおかみしきは)

あ、プロデューサーちゃん?俺、色羽だけどさ。
朝の約束覚えてる?


 電話相手はプロデューサーだ。
 朝更衣室に向かった時に色羽は彼女とある約束を交わしていた。

はい、一緒にお食事でしたよね

大神色羽(おおかみしきは)

そうそう。そんじゃあ今から迎えに行っても良いかな?

はい、お待ちしています

大神色羽(おおかみしきは)

うん、そんじゃあなー

はい、又後で

 短い会話で通話は切る。
 それから色羽は大事そうにスマホの画面を見詰めた。

 そんな時……

大神彩羽(おおかみいろは)

色羽、やっぱり御前……彼女の事

 スタジオを出た筈の彩羽の声がして、彼が戻ってくるのが見えた。

 普段より低目の声で話し方も男だ。
 彩羽は色羽と二人の時はそれが普通だった。

大神色羽(おおかみしきは)

あー兄貴。やっぱ聞いてたか


 色羽は特に驚いた様子も無くそう返す。

大神彩羽(おおかみいろは)

知っててドアも閉めずに彼女に電話掛けただろ?

大神色羽(おおかみしきは)

うーん、まぁな。
今日朝色々と言われてさ。すこーしだけ意識しちゃったんだよねぇ


 軽く返す色羽に対して彩羽は真剣な表情だ。

大神彩羽(おおかみいろは)

……彼女が好きなのか?

大神色羽(おおかみしきは)

好きといえば……好きかな。
でも俺のこれはまだあいつらとは違う。……ファンみたいなもんだよ

大神彩羽(おおかみいろは)

……そうか

大神色羽(おおかみしきは)

頑張ってる娘(こ)ってのはさ、やっぱり見守って応援したいって思うだろ。そんだけさ

大神彩羽(おおかみいろは)

敢えて言う辺り怪しいと思うけど、信じて良いんだろうな

大神色羽(おおかみしきは)

ああ。俺は嘘は言わねぇ。知ってんだろ

大神彩羽(おおかみいろは)

……まぁそうだな


 重々しく頷く彩羽に色羽は彼が何を思っているのか簡単に予想がついた。

大神色羽(おおかみしきは)

銀河と大河が彼女を好きなのを知ってるから……俺が好敵手になったら可哀想だし落ち込んだり傷付くんじゃないかって思ってるんだろうな

大神色羽(おおかみしきは)

だからまだ大丈夫。兄貴が心配するような事はしねぇよ。
俺だって甥は可愛いんだ。わかってるから兄貴だって今日は彼女との時間を作れるように配慮してくれたんだろ?今日の収録に彼女の姿が無い辺りで何となく予想はついたよ

大神彩羽(おおかみいろは)

……まぁ御前を騙すのは容易じゃないからな、想像はしてたさ

大神色羽(おおかみしきは)

つってもまだ、だけどな。
俺だってあいつらの恋は応援してやりてぇよ。でも俺だって人間の男だからな。彼女を好きにならねぇ保障はねぇ。
それは兄貴にだって言える事だと思ってるぜ。違うか?

大神彩羽(おおかみいろは)

……相変わらずお前は痛い所をつくな

大神色羽(おおかみしきは)

まぁ馬鹿で居られるような立場でもねぇからな。
でもそうなったらそうなったで妨害なんてナンセンスだろ?結局どうしようと選ぶのは彼女なんだから。
わかったらこの話は終わりにしようぜ。彼女との約束は俺だって楽しみにしてんだから

大神彩羽(おおかみいろは)

……わかった。確かに俺が制限するのも違うしな……。
唯一つだけ言わせろ

大神色羽(おおかみしきは)

何だ?

大神彩羽(おおかみいろは)

彼女を泣かせるような事だけは絶対にすんなよ。それは俺でも許容出来ない

大神色羽(おおかみしきは)

おう、わかってるさ。そんじゃあ俺は行く。
取り敢えず今日は兄貴もありがとうな

大神彩羽(おおかみいろは)

ああ


 応じた彩羽の横を通り、色羽はスタジオを出る。
 何かが始まるような予感に胸を高鳴らせながら。

『Fratello』【大神色羽誕生日番外編5/5】始まる予感5

facebook twitter
pagetop