色羽は桃太郎を抱えたままある家の前に到着する。
空気を入れ替える為に空けた庭へ通じるドアの向こうで食卓を囲む仲睦まじい夫婦が居た
 戸が開いているので会話がダダ漏れだ。

???

今日の食事も上手いぞ郁江(いくえ)

郁江

ふふっ貴方がそう言ってくれるから作り甲斐がありますよ

???

郁江の飯は儂からすると世界一じゃ。そうそう郁江、今夜は……

郁江

あらやだ和郎(かずろう)さんたら。こんな朝早くもう夜の話なんて

和郎

照れる事でも無いじゃろ?毎日の事なんだから

郁江

それでも恥ずかしいんですよ、和郎さん。そんな話をすると夜の事を思い出して


 ハートのエフェクトが飛びそうな甘々な会話をする新婚みたいなその老夫婦こそが桃太郎の飼い主だ。

大神色羽(おおかみしきは)

……やっぱりか


 色羽は苦笑した。
 桃太郎の脱走癖は飼い主が構ってくれないからだという事は色羽もご近所さんも知っている。

 庭から突撃するのは憚(はばか)られるのでチャイムを押せば慌てて応対する声が返った。

郁江

は、はーい、どちら様?

大神色羽(おおかみしきは)

おはよう、郁江ばーさん。
俺、色羽。桃太郎を届けに来たんだけど

桃太郎

わんわん!


 色羽の声に応えるように抱えている桃太郎も鳴いた。

郁江

あれまぁ又脱走したの……?すみませんねぇ。今行きますから

大神色羽(おおかみしきは)

おう、待ってる


 色羽が応じるとすぐにドアが開いて仲良く手を繋ぎながら出てくる夫妻の姿が見えた。
 がっつり恋人繋ぎである。

大神色羽(おおかみしきは)

相変わらずすげーわ


 色羽はそれを苦笑で見ながら言った。

大神色羽(おおかみしきは)

和郎じーさんもおはよう。
ニ人とも仲良いのはわかるけど、たまには桃太郎にも構ってやれよ。寂しくて脱走するんだから

郁江

きゃあ仲が良いですって和郎さん

和郎

儂等の愛は外にも筒抜けのようだのぅ


 再び愛を囁き出す二人に抗議するように桃太郎が鳴く。

桃太郎

わんわんっ

大神色羽(おおかみしきは)

ほら、桃太郎が呼んでる


 苦笑で色羽が言えば和郎が桃太郎を受け取った。

和郎

桃太郎、悪かったのぅ。
御前も儂等の大事な子供だってのに寂しい思いをさせてしまったな

郁江

ごめんなさいね、桃太郎。今餌用意するからね。
色羽ちゃん有難うねぇ

大神色羽(おおかみしきは)

まぁ走り込みしてたついでだから。それじゃあ俺はこれで


 色羽はそう返して去ろうとする。
 その背中に和郎が声を掛けた。

和郎

色羽も良い人見付かると良いな

大神色羽(おおかみしきは)

ははは……そうだな

 色羽はそれに振り返って苦笑を返した。
 そうして夫婦に手を振ってから走り込みを再開する。

大神色羽(おおかみしきは)

良い人、ねぇ・・・今日はそんな事ばっかり言われるなぁ……


 そのせいか、走り込み中に幸せそうなカップルの姿ばかりが目に付く。

大神色羽(おおかみしきは)

恋愛、か……俺もそろそろ本気出した方が良いのかな


 そう思った色羽の脳裏にはある女性の姿が思い浮かんでいた。

大神色羽(おおかみしきは)

ただいまー

 走り込みを追え、事務所に着いたのは八時半頃。
 約束の時間は九時なので着替えを済ませたら丁度良い位だろう。

 事務所には既に先客が居て、肩に掛かる癖毛をシュシュで結んだ黒髪で今にも寝そうな冬夏藤空と対照的に目が覚めている様子の弟、冬夏桐波が迎える。

冬夏藤空(とうかふじぞら)

社長、朝から元気ですね……自分はもう眠たくて

冬夏桐波(とうかきりなみ)

おはようございます、社長。今日も朝から走り込み?流石兄さんとは大違いだね。
この人朝まで小説書いてたみたいでさ……

大神色羽(おおかみしきは)

まぁ藤空がPC眼鏡にシュシュだからそうだと思った。
仕事中に寝ないように見張ってくれよ、桐波

冬夏桐波(とうかきりなみ)

うん、任せて下さい


 桐波の敬語とタメ語が混ざるのも何時もの事なので特に色羽は気にしない。

大神色羽(おおかみしきは)

そんじゃあ俺着替えてくるから、仕事内容確認位はしといてくれ。
藤空は仕事モードになっとけよ

冬夏藤空(とうかふじぞら)

了解です

冬夏桐波(とうかきりなみ)

わかりました


 二人が頷き色羽が更衣室へ向かう。
 藤空が眼鏡とシュシュを外して髪を整え始めた為、桐波が予定を確認した。

 とはいえ本日の予定は好敵手事務所というか連動事務所の彩羽の所のアイドル達との仕事だけだというのはかなり前から二人とも把握していたのでちら見して雑談を始めるが。
 話題に上るのは色羽の事だ。

冬夏桐波(とうかきりなみ)

ねぇ兄さん、あれってさ……

冬夏藤空(とうかふじぞら)

予想してたけど、やっぱり社長……自分の誕生日忘れてる気がするね


 本日は11月29日。まさに色羽の誕生日だった。

冬夏桐波(とうかきりなみ)

普段日付忘れてる兄さんでさえ覚えてたのに本人がまさかね……

冬夏藤空(とうかふじぞら)

まぁだからこそ彩羽さんが今回の仕事入れてるんでしょ?流石だよねあの人……

冬夏桐波(とうかきりなみ)

返ってサプライズ成功になりそうで良いけど……他人の誕生日覚えてやっぱり自分の誕生日忘れるとか流石というか何というか……

冬夏藤空(とうかふじぞら)

何と言うかあれだよね……

冬夏桐波(とうかきりなみ)

うん、あれだよ本当に……


 言いながら2人は嘆息し、続けてハモった。

藤空&桐波

本当にモテる男は違うなぁ……

 言った後再び嘆息し、誰が聞いてる訳でも無いのに桐波から小声で話し出す。

冬夏桐波(とうかきりなみ)

しっかしあれで結婚しないって……

冬夏藤空(とうかふじぞら)

選び放題なのに絶対鈍感で好意に気付かないせいだよね……

冬夏桐波(とうかきりなみ)

あれかな?それこそ乙女ゲームのヒロインとかハーレム漫画の主人公とか少女漫画のヒーローみたいなさぁ……そういう星の許に生まれたって事なのかな

冬夏藤空(とうかふじぞら)

嫌々、リアルにそんなの無いでしょ

冬夏桐波(とうかきりなみ)

でもあの性格他に何て表現するの?

冬夏藤空(とうかふじぞら)

確かにそういわれると困るなぁ……


 そうして2人が考えを巡らせ始めた時、スーツ姿の色羽が戻って来た。

大神色羽(おおかみしきは)

予定確認終わったか?

冬夏藤空(とうかふじぞら)

ああ、はい。まぁ

冬夏桐波(とうかきりなみ)

うん、見ましたよ一応


 二人は曖昧に応えるが、色羽は気にした様子は無い。

大神色羽(おおかみしきは)

そんじゃあもうすぐ相手方が来るから下手な対応しないようにな~。
とはいえ知り合いだからそう気難しく考えなくても良いけどな

冬夏藤空(とうかふじぞら)

はい

冬夏桐波(とうかきりなみ)

うん


 藤空と桐波はそれに頷き合い、続いて密かに目配せし合った。

冬夏藤空(とうかふじぞら)

行動開始だ!!

冬夏桐波(とうかきりなみ)

頑張ろう

『Fratello』【大神色羽誕生日番外編2/5】始まる予感2

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