私、何も望むものは
ありませんでした

―――

………っ、

少し前まで、の話ですけどね

ただ、姉さまが傍にいてくれれば、
この海は祝福の音で満ちていました

「海しか知らない」
そうかも知れない。だから、どうと言うのです。
この世の全てを私たちは知れると言うのですか

この世で、知れるものなど限られているのです
だから、知っているものが幸せ。
それでいい。それが、いいのに。

何故、そこまでして、
世界を知りたかったのですか

それは、私よりも、
大事なものだったというのですか

「姉さま、姉さま」

「わたしは、いらないのですか」

姉さま!
わたし、いりますか?

なんて、なーんて

世界を知ってから、
相手にもしてくれないのでした

陸に恋した姉さまは、
ずっと、ヒレを脚にしてすごしました

陸に恋した姉さまは、
何故か歌うことはなくなりました

とうとう
姉さまが、海からいなくなりました。

それは、三日月の綺麗な夜でした

そして、反対側に
三日月が映った夜のことです

―――!

私の手元に、
姉さまの持ち物が届けられて

わたしは、
全てを理解しました

もうね、姉さまは戻ってこない。
この世界にいるけれど、もう、いないのです

優しかった姉さんの、
形見を見て笑いました。

そして、少しの、大きな憤りを感じました。

………


こんなもの持ち歩く人じゃなかったのです

ねえ、姉さま。

姉さまはね、きっと恋をして、
世界を知ったのだと思います。

でもね、姉さま。
短剣を持ってまで、する恋なんて

いりますでしょうか。

そんなものを、
恋と呼ぶのなら――

この世から、恋など
なくなってしまえって

思うのです。

まるで、世界に
喧嘩売ってるみたいですが

家族愛に勝る、
恋などあるのですか

……なんて、

「恋」なんて余所者に、
わたしの大切を奪われたから

ちいさな、ちいさな腹癒せなのです

でも、もし
泡になった姉さまを見つけたら

それが、何の役に立たないとしても
みすぼらしいとしても

わたしたちは、
「側にいたい」って想うんです。

曖昧な愛妹の極端な愛

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